夏の終わりに
「プロローグ」
辺り一面は・・・闇・・・。
それは、全てを覆い尽くし、全てを包み込む・・・。
人は闇を恐れ、闇を遠ざける・・・。
しかし、闇に包まれ、闇に癒される・・・。
闇は全ての母であり、優しい存在・・・。
闇は全てを覆い尽くし、そしてやわらげる・・・。
されど、闇は存在を傷つける・・・。
一面のみでは、全てをみれない証拠・・・それが闇・・・。
私はその闇を切り裂くように、マッチに柔らかな炎を灯した。
- (ボウ)
辺りはかすかな光に照らされ、虚空を照らす。
時には厳しく・・・時には優しく・・・。
私は、その柔らかな炎を、左手に持っていた線香花火にそっと近づける。
- (パチパチ)
線香花火に火を灯すと、私はその光と音に魅入られる・・・。
- ・・・夏の終わりの・・・線香花火・・・
色々な思いが・・・溢れ出してくる・・・。
自然と私の瞳から、水滴が・・・静かに流れ落ちる・・・。
私の思いは・・・私の願いは・・・私の全ては・・・どこに向かうのか?
・・・私には、それを知る事は出来ない。
そう、あれは夏の幻・・・。
初夏の刺激が、私に幻覚を見せたのだと・・・信じたい・・・。
この溢れる思いを打ち消せるなら・・・。
それは・・・この夏の私の思いで・・・。
「始まりと終わり」
§1
「あっつーい!!」
真っ昼間の歩道で、私は突然叫んだ。
今日の温度は、38度・・・。叫びたくもなる。
なんせ、昨日までの気温が27度で・・・今日は突然38度である。
- もぉ! 最低! なんでこんなに暑いの?
そんな事をうだうだ考えながら、私は夏期講習を受けに、てくてくと歩いている。
- 行きたくない! もういや!
そう思いつつ、とうとう塾の目の前まで辿り着く。
- はぁ・・・受験生だからって・・・勉強ばっかじゃ腐っちゃうよぉ・・・
しかも、クーラーが壊れた教室で・・・勉強しなければいけない・・・。
そう思った瞬間、私の足は逆方向に向かって歩き出す。
- よし! 一限はさぼって、『ビルディ』に行こう!
『ビルディ』は、私がよく行くファミレスである。
『ガスト』のワンランク下の、ファミレスである。
しばらく歩くと、『ビルディ』が見えてきた。
- よし! もう少しで、常夏の世界から快適な世界に辿りつく!
私の足は、自然と早くなる。
- !?
「きゃ!」
「うわ!」
- (ドン!)
私は、障害物に突き当たった。
「いったぁ・・・」
私は、無様にお尻から地面に倒れていた。
「あの、大丈夫?」
高校生らしき男の子が、私に手をさしのべていた。
- いったぁ・・・
「え? あ・・・はい! 大丈夫です」
男の子は、申し訳なさそうに私を立たせてくれた。
これが、私と彼の出会い・・・。
次の日、彼とまた偶然出会った。
まるで、運命に導かれるように、私たちはであった。
他人に話したら、多分馬鹿にされるだろう。
でも、私にとっては、そう思いたかった。
なんせ・・・それが私の初恋だったから・・・。
§2
私、唯我 夏美と、有瀬 夕夜が付き合
ってから、もう半月になる。
突然の出会い・・・。
突然の恋い・・・。
それからの半月は、幸せの真っ最中であった。
- 夕夜と一緒なら・・・それだけでいい・・・
そんな事を考えさせるくらい、私は夕夜を愛していた。
「ねぇねぇ、夕夜? 今日はどこにいくの?」
あれから、私達は週に3~4日のペースで、デートしている。
「うぅぅん・・・」
夕夜が考え込んでいる。
- それもそうっか。結構行き尽くしたからなぁ・・・
「夏美はどうしたい?」
「え? 私?」
コックンっと、夕夜が頷いた。
「うーん・・・カラオケはいったし・・・遊園地もいったし・・・ゲームパーク系
も行ったし・・・うーん・・・後遊んでいないところって・・・どこだろう?」
私と夕夜は、真剣にそんな事を考えていた。
「よし! 今日は、ショッピングにしよう!」
「ショッピング?」
「ああ。そして、その後は映画みて、食事して、その後サンシャインの展望室行って
ってのはどう?」
「うん! それがいい! じゃあ、いこう!」
私たちは、最初東急ハンズで買い物をして、その後サンシャインの地下道を歩き、
色々なショップに立ち寄った。
3時間くらいだろうか? 大分色々買い物をした時、夕夜が不意に休憩を願い出
た。
「ちょっとつかれた。ロッテリアがあるから、そこで休憩しない?」
「え? いいよ☆」
ロッテリアに入ると、私たちは他愛もない話しに夢中になり、何時しか時間も
流れていった。
「夏美、ちょっと電話しなくちゃいけない所があるから、15分くらいまっててくれ
ない?」
「え? いいけど?」
「うん。じゃあ、待っててね」
そこまで言うと、夕夜は少し足早に席を立った。
§3
その後、映画を見て、食事をして、私たちはサンシャインの展望台に登った。
- ・・・綺麗・・・
そこから見おろす景色は、まさに都会の摩天楼・・・。
淡い青・・・車のライト・・・ビルの光・・・どこかの住宅の明かり・・・
色々な色が、黒いキャンパスに描かれていた。
「・・・すっごく綺麗・・・」
「一度、夏美に見せたかったんだ」
「夕夜・・・」
夕夜は微笑みながら、私を見つめていた。
私も、その少しブルーが掛かった瞳を見つめる。
「・・・愛してる・・・」
微かな声で、そう呟かれた。
私は心臓の音がドクドクなっているのを感じながら、そっと顎をあげ、その瞳を
閉じた。
夕夜の柔らかい唇が、私の唇を奪う。
- 夕夜ぁ・・・ずっと好きだからね? わたしを・・・離さないでね?
