1-2(4-6階層)
「おい、さっさとその袋をこっちによこしな」
「痛い目にあいたくはないだろう?」
「さっさと渡せば見逃してやるぜ」
信が4階層に降りると3階層で会った男達が壁際に座っている学ランを着た少年2人を囲んで恐喝をしていた。同じくセーフティーエリアにいた学生達は距離をとってみて見ぬふりをしている。
「そ、そんな…これが無くなったら僕達は…」
丸メガネをかけてぽっちゃりとした体形の少年は男達と目を合わせないように俯きながら防災バッグ強く抱きしめた。
「そ、そうですよ。僕達に死ねというのですか!」
もう1人のもやしのように細い少年は顔をあげて、勇気を振り絞って男達に抗議する。しかし、真ん中に立っている男が「なんか言ったか。もやし野郎!」と胸倉をつかんで脅すとあっさり「す、すみません」とあっさり謝った。
「ちっ。謝るくらいなら、最初から歯向かうんじゃねえよ!」
ドンっと壁に突き飛ばされた少年はその場でへたり込んだ。
信は階段の前で立っていても仕方がないので、恐喝現場とは反対側の壁際に移動して休憩をとることにした。
その間も防災バッグを巡って男達と少年達の口論というより、少年達に対する一方的な暴力が続いたが少年達を助けようとする者はいなかった。
(こういう状況を弱肉強食といのだろうか)
試練のダンジョンに警察はいない。人を傷つけても裁くための法もない。
守ってくれる親もいない。全て自己責任。生き抜くには自分自身が強く賢くなる必要がある。
少年達を助けたところで何の得もなく、むしろ助けたことで男達と戦うことになるかもしれない。
仮に男達を退けてもああいった者達は助けられた直後は表面上の感謝を述べるがその後寄生虫のように自分たちは何もせずに頼ってくる。そして、自分たちの状況をよくするためなら平気で裏切られることを何度も経験した。もうたくさんだ。
少年の1人が縋るような目を向けてくるが無視をして休憩をしていると、必死に抵抗する少年達にとうとう男達が切れた。
「よこせって言ってるだろうが!」
ドンッと勢いよく拳で顔面を殴られたぽっちゃりとした体形の少年が石で出来た壁まで吹き飛ぶ。それまで、ビンタ等出来るだけ軽めの暴力にとどめていた男達は死ぬのではないかと思えるほどの暴行を始めた。
少年達は亀のように防災バッグを抱えて取られまいとしたが抵抗空しく、最後は男達に奪われた。
防災バッグを奪われてからも男達は執拗に少年達への暴行を続け、少年達が「助けてください。何でもします」と懇願するまで続いた。
そこまでしてようやく男達の気が晴れたのか暴行をやめて少年達を見下ろしながら「仕方ねえ、ちょうど下僕が欲しかったところだ」と言って少年たちに男達の下僕になることを誓わせた。
男達は疲れたのか少年達をそのままに防災バッグから水を取り出し、浴びるように飲み始めた。
ここまで水が手に入る階層はなかった。男達にとって水を飲むのは久しぶりなのだろう。
チョコレートしかない状況では生きるためにどうしても水が必要になる。水を手に入れる手っ取り早い手段として少年達を恐喝した男達は何も持っていなかった。
石板の説明を思い出す。彼らはどう見ても悪行の方が多そうだ。
徳が『0』。いやマイナスと言われても納得できる。
徳がなければガチャガチャを回すことはできない。
それなら何も持っていなくてもおかしくないがそういった者の多くが考えることは単純だ。
『奪えるところから奪う』
なんともシンプルで簡単な方法。そして、奪う先は自分より弱い者。先ほどの少年達のような存在だ。
そしてそういう者達が調子に乗ってすることは…
「何の用だ」
こちらへ近づいてくる少年達を睨みつける。ビクっと肩を震わせた少年達の細い身体の少年が恐る恐る用件を話し始める。
「いえ、その。出来ればお持ちの短剣を頂けないかと」
短剣を見ながら話すもやしのように細い少年の目の前を予備動作なしで信は短剣を振り抜いた。「ひぃぃぃ」と悲鳴をあげながら腰を抜かすもやしのように細い少年を横目に信が「帰れ」と告げると脱兎のごとく。命令をした張本人たちの下へ帰っていった
