ナオ1-2
「……で、つまり、どんな感じなのよ」
「言葉では伝わらないと思って、実物を用意してございます」
そう言うと、ルナはテーブルの下から紙束を引っ張り出した。枚数的には、三十枚くらいあるだろうか。かなりの数である。
「ご拝見くださいませぇ」
ナオはルナから紙束を受け取った。
タイトル(仮)『アニメと3DCGと三次元を混ぜてみた』
プロローグ
レディース、アーンド、ガールズ!
ようこそ、『アニメと3DCGと三次元を混ぜてみた』の世界へ。
進行・描写を務めさせていただくのはワタクシ、【キョウ】と申します。以後、お見知りおきを。ワタクシのイメージは、灰色のぬいぐるみ風首長竜で良いでしょう。
さて! この作品に登場するメインキャラクアーたち三人の紹介と参りましょう。
パッとライトが一筋灯りますと、その光の中には一人の人物が立っています。
彼女は【ニメ】! アニメ的作画の少女です。素晴らしいイラストですね。可愛らしい顔立ちに、茶色のショートツインテールという、これまた可愛らしい髪型。しかし、その胸はほとんどない! 彼女自身もそれは気にしている様子がある!
ニメは光の中で左手に腰を当て、右手でピースサインを作っています。その彼女の口が動き、
「ちょっと地の文さん! 何言ってるのよ!」
と、ポーズを崩さないままそう言いました。ですがワタクシはこれをスルー。
再びライトが、今度はニメの隣に灯ります。その光の中には、やはり一人の人物がステイしています。
――中略
以上三名が、この作品のメインキャラクターとなります!
それでは『アニメと3DCGと三次元を混ぜてみた』の世界を、どうぞお楽しみください!
幕間1
「いきなりキャラ紹介するっていうから、何かと思えば……何なのよあれはぁ!!」
ニメが怒り心頭に大声で叫びました。一体どうしたのでしょうか? もしかして何か重大事件があったのでしょうか?
「重大事件よ重大事件! 何であたしが密かに隠そうとしていた胸のことを、最初から堂々とはっきりと言っちゃうのよ!」
えっ? それはキャラクターの最初の描写ですから、はっきりと特徴を言った方がよろしいかと思いまして。
「特徴だったら顔と髪型だけでいいじゃない! 胸のことは言う必要ないでしょ!?」
ニメは女の子ですから、バストサイズも重要な特徴ですよ。それはニメが一番よく分かっていると思いますが。
「分かってるわよ! 分かってるけど、描写せずに想像に任せておけば中サイズになれたのにぃ!」
ニメはそう言うと泣きじゃくり始めました。可愛いですねー。やはりニメは可愛らしい愛玩動物枠です。
「ダメですよニメちゃん~。どうせイラストがついたらバレちゃいマスよ~」
サディが追い打ちをかけるかのようにそう言いました。何たる無慈悲なことであろうか! 何せ、彼女の胸はニメとは真逆の、とても豊満なのだから。
「でもこんな作品に、イラストなんてつくのか?」
――中略
それではロールプレイを始めましょう!
いよいよこの作品の本編開始です。
第一話
やはり最初はニメからです。
女子高生のニメは、現在学校の放課後です。ニメはとある武器商の娘であり、アスサシティではかなりの上流階級になります。お金に不自由することもなく、一流のお嬢様学校に通っています。けれども、ニメにはそれがあまりにも平凡で、とても退屈な生活でした。
もっと刺激のある生活を送りたい。ニメはそう思うようになり、両親には黙って【アウトロー】の道へと足を踏み入れました。両親が武器商であり、子供の頃から銃の扱いにも慣れていたニメが、【アウトロー】に生き甲斐を求めるのに時間は掛かりませんでした。
今日はこのあと、いつもの店【BloodShot】で他の二人と待ち合わせをしている予定です。バー【ブラッドショット】の店長から、仕事の依頼があったと三人に連絡があり、今から集合しようというわけです。
しかし、まだその集合時間まで時間があります。それまでニメは何をしますか?
「裏路地の場末の店で強盗をしてるわ!」
!? 「!?~」「!?」
「あれ!? あたし何か間違ってる!?」
いえ! 全然間違っていませんよ。少し驚いてしまっただけです。いきなりワタクシの、もとい監督の求めていたロールプレイをしてくれるなんて思っていませんでしたから。
「世界観と設定的に、こういうことをやれって言っているようなもんじゃないの」
さすがはニメです! 可愛い枠でありながら、みんなのために最初の見本になってくれる。なんて胸以外は完璧な子なのでしょう!
「何で胸のことをいれるのよ! 今のは完全にいらなかったでしょ!」
――中略
「金を出しなさい! そのチンケな有り金全部よ!」
「……はぁ。可愛いお客さんかと思えば、可愛い強盗さんだったとはのう」
「いい老人にしないと、ここで寿命を迎えることになるわよ?」
「はいはい、分かってるとも。……さっきの『この店のものに興味がある』というのは、この店のお金のことだったとはのぉ。てっきり骨董品のことかと思っておったのに……」
先ほどのニメが放った言葉の、真の意味に気がついた岩司は、明らかに落胆している様子です。しかし、ニメに銃を突きつけられているのにも関わらず、【そちらの方】に対してのリアクションはほとんど――ありませんでした。
岩司はカウンターの下で、ごそごそと手を動かしているような動きをしています。
「おじ様? 何をしているの?」
あたしは奥の壁に向かって、拳銃を一発発砲するわ。
では、店内に銃声が鳴り響き、壁に弾痕が刻まれます。しかし、岩司はそれに臆することなく動作を続け、そして不意にサッと両手を上げました。
その手には、ニメの持っているハンドガンよりも一回り大きなハンドガンが握られています。その構えと狙いのつけ方からは、岩司が拳銃に精通していることをビンビンッ! と示唆していましたね。
「アニメのお嬢さん。強盗をする時は、【人と場所】をしっかり選びな」
二メートルほどの距離を開けた状態で、ニメと岩司は銃を突きつけたまま静かに対峙しています。いきなりのデッド・オア・アライブ的状況です!
さあ、ニメ! この状況をどう打破していきますか!?
――後略
「これがTRPGから思いついたネタなんだぎゃー。……どお?」
「どう、って……」
ナオはもう一度紙束に目を落とした。
「これ……」
「これ?」
「これただの小説本文じゃないの! どこがネタの段階なのよ!」
「このネタを伝えたいがために書きました!」
「大事な次回作の脚本を差し置いて?
「てへぺろ。――いや、これを次回作にすれば、あるいは……?」
ルナの様子から察するに、半分以上本気で言っているようである。
「これは確かに、前代未聞というか破天荒というか、新しいネタ――アイデアだと思うけど……」
「けど?」
「読者が面白いと思ってくれるとは限らないわよ?」
どんなに自分では良いと思っていても、読者から良いと思われなければ何の意味もない。それはただの自己満足、思い上がりだ。それが創作世界の難しいところである。
「それは百も招致済みよ。でも、新しいことをやらないと、次のブレイクは生まれない。……そうでしょ?」
ルナがニヤリと笑う。彼女のこういう考え方は嫌いではない。……いや、むしろ自分もそのタイプだ。だからこそ、ルナと仕事をしている。
差し当たって、今言うべきは。
「これで売れなかったら、あなたに責任取ってもらうから。覚悟しときなさい」
「うっ!」
そうは言うものの、作品の責任は主に監督にあるのだが。






