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創作の素の彼女たち  作者: キョウペイ
4/8

ミサ1-1



 ミサ1



 ミサは、更衣室の扉を開けた。

「今日はよろしくお願いします」

 軽く挨拶をしながら、ミサは更衣室の中に足を踏み入れる。室内には、すでに二人の人物がいた。腰まである長い黒髪の人と、肩までのポニーテールで青髪の人だった。

 ミサは自分の名前が書かれたロッカーの前まで行く。すると、青髪の人が声を掛けてきた。

「私の名前はリカ。今日はよろしくねー」

「はい、よろしくお願いします。あたしはミサと言います」

 言葉を返しつつ、ミサは青髪の人――リカを横目で観察した。――少し上の先輩かな。

 『キャラクター役者』。それが自分の仕事である。

 作品の素を作る仕事のうち、『演技』の役割の担う。それがキャラクター役者という仕事だ。

 略して『キャラ役』と言ったりもするが、要は俳優に近いものである。

 自分は、プロのキャラクター役者になって二年余り。見習いよりは上のランクというわけだが、まだまだ若手だ。

 だからこそ、仕事の先輩には気をつける必要がある。いくらキャラクター役者が実力勝負の世界だからといって、先輩後輩の関係性を蔑ろにしていいわけじゃない。先輩には、失礼のないようにするのは当たり前だ。

 面と向かって歴を聞くわけにはいかないので、自分で相手を観察し、距離と立場を測らなければならない。やや離れた左に立つリカは、四年目くらい人だろうとミサは推測した。

 ミサはロッカーを開ける。その中には、これからの撮影で使用する衣装である、ブレザータイプの制服が入っていた。

 設定資料で把握した限りでは、高校の制服らしい。上着はベーシックな紺色で、スカートは少し可愛めな赤色のチェック柄だった。

 私服を脱ぎ、衣装の制服に着替える。その途中で、新たな人が更衣室にやってきたり、逆に着替え終わった人が出て行ったりした。先にいた、長い黒髪の人も出て行った。

 それを合図にリカと、新たにやってきた三年目くらいの赤髪ショートの人が会話を始める。

「あのきれいな黒髪の人。ミヤビさんですよね?」

「そうそう。ミヤビさん」

「初めて生でお会いできました」

 ミヤビ。キャラクター役者をしている人なら、そのほとんどが知っている。超有名人だ。

 長く綺麗なストレートの黒髪と、妖しくも美しいその容貌で、様々な作品に引っ張りだこな人物だ。黒髪でミステリアスなキャラクターだったら、間違いなくこの人の名前が挙がる。

 役歴――キャラクター役者の歴という意味――は、十五年を超えているらしい。……が、その年齢は公開されていない。ただ、幼い頃からプロとして活躍していたという噂があるため、年齢的には自分と大差ないのかもしれない。

 謎多き有名人。それがミヤビという女性だった。

 ミサは着替えを終え、更衣室を出る。更衣室の前室が控え室になっており、撮影の準備が整うまで役者組はここで待機だ。控え室には大きなテーブルと椅子があり、お菓子や飲み物が用意されている。

 もちろん、そこにはミヤビの姿もあった。しかし、どういうわけだか下座に座っている。下座に座って、紙コップで何かを飲んでいた。

 案の定、ミヤビの前の席に座っている人はいない。それもそうだ、超有名人の前に座るのにはかなりの勇気がいる。他に空いている椅子があるのに、わざわざそこに座る必要もないだろう。

 ――だったら、あたしが座る。

 ミサはそう決心した。目の前に座れば、ミヤビを堂々と観察することができる。

 自分と、この人は何が違うのか。それを知りたいという気持ちがあった。

「失礼します」

 一言断ってから、ミサはミヤビの前の席に腰を下ろした。

 ミヤビは一瞬ミサの方に顔を向けたが、すぐに手に持った紙コップに視線を戻した。やはりどことなくミステリアスな雰囲気を身に纏っている。

「ミヤビさん! 隣、座ってもよろしいですか?」

 そう尋ねたのは、青髪ポニーテールのリカだった。ミヤビはそれに対し、こくりと頷く。

 それから少しの間、ミサはミヤビの観察を続けた。すると、分かったことがあった。

 人が動くたびに、ミヤビの目がきょろきょろと動いている。視界に入った人の動きを見るかのように、目が動いているのだ。まるで、注意するように。

 ――もしやこれは、あれだろうか。


 ミヤビさんって、人付き合いが苦手なタイプ?


 もしくは、人見知りが激しいということもあり得る。あまり関係を持たない人がそばにいると、落ち着かない性格なのだろうか。――ちょっと意外。

 そう思うと、ずっと遠い存在だと思っていた人が、急に近く思えてくる。この人との違いを知るつもりだったのだが、これは思った以上に成果はなさそうだ。

 そもそも控え室で待つだけなのに、そこで違いを探せというのが間違っている。こんな限定的な状況で、はっきりとした違いがあるわけがなかった。

 その辺りを内心で反省していると、いよいよ撮影の開始が告げられた。

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