これで終わってくれたらと信は思ったが、そう思い通りには世の中行かないようで、新たに青あざを増やした少年達を連れて男達が近づいてきた。
「おう、お前。上の階でもあったな」
周りを男達が囲んだ。男達の次の恐喝対象に選ばれた信は立ち上がり正面にいる男に視線を向ける。
「そんな重い甲冑は邪魔だろう。俺達が使ってやるから外しな」
「断る」
信が即答した内容に怒った男の1人が「さっさと寄越せばいいんだよ」と強引に奪おうとしたが…
「ぎゃあああああいてええええ」
甲冑の自動防衛機能によって、甲冑の一部が剣に変わり奪おうとした男の腕に突き刺さった。
「な、何しやがった…」
状況が理解できない残りの2人の男は目を見開いて信と怪我をした仲間を見ていた。
甲冑が元の状態に戻り、腕を抑えて蹲っている男の首を斬り落とそうと剣を抜いた信を見て、男達はやっと手を出してはいけない相手だと理解した。
男達は慌てて謝罪し、少年2人を連れてセーフティーエリアを逃げるように出て行った。
その光景を見ていた何組かが声を掛けてきたが男達に囲まれている時に助けようとせずに安全になってから声を掛ける者と仲間になればいざという時に裏切られると考え、信は相手にしなかった。
休憩を終えて、4階層に入る。
階層の広さは1階層と同じ洞窟。もうすぐ消えそうな電球のような光を放つ石が等間隔に設置された洞窟には所々に人が隠れることが出来るだけの岩が不規則に置かれている。
奇襲の可能性を考えて、慎重に移動していると、腰に布1枚を巻いた緑色のゴブリン(緑ゴブリンと呼ぶことにした)が岩陰から襲ってきた。ゴブリンは130㎝程の小さな体に勢いをつけることで自身の軽さを補う攻撃をしてきたが、それでもたいして強くなかった。
―ガキン
―ザシュ
ゴブリンの剣を円盾で防ぎ、剣で胴を薙いだ。
ゴブリンは青い血をまき散らしながら倒れて、アイテムボックスへと取り込まれた。画面にはゴブリンの死体はなく。どういうわけか<錆びた鉄剣>と<塩むすび×1包>がNewの後に記載されている。取り出してみると笹の包みと中には塩むすびが3つ並んでいた。
信は久しぶりに見たむすびを今すぐ食べたいと思ったがこんな場所で食べながら移動するのは危険なので、セーフティーエリアが見つかるまで我慢することにした。
塩むすびが入った笹の包みをアイテムボックスにしまい、5階層への階段の捜索を再開した。
その後も緑ゴブリンによる単体奇襲をされたが同じように倒していると、初めて緑色以外赤色のゴブリンと出会った。
赤ゴブリンは錆びた槍を持ち攻撃してくるのでこちらも槍を取り出して突いた。
残念なことにゴブリンサイズの槍は短く、鋼鉄製の槍の方が長い。
赤ゴブリンの攻撃が届く前にこちらの槍が胸に刺さって特に被害もなく倒すことが出来た。赤ゴブリンからは錆びた槍と紅鮭入りのおむすびを手に入れた。
「グギャアアア」」
―ズドン
黒ゴブリンに出会った。ハンマーを持って突撃をしてきたので、リボルバーで胴の部分に風穴を開けて殺した。黒ゴブリンが残すおむすびの中身は海苔の佃煮だった。
その後も短剣を持った青ゴブリンはシーチキンマヨ、白い道着を着た白ゴブリンはエビマヨが入ったおむすびを手に入った。
どうやらこの階層はゴブリンが単体でしか現れないようなので、戦闘自体は楽だが、死角のある洞窟内に長期間いると注意力が散漫になる。
体内時計で約半日が過ぎた頃。1度だけ赤ゴブリンに後ろから奇襲を受けたが対応が遅れて甲冑の自動防衛機能によって殺した。
そんな状態でさらに半日歩いていると『セーフティーエリア』と書かれた立札を見つけた。
立札を越えるとこれまでと同じセーフティーエリアだった。
誰もいなかったのでセーフティーエリアの隅に腰を下ろした。
水が入ったペットボトルを取り出して水分補給を兼ねた休憩をしていると。