そして次の瞬間には、夕夜の唇が離れていった。
名残おしそうに、私は夕夜を見つめていた。
「あの・・・これ・・・プレゼントって言うか・・・そのぉ・・・」
「え? なに?」
そこには、私の誕生石の指輪があった。
「これを・・・婚約指輪として・・・受け取って欲しい。今は無理だけど・・・
高校をそつぎょうして、大学に入って、卒業したら・・・結婚して欲しい!」
「・・・うん」
私は頷いた。
すると、夕夜は私の薬指に、ルビーの指輪をそっとはめた。
- ああ。私・・・幸福者だぁ・・・
幸福を感じ、私は夕夜に抱きしめられる。
「今夜・・・家には帰りたくないな・・・」
「え?」
「今日帰したくない」
「だって、親が・・・」
「それは僕も一緒。でも、一緒にいたいんだ・・・。駄目かな?」
- ど、どうしよう! 私・・・全然用意が出来てないよぉ・・・
「で、でも・・・心の準備が・・・」
「ぼくじゃいや?」
「とんでもないよ! 夕夜なら・・・いいよ」
「じゃあ、今日・・・いいよね?」
夕夜のその問いに、私はコクンと頷く。
§4
「さ、先にシャワー浴びる?」
「え!? あ、あのぉ・・・そのぉ・・・後でいいです・・・」
ぎくしゃくした会話をしながら、夕夜は先にシャワーを浴びた。
- えぇん・・・こんな事なら、おニューの下着にすればよかったよぉ・・・
なんて事を考えてみたりしたけど・・・私の不安は全然解消なんてされる事は
ない。
- やっぱ・・・今日は駄目だよぉ・・・心の準備が出来ない・・・
「夏美? どうしたの?」
「きゃ!」
いつのまにか、夕夜がすぐ側にいる。
「あ、あの・・・その・・・」
「シャワー浴びてくれば?」
「だからぁ・・・今日はやっぱ駄目なの・・・」
「駄目なの?」
私はコクンと頷く。
「だったらやめよう。こういうのは、お互いの気持ちが大事だからね」
「夕夜! ありがとう!」
私は満面の笑顔を浮かべると、さっさとホテルを後にした。
このとき・・・途中で我侭を言わなければ・・・。
「駄目」なんて・・・言わなければ・・・。
その後の運命は、変わっていたと思う。
§5
それは、私と夕夜が十字路にさしかかった時であった。
- え?
猛スピードで、ダンプが私のほうにつっこんでくる!?
- うそぉぉぉぉ!!!???
とっさの事で、私には反応する事が出来なかった。
「きゃあああああ!!!」
- ぶつかる!!!!
そう思った瞬間に、私は何者かに・・・突き飛ばされた。
「きゃぁぁっぁ!!」
- (ドン!!!)
- いったぁ・・・
しばらくして、さらに・・・
- (ズガァァァァン! バキィィ! パリィン!)
私はなにがあったのか理解出来ず、ただ呆然としていた。
- 私・・・たすかったの?
ぼーっとそんな事を考えた瞬間・・・私顔に・・・生暖かいものが流れていた。
- なにこれ?
顔に付いていたのは・・・何者かの血・・・。
- え? えぇぇぇぇ!!!
嫌な予感がして、とっさに後ろを振り返る。
「夕夜ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
その後の事は、よく覚えていない。
ただ、その場にあったのは・・・すでに跡形のない・・・肉片・・・。
10mほど先には、ダンプが壁に追突していた。
そして、私は気を失った・・・。
「エピローグ」
辺り一面は・・・闇・・・。
それは、全てを覆い尽くし、全てを包み込む・・・。
人は闇を恐れ、闇を遠ざける・・・。
しかし、闇に包まれ、闇に癒される・・・。
闇は全ての母であり、優しい存在・・・。
闇は全てを覆い尽くし、そしてやわらげる・・・。
されど、闇は存在を傷つける・・・。
一面のみでは、全てをみれない証拠・・・それが闇・・・。
私はその闇を切り裂くように、マッチに柔らかな炎を灯した。
- (ボウ)
辺りはかすかな光に照らされ、虚空を照らす。
時には厳しく・・・時には優しく・・・。
私は、その柔らかな炎を、左手に持っていた線香花火にそっと近づける。
- (パチパチ)
線香花火に火を灯すと、私はその光と音に魅入られる・・・。
- ・・・夏の終わりの・・・線香花火・・・
色々な思いが・・・溢れ出してくる・・・。
自然と私の瞳から、水滴が・・・静かに流れ落ちる・・・。
私の思いは・・・私の願いは・・・私の全ては・・・どこに向かうのか?
・・・私には、それを知る事は出来ない。
そう、あれは夏の幻・・・。
初夏の刺激が、私に幻覚を見せたのだと・・・信じたい・・・。
この溢れる思いを打ち消せるなら・・・。
でも、それは紛れもない・・・真実・・・そして・・・現実。
・・・彼はもう・・・この世にはいない・・・。
- 時を戻すことが出来たら・・・。
そう思いながら、私は最後の線香花火に火を付ける・・・。
その光が消えた時・・・私はあなたにもう一度出会える。
- 今度こそ、幸せになろうね? 今度こそ、全てをあげるね?
・・・そして、線香花火が終わった時、辺りは静寂に包まれた・・・。
20年くらい前に書いた物を発見したのでパート2です。
恐ろしく下手くそですみません。