22.尋問の行方
「お前ら……、一体、何やったんだよ?」
エミリオと絢斗が連れて来られた狭い部屋の中には、渋い表情のアミールレザーが待っていた。部屋には他にも見た顔が二人並んでいる。以前、エミリオが助けに入った後輩たちだ。
アミールレザーはいつも飄々のとした態度とは異なり、あまり機嫌が良く無さそうだった。尋問が長引かないことを願い、エミリオは天井を見上げてため息をついた。
「ため息をつきたいのは俺の方だ……」
渋い表情をさらに歪めるという難題を事もなげに成し遂げたアミールレザーは、エミリオの肩に手を置いた。
「いやあ、先輩の手を煩わせるつもりはなかったんですが、コイツがトラブルに巻き込まれる星の下に生まれた可哀想な男でして」
エミリオは隣の絢斗を指差して眉間にしわを寄せて見せる。
「待て、俺は助けを求められて一緒に付いていっただけだ」
「ああ、いやだねえ。主体性もなくただ流されて捕まりましたとか言い訳にしても酷いぞ」
不本意そうな顔をする絢斗にエミリオはしたり顔で非難した。
「ああ、わかりました。わかりましたよ。俺は自分の意思であの場に行ったよ!」
エミリオがもう一度絢斗を指差してアミールレザーに向き直る。
「聞きましたか!? コイツが主犯です!」
「ちょっ、おまっ! 違う、違います!」
大慌てで否定するように絢斗が両手を胸の前で振った。
「……大体、事情はわかったから落着け、絢斗」
渋面だったアミールレザーも含み笑いを抑えられなかった。
場の雰囲気は和らいだが、笑いのタネにされた絢斗は不満げに腕を組んでいる。
「面白い人たちだね、ガネッシュ。私たちもなんかネタを披露しようよ」
「……シーユウ、僕たちも捕まっているんだから大人しくしておこうよ。それにそんなネタ、仕込んでないでしょう?」
ガネッシュは盛大にため息をつくと、こめかみに指を当てて揉んだ。
「……とまあ、俺たちは警備科に絡まれていた配膳係の女の子を助けるために飛び込んだわけです。言っときますが、先に手を出したのはアイツらですよ」
エミリオは撃墜マークを誇るパイロットのように胸を張って武勇伝を語る。徐々に興が乗ってきたのか話に身振り手振りが加わった。
「なんとなくだが、その時の情景が目に浮かぶな」
忍び笑いを漏らしたアミールレザーは尋問中だったことを思い出し、一つ咳をしてみせた。
「それで、そっちの二人はどうしたんだ?」
「アイツら、いっつもガネッシュに絡んでくるのよ!」
シーユウは近所の奥さんに愚痴を聞いて欲しいような話し振りだった。アミールレザーは尋問の意味がわかっていなさそうなシーユウに含めるように話しかけた。
「あー、確かにアイツらに非があるだろう。しかし、後ろから消火器で殴って昏倒させた後、拘束しようとした三人の顔を引っ掻いて傷だらけにしたのはいただけないな……」
「じゃあ、大人しくされるがままになってろって言うの!?」
「そうは言ってねえよ。要するにやり過ぎると奴らも抑えが利かなくなるってことだ」
「やり過ぎなきゃいいんですか?」
「そりゃ、毎回抵抗してくるような奴は、面倒くさくて絡みたくなくなるだろうよ」
「むっ、それならわかりました……」
不本意そうに口を尖らせながらもシーユウは頷いた。
「警備科の奴らは施設の治安維持のために監視任務に就いている。これはエインヘリャルの決定だ。我々は施設の秩序を回復するために全力を尽くす」
苦々しい表情がアミールレザーの内心を表しているようだった。
「で、先輩は何してるんですか?」
エミリオの問いは二重の意味を含んでいたが、アミールレザーは気付かない態を装った。
「……監視だ。警備科の、な」
「はあん、監視役の監視ですか? 随分面倒なことをしますね」
自分の境遇を自嘲気味に笑うアミールレザーにエミリオは追及の手を緩めなかった。
「よせよ、エミリオ……」
絢斗が止めようとするが、エミリオは聞くつもりがない。
「こんなのは氷山の一角ですよ。事の大小はあっても至る所で起こっている。秩序の維持?! 恐怖で縛っているだけじゃないですか!」
エミリオの怒りは当然のことだった。権力を持った警備科の者たちは今や自制が利かなくなっている。暴走していると言ってもいい。慎也に抑える気がないとなれば、対処療法とはいえ、アミールレザーが火消しに回るしかなかった。
「お前の言うことはもっともだ、エミリオ」
自覚していたことだったが後輩から指摘されると、より深い絶望がアミールレザーを襲った。
「自分だけが理解者のつもりですか? 何も変えられないのに!」
「エミリオ! 言い過ぎだ!」
絢斗がエミリオの肩を掴んで引き留めた。熱くなり過ぎたことに気付いてエミリオは深呼吸をした。
――こんな気持ちになるのは、故郷の警官と同じ腐敗臭が鼻につくからか?
「……もう一度、エインヘリャルで話し合ってみよう」
望み薄だとわかっていてもアミールレザーには、そう約束するしかなかった。
「はあ、わかりましたよ。俺も先輩を責める気はないんで」
エミリオは行き場のない怒りをアミールレザーにぶつけていたことを悟って矛を収めた。
「エミリオ、偉そうに言ってるけど、あんたは犯罪者なんだからね。アミールレザーの温情に感謝しなさいよ」
シーユウが薄い胸を張って言い放った。
「お前……、どの口が言ってんだ? お前だって犯罪者だろうが」
「いひゃい、いひゃい」
エミリオはシーユウの頬をつねって引っ張り上げた。
「大体、俺はお前らの先輩だろうが!? もうちょっと敬意を持ってだな……」
「私、犯罪者を敬うような奇特な性格じゃないんで」
痛む頬を両手で撫でながらシーユウは呟く。
「なっ、絢斗、この生意気な後輩になんとか言ってくれ!」
絢斗は心の中でシーユウにスタンディングオベーションを送る。女の子に振り回されるエミリオなんて貴重な見世物を見せてくれたことに。そして、曖昧な笑みを浮かべて二人をなだめにかかった。
――シーユウ、キミの空気の読めなさに今日は敬意を示すよ。
ガネッシュは完全に傍観者となってそう思った。




