13.不穏な空気
「食糧の消費量が計画と合わないだと?」
「そうです、これを見てください」
クインが端末に映し出されたグラフを見せた。一日単位で食糧の消費量が記録されているが、大きく跳ね上がっている日が何日かある。同時に食糧の残量は当初の予定より早く枯渇しそうな勢いだ。
「かなり差が出ているな……」
「このままでは救助隊が来る前に食糧が尽きるでしょう」
「原因はつかめているのか?」
「食堂のシフトとグラフを照らし合わせてみました。特定の生徒がシフトに入っているときに消費量が跳ね上がっています」
フィンは大きくため息をついた。全員が生き残るために協力しなければならない状況で恣意的な行動をする生徒がいるなど信じたくはなかった。だが、数字は真実を語るのみだ。ねつ造された数字でない限り、誰かがこの小さなコミュニティを滅亡に追いやろうとしている。
「すぐにそいつを止めさせろ!」
「関係者は連座させますか?」
「明確な基準があるわけではないが、事情は考慮されるべきだろう」
「わかりました。先ずは容疑者を尋問して事実関係を洗い出しましょう」
クインは酷薄そうな笑みを浮かべて中央管制室を後にした。
倉庫では食糧の運び出しが行われていた。学生たちは額に汗を浮かべて棚から降ろした重い荷物を食堂へ運んでいる。
女子の一人が血の気の引いた顔で通路の壁にもたれかかって座り込んでいた。作業監督者の男はその様子を見てすぐさま駆け寄る。
「キミ、顔が真っ青だぞ。大丈夫か?」
「ちょっと、貧血気味で……」
「今日は休んでいいから、医療室で診てもらったらどうだ?」
「すみません。そうします」
監督者の男は横を通りかかった別の女子に声をかけ、医療室に付き添うように頼んだ。
休憩時間、荷物を運んでいた男子たちが倉庫の片隅で足を投げ出して車座になっていた。話すことは他愛もない話題ばかりだ。
事故の直後は先行きの不安から悲観的な空気が流れていた。
しかし、ある程度の生命の安全が保障され、救助隊が来るまでとの明確な目標が見えたことによって、学生たちの間には弛緩した空気が大勢を占めるようになった。
「そういやアイツまた休んでいるらしいな」
「体調不良だって?」
「昨日、楽しそうに飯食ってるの見たぜ」
「仕事もしねえで飯食ってるとか、いい身分だな」
「アレだろ? 監督してるヤツの女だって噂だ」
「マジかよ。自分だけ女侍らせて、オレたちに指図とか」
「もうこんな仕事やらねえでいいじゃないか?」
「どうせ監督してるヤツの功績になるだけだしな」
どこまでも当事者意識のないまま学生たちの不満は拡大し、一部の学生のサボタージュへと発展した。強制力のないエインヘリャルは説得により事態を収拾しようとしたが、お互いの不信感を払しょくできずに終わった。
一方、サボタージュに参加しなかった生徒たちは作業者が減ったしわ寄せでノルマが増えたことにより、静かに不満を貯めていった。
誰もが幸せにならないまま、誰もが不満を抱える悪循環により、一見順調だったエインヘリャルの体制にも綻びが生じつつあった。
「教えてもらいましょうか。食糧をどうしたかを」
クインは両腕を結束バンドで拘束されて座らされている小太りの男を睨み付けた。
「知らないよ。ボクが何をしたって言うんだ……」
「証拠は既に挙がっています。私は食糧の行方を聞いているのです」
「ボクは何もやってないよ……」
小太りの男は力なく項垂れた。
こうして愚図愚図と否定していれば光明を見いだせると本気で信じていそうな頭の悪さにクインは反吐が出る思いだった。
――想像力の欠如だ。自分のために誰かが何もかもお膳立てしてくれると信じている。自分の人生の主人公は自分だが、他人がそうだと考えてくれるわけではない。軽薄で短絡的な思考パターンは矮小な精神を守るための自己保全か……。
「あなたは現状が理解できているのですか? 我々に残された食糧は限りがある。救助隊が来るまでやりくりしなくては、早晩餓死者がでることでしょう。もちろんあなたの責任だ」
「そ、そんなつもりは……」
「あなたの思惑などどうでもいい。食料が失われたことによって起こり得る確実性の高い未来なのです!」
小太りの男は鼻をすすりながら涙をこぼした。
「さあ、全てを話してください」
クインの言葉に従って小太りの男は訥々と語り始めた。




