表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創作の素の彼女たち  作者: キョウペイ
7/8

ナオ1-1



 ナオ1



 ナオは、玄関の扉を開けた。

 アパートの205号室。2階の一番奥の部屋。そこが『彼女』の住んでいる家だ。

 玄関には、無造作に脱ぎ捨てられたスニーカーが転がっている。ナオはそのスニーカーを整えて横に退け、できたスペースで自分の靴を脱ぎ始めた。

 台所とトイレ、お風呂がある場所を抜け、奥の一室へ。カーテンは開いていて、部屋の中は昼の明るさを持っていた。

 その部屋のベッドに横たわる人物が一人。

「もう食べられないにゃ~」

 ベタな寝言を仰っている。その寝言の彼女こそ、この205号室に住んでいる人物だった。

「ルナ! 起きなさい!」

 ナオはそう言って、寝ているルナの掛け布団を引っぺがす。すると、さすがに異変に気づいたのか、ルナはゆっくりと瞼を持ち上げた。

「……むぅ。もう朝イベントぉ?」

「もう昼イベントです」

「じゃあ、黒焦げ弁当だねぇ……」

 ヒロインが料理下手で、せっかく作った弁当にも黒焦げになったおかずが入っている。それを主人公が、昼休みに無理矢理食べさせられる。ルナの言葉を解析すると、そういうことになる。

 ――だから、なんだよ!

 イラッとしたナオは、台所に行くと、そこにあったコップに水を注いで戻ってきた。そして、仰向けで再び夢の中いるルナの顔面に向かって、そのコップの水をぶちまけた。

 以上の結果。

 ぶひいいいぃぃぃ、と豚のような悲鳴を上げて、ルナは飛び起きた。


 無事(?)にルナが起床し、二人はテーブルを挟んで向かい合った。

「ひでーことしやがるぅ……」

「次は熱湯にしますか?」

「暴力系ヒロイン、ダメ! 絶対!」

 ルナは胸の前で腕を交差させ、大きなバツ印を作った。

 ここで改めて紹介しておこう。彼女はルナ。仕事は脚本家をしている。自分との関係は、監督と脚本だ。自分に任された作品の脚本をしてもらっている。

 自分の中にストーリーや設定がある場合は、その脚色をしてもらう。そうでない場合は、ストーリーや設定を全てルナに一任している。

 やや性格や言動におかしなところはあるが、彼女もまたプロの人物。ルナと一緒に作り上げた作品が、大ヒットしたこともある。実力は折り紙つきだ。

「……で、なんだけど」

 ナオは早速話を切り出す。そうすると、ルナの目が明後日の方向を向いた。

「今度の脚本は、いつ頃完成しそうですかね……?」

 ナオから発せられたその言葉を聞くと、ルナの肩がピクッと震えた。そして次第に顔から冷や汗が吹き出し、青ざめた表情に変わっていく。

「脚本は、どのくらい進んでいますか?

「………」

「あらすじは、できていますか?」

「………」

「アイデアは、ありますか?」

「………」

 ルナの欠点その一。コンスタントに仕事ができない。

「い、今頑張って考えてるなりぃ……」

「無理だったら、早めにヘルプサイン出してください。いつも言っているじゃない」

「ごめんなさい」

「今回も一任しているとはいえ、手伝いくらいはするのに」

 ナオがそう伝えると、ルナはゆっくりと顔を上げて、それから呟くように言った。

「アイデアとまではいかないけど、ネタなら少し……あるのん」

「ほほう」

「実は最近、TRPGの動画にハマってて」

「TRPGねぇ」

 TRPGとは、テーブルトーク・ロールプレイングゲームの略であり、簡単に言えばキャラクターになりきって物語を進めていくという遊びだ。使用するものは主に紙とペンとサイコロで、多人数で会話とロールプレイをしながら各ルールに則り遊ぶ。

 自分たちで物語や展開を決めていかなければならないのが、一般にゲームと呼ばれる、電源のあるコンピュータゲームとは違う部分である。

「そのTRPG動画から思いついたネタなんだけども」

「うん」

「登場人物のキャラクターに、別のキャラクターを演じさせて、いろいろコメディっぽくやる作品なんね。コンセプトとしては、即興演劇みたいな感じ。コメディタイプのTRPGって言った方がいいかも」

 ルナは真剣な表情でその『思いついたネタ』とやらを説明する。……が、ナオには全くと言っていいほど、そのネタの細部が伝わってこなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