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舞い踊る天空の星々  作者: Jint


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42.宴の始末

 クインと慎也の独裁体制は終焉を迎えた。クインは捉えられ、慎也は自ら命を絶った。

 しかし、絢斗たちの終着点はここではない。残った学生たちを地球に生還させるためには、やらなければならないことが山のようにある。ここで立ち止まるわけにはいかなかった。


 中央管制室には絢斗たちグループが集まっていた。見慣れた顔ぶれだが、そこに勝利の喜びをたたえる者はいない。これから先のことについての話し合いの最中で、自分たちを取り巻く状況が悪化の一途をたどっていることを聞いて、皆一様に暗い顔をしていた。


「トクタル、フリストスと一緒に食糧倉庫の外壁を修理してくれ。あそこにはまだ備蓄された食糧が山ほど残っているはずだ」

 壁に背を預けて他人事のように聞いていたトクタルは、絢斗から突然声をかけられて驚いた。

「そりゃあ、前にもやっていたから構わないが、それなりに人手は欲しいぞ」

「ああ、優先的にそちらに回す。お前が監督してやってくれ」

「っても、俺は一年だぜ。先輩たちが素直に指示に従うか?」

「年功序列を守っているような余裕は最早ない。やれる奴にはやってもらうからな」

「お、おう」

 絢斗の有無を言わさぬ口調にトクタルはたじろいだ。

「トクタル、僕も手伝うから、なんとかなるよ!」

 フリストスはいつもの天真爛漫な笑みを浮かべてトクタルを励ました。


「ガネッシュとシーユウは残っている食糧をかき集めて、みんなに配ってくれ。この際、多少大盤振る舞いでも構わない。動揺している生徒たちを落ち着かせて欲しい」

 絢斗たちはまだ学生たちに安心できる未来を提示できていない。不安に駆られた者たちが暴発するようなことは避けたかった。

「了解、隊長さん」

 シーユウは絢斗に向けておどけて敬礼のまねをした。

 少し不安になった絢斗は、ガネッシュに目配せをする。ガネッシュは絢斗の合図に気付いてため息をついた。


 ――シーユウが暴走しないように見張っておけってことですよね。わかっていますよ、自分の役割は……。


「レーシャとラクウェルはみんなから相談を受けて、適切な対応をして欲しい。援助が必要な者がいれば、君たちで判断してくれていい」

 元からレーシャが願っていたことだ。絢斗から改めて言われるまでもない。レーシャは否応なく首を縦に振った。

 ラクウェルは少し首を傾げる素振りを見せたが、その場は素直に絢斗に従った。


「エミリオと俺は外に飛び散った食糧の回収に行く。少しでも無駄にはできないからな」

 絢斗は意気消沈しているエミリオに目を移す。うわの空で返事を返すエミリオは、明らかに精彩を欠いていた。


「どうして……」

 話し合いを終えて、それぞれが担当の仕事に向かおうとしたとき、ラクウェルが呟くように言った。

「どうして、エミリオ先輩でなく、絢斗先輩が仕切っているんですか?」

 絢斗はどう説明したものかと考えて少しの間、言い淀んだ。

「ラクウェル、俺は……」

 エミリオが何かを伝えようとして、決心がつかないように歯を食いしばった。

 絢斗はエミリオからリーダーを託されたときのことを思い出していた。



 絢斗とエミリオはフィンの下を訪れていた。エインヘリャルに取って代わった形になる絢斗たちのグループだが、人的リソースは足りてない。警備科以外の者たちには少しでも手伝ってもらえないか、口説き落とそうと足を運んでいた。


