ユイ1-1
ユイ1
ユイは、大型の電光掲示案を見ていた。
本来、『結果発表』というものは、多かれ少なかれ緊張するものである。自分の生み出した作品が、他人にしっかり評価されているか、それが分かる瞬間なのだから。
とはいっても、まだ金賞・銀賞なんかが取れるはずもないことは、自分が一番よく分かっている。自分には、まだまだ未熟な点が多いし、努力も全然足りていない。
しかし、だとしても、自分が精魂を込めて作り上げた作品が、もしかしたら賞を取っているのではないかと、淡い期待をせずにはいられない。
その道を選んだのだから、やはり賞は取りたい。賞を取って、脚光を浴びたい。
たまたまでも、偶然でも、運でも何でもいい。賞を取れれば、デビューができるのだ。
だからこそ、期待をせずにはいられない。『結果発表』には、緊張するのだ。
いつもだったら、そう感じていたはずなのに。
……それなのに。
――今は、その気持ちが全くと言っていいほどなかった。
こんな気持ちは初めてだった。ただ結果を見ているだけの自分がいた。
横三メートル、縦二メートルの大型電光掲示板には、優秀と評された作品が表示されている。
金賞「シュレッダー・サンシャイン」
銀賞「妹尾さんち」
銀賞「君はやっぱり変態だ。」
選考委員奨励賞「Halation」
時間が経つと、電光掲示板の表示が切り替わり、最終選考落選の作品たちが表示される。
その中にも、もちろん自分の作品はない。
悔しそうに話をしている声が、ふと聞こえてきた。ユイは隣を見る。おそらく、最終選考落選になってしまった作品を作った人たちなのだろう。――惜しかったね。
再び時間が経つと、電光掲示板の表示が切り替わる。今度は三次選考落選の作品群が表示された。その数は、最終選考落選よりもさらに多い。
ここにも、自分の作品はなかった。
また話し声が聞こえてきた。次は後ろからだ。三次選考落選の人たちだろうか。もう次の作品に生かすべく、反省会を始めている。――行動が早いことで。
二画面と半分に渡って三次選考落選の作品が表示されたあと、次は二次選考落選の作品が表示される。その作品数は前の三次選考落選よりも、さらに増えている。
自分の作品はない。
何画面にも渡って二次選考落選の作品が表示され、そしてようやく、一次選考落選の番が回ってきた。
それから、一〇〇以上ものタイトルが表示されたあと。
ついに、自分の作品のタイトルを見つけた。
自分は、『ライトノベルの素』を作る仕事の見習いだった。
そもそもの話として、ライトノベルの素とは何なのか。そこから言った方がいいだろうか。
素とは、端的に言えば、『作品が作られていく前段階の、作者の頭の中に生まれる原案』のことを言う。
さらに噛み砕いて言うなら、まだ形になっていないぼんやりとしたイメージ、が相応しいだろうか。こういう作品を思いついたとか、そのくらいの認識を、原案と呼んでいる。
そして、現実における全ての作品には、全て原案というものが存在する。
原案が頭の中に生まれて、初めて作者は作品を作り始めるのだ。その原案を具体化するように、そこからストーリー構成だったり、プロットだったり、人物相関といった作業にシフトしていく。
そしてそれを経て、現実世界に一つの作品は誕生するのだ。
現実世界の人の、頭の中に生まれる原案を作る。それが、素を作る仕事である。ここで作られた素が、現実世界の人の頭の中で原案として存在を成すのだった。
自分はその中でも、ライトノベルを専門としていた。そのため、『ライトノベルの素』を作る仕事、となるのだ。――まあ、見習いなんだけど。
見習いと、そうでない人の違いは、またおいおい話す……かもね。