そういえばとアイテムボックスにある<超人の実>と<付与の実>の事を思い出した。
取り出して改めて見ても見た目からは説明通りの効果があるか疑問だった。
見た目は<超人の実>はリンゴ、<付与の実>は梨。
<超人の実>の説明には『食べると身体能力を飛躍的に高める。食後の力加減に注意』、<付与の実>の説明には『物に自分又は同意を得た他者のスキルを付与することが出来る』とあったので少し躊躇していたが、このままの状態が続けば魔物に殺されるのではなく、睡眠不足で死ぬような気がして食べることにした。食感は見た目と同じだが特に味はない。食べ終わると眠気が無くなった以外は特に変わった感覚はなかった。
周囲に人がいないのでアイテムボックスからおむすび取り出して食べてみたが塩加減が絶妙で、専門店の味がした。
食事を終えてから5階層へ降りるとこれまで2,3人で組んでいた者達を見かけることがあったが5,6人のチームになってそれぞれ固まっている。
信はセーフティーエリアにいる者達をざっと見てから、いつも通り壁を背に座り休憩を取っていると16歳前後の少年が近づいてきた。
顔をあげると西洋鎧を着た金髪の少年騎士が立っていた。
見た目から年は対して変わらないだろう。
「君1人かい?この階層はゴブリンが集団で襲ってくるらしいからみんなでチームを組んで挑むつもりだけど君も僕たちのチームに入らないか?」
少年騎士の後ろを見ると4人の高校生ぐらいの少女たちがこちらを睨んでいる。
入ってもろくなことにならないと思い、首を横に振って誘いを断った。
「そうか。残念だよ」
少年騎士は諦めて少女たちのもとへ帰って慰められていた。
この階層はゴブリンの集団か。イケメン少年騎士から得た情報はとてもありがたかった
断っている光景を見たためか。その後、信へ他のチームから声は掛けられることはなかった。
信の後から降りてきた者達は先にいたチームに取り込まれるか、新たにチームを組みセーフティーエリアから出て行くのを眺めた信は装備の点検を終えて立ち上がった
(俺もそろそろ行くか)
<超人の実>を食べてから聞きたいと思えばどんなに遠く小さな音も聞こえるようになり、見たいと思えばどんなに遠くにあるものでも拡大してみることが出来きるようになった。
そのため、ここにいる間に色々と情報を得ることが出来た。
ダンジョンに挑む者は2種類いる。
①年齢は小学1年生から19歳までの未成年。
②悪行が多く徳が10未満の者。こちらは年齢に制限はない。
未成年は最低10徳が与えられるようだ。
10徳あればガチャを1回は回せる。
どうでもいい情報だが10徳ガチャの最初は必ず防犯バッグAが出るらしい。
あまり役に立つ情報は手に入らなかったが年齢が高い者には注意しておいた方が良いだろう。
5階層は水色のゴブリン(水ゴブリンと呼ぶことにする)が3体の集団で襲ってきた。武器はその時々で錆びた剣・槍・弓・斧の組み合わせが変わる。水ゴブリン1体から手に入れることができるアイテムは2ℓの水が入った蓋つきペットボトル1本。3体で計6ℓが手に入る。
ようやく水が手に入るようになった。
<癒しの水袋>はあるがなるべく目立つ物は使いたくなかったのでこれまで防犯バックの水を飲んでいたがこれで一安心だ。
「明さん助けて!」
5階層を進んでいると、珍しいことに2つのゴブリン集団に襲われているチームがあった。よくみると少年騎士のチームだ。
主に戦っているのは少年騎士と短髪のスポーツ少女。
少年騎士が剣。短髪のスポーツ少女が軍用ナイフでゴブリンたちと戦っている。
他の3人は腰を抜かしている者。立ち尽くしている者。防犯バックを振り回している者と様々だが総じて言えることは戦力になっていない。
ゴブリンはどうやら頭がいい。短髪のスポーツ少女の武装が軍用ナイフであることを考慮して槍を持ったゴブリン2人で動きを止めて、1人が戦力外の少女たちを攻撃しようとして注意が逸れた少年騎士に他の3匹が一斉に攻撃を仕掛ける。そして深手を負った少年騎士は膝をつき最後は喉元を切り裂かれて死んだ。死んだ身体はダンジョンに取り込まれていった。
