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創作の素の彼女たち  作者: キョウペイ
5/8

ミサ1-2

 他の役者と共に、ミサは撮影スタジオに足を運んだ。

 スタジオは二部屋に分かれており、それぞれ指示部屋と演技部屋と呼ばれている。

 指示部屋とは、美術スタッフや撮影スタッフが機器を操作したり、監督が指示を飛ばしたりする部屋となっている。それに対し演技部屋は、文字通り役者が台本に沿って演技を行う部屋となっている。

 スタジオの入口はまず指示部屋に繋がっていて、指示部屋にある入口から演技部屋に入ることができる。部屋の広さとしては、演技部屋の方が格段に広い。

 監督・美術・撮影スタッフは指示部屋で待機し、ミサを含む演技者たちが演技部屋へと向かう。演技者が全員演技部屋に入ると、扉が静かに閉じられた。

「これから『満月の三日月』の撮影を始めます。よろしくお願いします」

 男性の監督がそう声を掛けると、演技者たちの方からも「よろしくお願いします」と揃って返事が来た。撮影が始まる。

「作品世界、起動します」

 美術スタッフのその声と同時に、演技部屋中に警告音が響き渡る。警告音が鳴り響いたのちに、演技部屋全体の照明が切り替わり、部屋が一斉に赤く染まる。

 ――さて、集中しなくちゃ。仕事が始まる。

 ミサはゆっくりと目を閉じた。一瞬の意識の途切れがあり、再度意識が浮上する。

「世界移動、完了しました」

 再びの美術スタッフの声と共に、ミサは目を開けた。


 するとそこには、よくある教室の光景が広がっていた。


 黒板に教壇、教卓。蛍光灯、数十はある机と椅子。掃除用具の入ったロッカー。

 多少の差はあれど、まさしく教室の光景である。なぜ、教室に来たかといえば、答えは単純。

 撮影のため、だ。

 今さっき行った『世界移動』。これは、撮影用に制作された作品世界に移動するということを差す。そして作品世界とは、文字通り、作品の中の世界という意味である。

 この、設定をもとに作られた作品世界で、役者が演技をし、それを撮影・編集して納品することで、作品の素となるのだ。

「シーン4から撮影を始めます。用意をお願いします」

 監督から撮影の指示が飛ぶ。シーン4は、教室でヒロインと転校してきた主人公が再開するシーンである。かなりよくあるお約束の場面だ。

 ミサは校舎の廊下側に近い席に座る。自分の配役は、主人公の男の子のクラスメイトだ。

 この作品の媒体は漫画であり、今回の撮影での自分の出番は2回だけ。そのうえ、台詞も少ししかない。はっきり言って、完全にモブ役だった。

 しかし、モブ役であれ、これはれっきとした仕事。仕事があるだけでもありがたい。

 今やキャラクター役者の数は多く、生み出される作品に対して、役者の数が超過しているらしい。そのため、演技するキャラの座を掛けて、壮絶な椅子取り合戦となっている状態だ。

 自分の親しい同僚も、仕事が取れないとたびたび愚痴を言っている。

 そういうわけで、モブ役であれ、仕事があるだけでもありがたいことなのだ。

 そうこうしているうちに、役者が全員配置につく。

「シーン4を始めます。……用意、始め!」

 監督の号令と共に、撮影が始まる。


 まずは、朝のホームルームの開始を告げる音が校舎中に鳴り響く。それからやや遅れて、教室の前方の扉が開き、先生(女性)がやってきた。

 そして先生の後ろには、転校してきた主人公の姿がある。

「転校生を紹介するぞー」

 教卓の前に立った先生が、転校生の紹介を始める。隣に立つ男の子を腕で示して、

「百崎諒君だー。じゃ、挨拶よろしくー」

 先生に促されると、転校してきた主人公が挨拶を始めた。

「百崎諒です。よろしくお願いします」

 挨拶のあと、主人公の男の子――百崎は会釈をした。顔を上げると、教室の後方で窓際の席にいるミヤビ――役名・九重真理――と目が合う。


「また会ったわね。キミ」


 それは、ミヤビの台詞。

 たったそれだけの台詞なのに、凄まじいまでの存在感と妖艶さ。

 クラスにいる誰もが、ミヤビの方を向いてしまうほど、その一言には凄さがあった。

 ――これが、レベルの違い。

 若手とベテランの違い。自分と、ミヤビとの違い。

「あなたは、昨日の……」

「そうよ、百崎君。さあ、隣にいらっしゃい。歓迎するわ」

 そう言って、ミヤビは流麗な動作で右隣の席を指し示す。細められたその目が、主人公である百崎を値踏みするかのように見つめる。

 教室内に沈黙が流れる。ややあってから、その沈黙を打ち破るように先生が声を発した。

「百崎の席は、九重さんが示してくれたあそこだー。じゃ、みんな、仲良くなー」

 百崎は自分の席に向かう。座ったあと、ミヤビが百崎の方を見て言った。

「これからよろしく、百崎君」

 ミサの席から、言葉と同時に微笑むミヤビの顔が見えた。

 それを見て、ただただ『違い』というものを認識させられた。

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