「断る!」

 フィンはエミリオの顔を見るなり、ものすごい剣幕で吐き捨てた。

「フィン先輩、聞いてくれ。俺たちはみんなを地球に生還させるために動いているんだ。力を貸してくれないか?」


「慎也を殺したお前が皆を助けるだと?!」

 フィンの罵倒を聞いて、エミリオの身体に電気が走ったような震えが襲う。

「……先輩、あれは慎也が自ら命を絶ったんです」

 エミリオの様子がおかしいことに気付いて、絢斗が代わりに弁明した。フィンは恐らく何もかもわかった上で感情をぶつける先を探しているのだ。


「お前たちが慎也を追い詰めたんだ。シアの、シアの身だって危なかった。もう少し気付くのが遅かったらと思うと、私はいつも気が気でならない。アイツらがお前たちの仲間じゃないのか?!」

 フィンが激高して声を荒げる後ろで、女性がすすり泣く声が漏れ聞こえてきた。シアはフィンの部屋で一緒に暮らしているのだろう。片時も離れたくないのはフィンの方なのか、シアの方なのか、あるいは二人ともなのか。


「彼らは拘禁しています。もう顔を合わすこともないでしょう」

 絢斗はフィンの神経を逆なでしないよう、冷静さを保って語りかけた。

「これがお前たちの正義なのか! エインヘリャルを倒して何か良くなったか?! お前たちがやっていることは、皆を乗せた船を海図のない場所に導いているにすぎない」

 フィンの怒りは簡単には収まらないだろう。今は何を言っても無意味だと感じた絢斗は、エミリオを引っ張って、逃げるようにフィンの部屋を後にした。


「絢斗、俺たちのやって来たことは、正義ではなかったのか?」

 通路を歩きながら、エミリオが呟くように問いかけた。

「正義かどうかなんて俺にはわからない。だけど、必要なことだったと信じている」

「俺だって今まで信じていたからこそ、ここまで来たんだ」

「俺たちは神様じゃないんだ。全てを見通すことなんてできないさ」

 絢斗は自分のできることの限界を知っていた。何もかもを背負って自家中毒に陥るよりは、少しでも手を動かさなければ何も変わらない状況を。


「わかってる。でも、今は怖いんだ。自分が決めたことの結果を背負うことが……」

「そうか」

 エミリオの心の奥底から絞り出すような叫びに、絢斗は素っ気なく答えた。

 エミリオの気持ちは誰もが感じることだ。判断したことがもし間違っていたら、途中で上手くいかなかったら。成功の喜びはみんなで分かち合い、失敗の責任は自分だけが負う。見返りの少ないトップの座に誰が就きたいと思うだろうか。


「悪い、絢斗。お前がリーダーになってくれないか?」

 エミリオはいつもの軽いノリからほど遠い、すがるような目つきで絢斗を見つめた。

「……わかった。だが、休めると思ったら大間違いだからな」

 絢斗の答えに少し安心した様子のエミリオは苦笑を返す。

「精々、働かせてもらいますよ」



「俺たちに迷っている時間はないんだ。誰かが仕切る必要があるなら、俺にその役をやらせて欲しい」

 絢斗は曖昧にしていた自分の決意を語って、ラクウェルに向き直った。

「エミリオ先輩の方が……、エミリオの方が優しくて、いつもみんなのことを考えていて、誰よりも正しいはずなのに!!」

 愛くるしかったラクウェルの顔が強い怒りで醜く歪んでいる。自分を慕っていた後輩の突然の豹変に絢斗は驚きで身をこわばらせた。

「先輩がエミリオを引きずり落としたんだ! 私はそんなこと認めない!!」

 ラクウェルはテーブルに置かれたペンを手に取って胸の前で構えた。


 ――エミリオがリーダーに相応しいの。エミリオじゃなきゃダメなのに。いつも、いつも助けてくれたのはエミリオだけだった。ううん、わかってた。周りの人たちはみんな私を食い物にしただけだって。舐めて、噛んで、味がしなくなったら捨てられるガムのよう。お母さんだって私のことを邪険にして。帰ってきて欲しかったのに。そばにいて欲しかったのに。でも、そのおかげでエミリオに会えた。あの人は私の光、救いの手、私の恋人。もう離れないで欲しい。触って欲しい。抱いて欲しい。なのに、なのに、なんで先輩が邪魔するの!!





 


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