(なるほど、あれがモンスターになるのか)
信はダンジョンへ取り込まれていく少年騎士を見ていると悲鳴が聞こえた。
悲鳴が聞こえた方へ向けるとゴブリンたちがお楽しみに入ろうとしたので、少女達には助ける義理はないが少年騎士には情報をただでもらった。その借りを返すため少年騎士が守ろうとした少女達に覆いかぶさるゴブリン達の首を刎ねた。
油断していたゴブリンたちはあっさり死んだ。
殺した後に残るアイテムは自動で黒い穴に取り込まれるため自分で回収する必要はない。
服をはぎとられて露わになった身体を抱えておびえる少女たちを残して先に進もうとすると、短髪のスポーツ少女が声を掛けてきた。
「助けて頂きありがとう。もしよければ私たちと一緒にチームを組みませんか」
少女は破られて露わになった乳房を手で隠しながら懇願するように頼んでくる。
少女の声には必死さがあったが先ほどの戦いを見てもスポーツ少女の実力はゴブリン1体を相手にするのが精一杯だった。
信としても足手まといを連れて行くつもりはなかった。
「俺はあの少年に貰った情報分だけ返しただけ動いただけだ」
それだけ言うと信は少女達を置いて歩みを再開する。
少年から貰った情報への対価として少年の守ろうとした少女たちを助けたそれで充分だろう。
信が少女達を連れて行かなかった理由は他にもある。階段の時に見せた視線から学校で金目当ての色仕掛けをしていた少女達を思い出した。状況が変わればすぐに性格が変わる。そんな少女達とこれ以上関わりたくなかったのだ。
それからもゴブリン集団と戦闘をするチームを見かけたが負傷する者や殺される者が出ていた。
徳の少ない者達の集団はゴブリンを倒して得た錆びた武器で戦っている。
中には素手で殴り殺している者もいたが少数だ。
そして水は出来るだけ確保しておきたかったので6階層への階段があるセーフティーエリアで休憩をしながら3日かけて1kℓの水を確保した。
6階層へ降りるとセーフティーエリアにいるチームはさらに人数が増えて10人規模の集団が目立つ。
10人規模の集団がいる中で、少女2人だけのチームもあった。色々なチームから声を掛けられているようだが首を横に振っている。
それを横目に人がいない壁際に座って目を閉じて休憩していると足音が2つ近づいてきた、
目を開けて音がする方へ顔を向けると先ほど色々なチームから声を掛けられていた少女2人が目の前に座った。
黒曜石のような瞳と漆黒の髪をポニーテールにしてまとめている17歳前後の少女と蒼天のような瞳と右の揉み上げを編んでいる絹のような金髪を持った17歳前後の少女にジッと見つめられる。
信も2人の顔を見てどこか懐かしい気持ちを抱き始めたところで少女達が自己紹介をℍ締めた。
「私は立花薫。貴殿の立ち居振る舞いからかなりの達人だとお見受けします。是非私達とチームを組んでもらえませんか?」
「私は村上咲良。あなた何かの武術をしているでしょう?なかなか強そうな人がいなくて困っていたの。よかったら一緒に組まない?」
立花薫。村上咲良。どこかで聞いたことがあるような。
(この2人の名前を俺は知っている。だが、どこで知ったのだったか…)
腕を組んで思い出していると。2人は断られると思ったのか。
「だめか?」
「だめなの?」
と聞いてきた。この悲しそうな表情はたしか…
「お前ら。もしかして立花道玄さんと村上千代さんの孫か?」
「なぜ祖父の名前を知っている!?」
「あなた、私たちの事をしっているの!?」
なるほど久しぶりに会ったから気が付かなかった。
兜を取って顔を見せると2人とも目を見開いて驚いている。
「まさか…信か!?」
「信じゃない!?」
薫とは小学5年生の頃1年間住み込みで立花道玄さんから刀術の修行を受けた時に会っている。
