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創作の素の彼女たち  作者: キョウペイ
6/8

ミサ1-3

 例え何があっても、自分の出番は必ず来る。

「シーン9の撮影を始めます」

 ようやく、自分の出番があるシーンがやってきた。

 ミサは女子トイレの中でスタンバイをする。出番とはいっても、女子トイレから出て、主人公に九重の向かった先を伝え、教室に戻る。それだけの出番だ。

「……用意、始め!」

 撮影開始の合図。それと共に、ミサは女子トイレから出た。

 教室に向かって歩みを進める。教室の近くまで行くと、後方から足音が聞こえてきた。それは予定通り、主人公・百崎諒役の人がこちらに向かって走ってきた音だ。

 ミサは自然な動作で後ろを振り向く。すると、百崎はミサの前で立ち止まり、

「三木さん! 九重さんを見なかった?」

 と、少し焦った様子でそう訊いてきた。

「ううん、見てないけど」

「そう……。ありがとう。三木さんは教室に戻ってね」

「……? うん」

 ミサは、百崎の言葉の意味が分からない、といったように首を捻りつつ、とりあえず頷く演技をした。

 そこまで話すと、百崎は「じゃあ」と言って再び走り出していった。

 ミサは何かあったのかな、という表情をしたまま、教室に戻っていく。扉を開けて自分の教室の中に入り、そして再び扉を閉めた。

 ――よし。

 安心したように一つ息をつく。これで自分の出番の一回目は終わりだ。ここから二回目の出番があるまで、待機していなければならない。


 ――どうということはない。至って普通の、これが自分の仕事だ。

 二回目の出番と作品の撮影を終え、今日の仕事も無事に完了。

 仕事を終え、ミサは帰宅していた。家は一人暮らし用のワンルーム。自分は家にこだわらないタイプなので、立地と値段だけを考えて今の場所に決めた。

 小物入れのバッグを適当に置き、外出用の服から部屋着へと着替える。それから、コンビニで買った弁当を電子レンジで温め、それを本日の夕食とする。

「………」

 もう一年くらい、この生活が続いている。

 一応プロのキャラクター役者になって、二年ほどが経った。最初の一年は、新人としてモブ役、ちょい役、エキストラをやっていたが、最初の一年くらいは新人なのだから、それが当たり前だと自分でも思っていた。

 そして一年もすれば、優秀な人は早くもサブキャラ役に選ばれたりもする。しかし自分は、新人の一年が過ぎて、さらにそこからもう一年が経ったというのに、未だにモブ役程度の仕事しかやっていない。

 自惚れてはいないけど、自分はもう少し優秀だと思っていた。

 もう少しできると、そう思っていた。

「……くそ」

 最近自宅に帰ると、いつもそれを意識させられる。

 ――才能がないのでは。

 けれど、前にも言ったと思うが、モブ役であれ仕事があるのはありがたいことなのだ。そのモブ役にすら、恵まれない人もいるのだから。

 だからこそ、才能がないのか、あるのか。……分らなくなってしまった。

 今日は、そのモヤモヤが一段と色濃く渦巻いている。ミヤビに会ったからだろうか。

 不意に、テーブルの上にあったスマホが音を発した。

 食事を中断し、スマホに手を伸ばす。メールが来ていた。

「……くそ」

 それは、前に受けた役者オーディションの、落選通知だった。

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