咲良とは中学生時代に父から「男はあまり使うことはないが古武術として知っておいた方が良いだろう」と何度か村上千代さんから薙刀について教えてもらったときに会って以来だ。
2人とも会った時よりも美人になっていて見ただけだと別人に見えたが名前と表情で思い出すことが出来た。
「久しぶりだな」
「シンは相変わらずだな。ご両親のことは聞いている。本当に残念だった」
「そうね。色々あって大変だったでしょうけど、またあえてうれしいわ。でもなんでここに?」
お互い知り合いだとわかり、会わなかった間の事や両親や祖父の詳しい死因、その後の学園生活等を話した。
「そんなことが……つらかっただろうな」
「ひどいわ!そんなのあんまりよ」
話を終えると心が軽くなったように感じた。こうして同年代の相手に話したのはこれが初めてかもしれない。薫と咲良は我が事のように泣いて信を抱きしめた。
(抱きしめてもらったのはいつ以来だろう…)
人の温もりとはこういうものだったと信は久しぶりに感じた。
家族を全員失ってからの1年間。信の周囲は敵だらけだった。
信はこれまで気丈に振舞ってきたが、それを近くで支える者は誰もいなかった。
「ありがとう」
自然に出てきた感謝の言葉には万感の思いがとやっと込められていた。
家族を失ってからの1年間。一度も涙を流さなかった信はこの時初めて涙を流した。
家族を失った悲しみ、なぜあの時母を先に乗せてしまったのかという後悔、死んだ両親と再会した時の喪失感、祖父を助けることが出来なかった無力感、家を守れなかった罪悪感。
様々な思いが詰まった涙を流す信を薫と咲良は黙って抱きしめ続けた。
◇
一頻泣いた後、信は2人とチームを組むことを了承した。
2人は2階層に降りたときに出会い、薫の方から声を掛けたそうだ。
それからはこれはと思う人物がおらず、2人でダンジョンを進んでいた時に俺を見て声を掛けたらしい。
それから、今後の方針を話し合った。
「2人の武器はそれだけか?」
薫は小太刀、咲良は短剣以外武器を持っていなかった。
錆びた武器は信用できなかったので回収はしていないらしい。
2人は最初450徳と440徳しかなく、それでも他の者に比べれば高かったらしい。
そのため薫には打刀。咲良には薙刀を渡して戦力の増強を図った。
2人は幼いころから練習をしているため、かなりの腕前であることが渡した武器の素振りを見ればわかる。
なぜこれほどの武器を持っているのか聞かれたので最初のポイントを伝えると驚かれて最後には納得された。
こちらの装備などを見て、他のチームが「チームを組まないか」と誘ってきたが「背中を任せられない相手とチームを組むつもりはない」とすべて断った。
それから、装備のメンテナンスをしていた時、あることに気が付いた。
2人の髪に艶がなく、肌も少し汚れている。
このダンジョンに来てからどのように過ごしてきたのか聞いてみると、ガチャガチャでは100徳ガチャで特定の階層役立つアイテムを手に入れて、残ったポイントで10徳ガチャを回したが、結果は薫がアメニティグッズC:歯ブラシ×100本・歯磨き粉(いくらでも出せます)を手に入れた以外は武器と防災バックしか手に入れることが出来なかったと落ち込んでいた。
だからなのか俺がシャンプー類と石鹸を取り出したら目に涙を浮かべるほど喜ばれた。
年頃の少女にとって美容はとても大事なことらしい。
後はタオルセットからタオルと5階層で手に入れた水、俺には不要な女性用の下着・化粧品セットを渡した。2人はレジャーシート等で周囲から見えないように仕切りを作ってから髪などを洗い始めた。
その間俺は見張りだ
周囲から羨む視線を感じたが無視をした。
「すまない。そのシャンプーや石鹸を分けてはもらえないだろうか」
18歳前後の真面目そうな少年が声を掛けてきた。恐らくチームの女性陣に懇願されたのだろう。
「対価はなんだ」
「対価ってそんな…」
このダンジョンで生きていかないといけない状況で無償の援助を受けられるとでも思っているのだろうか?
口を閉ざして何も言わない少年に対して「話にならない」と話を打ち切ることにした。
「そこを何とか…」
こちらの意図が分かっていながら話を続けようとする少年に「くどい」と言って話を強制的に打ち切った。
肩を落として帰っていく少年を見送った。
少年が去ったのを見計らっていたように仕切りから出てきた薫と咲良。
2人の髪や肌には艶が戻り、とても綺麗になっていた。
「綺麗だ」と言うと顔を赤くした2人はとても可愛かった。
2人の準備が整ってから、これからの事を考えて一度水の補充するために5階層へ戻る。
10万徳ガチャで手に入れた物が使えれば問題ないのだが、人が多いところで使用すると余計なもめ事を起こす可能性があるため出来るだけ使わないように行動しなければならない。
2人に使っていなかった<アイテムポーチ>を渡して自身が倒した魔物のアイテムを回収してもらう。
<アイテムボックス>は俺が殺して残ったアイテムしか自動回収の対象としていない。
それから、3日殺し続けて2kℓの水を回収した。
当分の間は問題ないだけの十分な水を確保したので6階層のセーフティーエリアで休憩を挟んで7階層への階段を探すためセーフティーエリアを出た。
6階層は5階層の倍ぐらいの広い。
灯りは道の中央を照らす程度で道の端には光が当たっていない。そして各所に高さ数メートルはある岩が転がっている。
進んでいる途中、岩陰に隠れている魔物の気配がしたので2人に注意を呼び掛けてから進むと180㎝ぐらいまで成長した3体の大人ゴブリン集団が襲ってきた。大人ゴブリンは起伏がはっきりしているため性別がわかった。
各自が1体を担当する。これまでのゴブリンよりは力強いが<超人の実>の効果によるものか誤差の範囲だ。
斬る範囲が増えただけでてこずる相手ではなかった。
長年使用してきた武器に変えたためなのか2人も難なく倒している。
倒した緑の大人ゴブリン(緑大ゴブリンと呼ぶことにする)からはサイズに合わせて大きくなった錆びた武器と笹に包まれた爆弾おにぎり(オス)又は焼きおにぎり(メス)3個が手に入った。
次に遭遇した赤大ゴブリンは緑大ゴブリンより力が強いゴブリンだった。そして錆びた武器ではなく普通の武器を持っている。
そのため正面から受けずに円盾で剣をいなして胴を薙いだ。
2人は受けることはなく、躱して喉を薙ぐ、振り下ろされた剣を弾いて喉を突いて倒していた。
赤大ゴブリンからは普通の武器と笹に包まれた生たらこ入りおにぎり(オス)又はいくら入りおにぎり(メス)3個を手に入れた。
(具が高級なものになっている)
ゴブリンは大きくなって残すアイテムの質が上がった。
同じ具が増えるよりもずっと好ましい変化である。俺的には高評価だ。
その後もガントレットを装備した黒=和牛カルビ(オス)キャビア(メス)、道着を着た白=最高級米フォアグラ(メス)、双剣使いの青はハラミ(オス)牡蠣、ランスを装備した黄色は玉子焼ウニ(メス)。
手に入るおにぎりが豊富なため下への階段を見つけてからも6階層に留まり狩り続けた。
そしてここでも3日かけて延べ200体以上狩った。
「ゴブリンばかりで飽きたな」
「おむすびやおにぎりはそろそろ飽きてきたわね」
さすがにゴブリンを3日殺していると飽きてきた。それにそろそろ米とチョコレート以外食べたい。他に人がいなければ<飢えない食卓>を使ってもいいのだが…
お読み頂きありがとうございました。