1曲目「〆切」
(早く帰りたい...)
登校中だが俺は早くもそう思っていた。
早く帰りたいと言うか、早く帰らなければいけないのだ。
なんでかって...それは...
「なんで曲の〆切今日なんだよおおおおおおおおおおおおおおおお!」
そう、俺は"DTMer"
(ヤバいヤバい...今回だけはほんとヤバい...)
DTMer:作曲家なんて呼ばれたりもする。
脳裏にうちのレーベルの主宰の言葉が蘇る。
『今回Iliruくん遅れたら...そうだなぁ...メンバー全員に焼肉を奢ってもらおっかな?(笑)割とマジで。』
俺は入矢 榴維、Iliruという名で作曲活動をしている。Growin' Branches Recordz(以下GBR)所属。得意なジャンルはフューチャーベース(最新の音楽ジャンル、大きな括りだとハウスとかに分類されるのかな?まあ詳しくは自分で調べてね)だがHDM(自分で調べてね、以下同)とかプログレッシブハウスとかトランスとか、ダンスミュージックだったら割と何でも書ける。
普段は普通の高校一年生だし、これと言って特殊能力は無いし魔法も使えないが、作曲活動をしているのはちょっと普通じゃないのかもしれない。
(今回ばかりは遅れたらまずい...今まで散々迷惑かけてるGensuke(GBR主宰)さんとか他のメンバーに申し訳ないし、自分の金で焼肉を食べさせる!なんて無理、破産しちゃう。)
「はぁ...どうしよう...」
学校に着き、席に座ってため息をつくと、
「よ!入矢、今日も全然元気ないな!」
クラスメイトの髙田 匠機が話しかけてきた。
「また徹夜したんか?」
「そうだけど...」
DTMerじゃなくても〆切直前になって徹夜し始める奴はたくさんいるよな、多分。
「とりあえず眠いから寝かせてくれ」
「まあまあそう言わずに」
髙田を追い払おうとすると
「例の案件、引き受けてくれるか?」
「例の案件?あぁ、あれか...」
例の案件、それはバンドへの勧誘である。
俺は前にピアノを習っていてそれなりに弾けて、中学校のときは吹奏楽部でパーカッションをしていたから若干ドラムが叩ける。が、俺はバンドが出来る状態じゃない。DTMのタスクがあって毎日が忙しいからだ。しかも俺はただでさえ遅筆気味だ。どう考えてもやる時間がない。
「断るよ」
「そこをなんとか頼むよ、どうしてもドラムをやってくれる奴がいなくて」
「俺は忙しいんだ、バンドをやってられる時間なんてない」
「お前のどこが忙しいんだよ」
ギクッとした。学校の連中にDTMをしていることは言っていない。言ったら冷やかされるし、『作った曲聴かせてよ』とか言われそうで嫌だ。大体そんなこと言ったら『バンドに曲書いてくれ』とか言われて更に忙しくなりそう。大体俺バンド曲書けないし。
「いやぁ...ね...ちょっと事情があるのよ...」
「そうか...」
何かを察してくれたようで髙田は去っていった。ゴメンネ...
半分寝ながら授業を受け終え、学校から解放された俺はダッシュで自転車置き場へ行き、自転車で帰ろうとすると背後から声をかけられた。
「おい」
冷徹な声で話しかけられた。
振り向くと色白の美少女が立っていた。
「後ろ、乗せろ」
幼馴染の白﨑 凍子だ。
どういう訳か、今までずっと同じ学校に進学してきて、とうとう高校まで同じところになってしまった。所謂"腐れ縁"
「いや、ちょっと今急いで
「乗せろ」
「お前の家まで送る時間なんて
「乗せろ」
「人の話聞いて
「乗せろ」
「わかったよ!お前の家まで送ればいいんだろ?さっさと乗れよ!」
「...」
後ろに凍子を乗せて自転車をこぎ始めた。
「言っとくけど、これ法律違反だからな?」
「わかってる」
「パクられたらお前のせいだからな」
「...」
「お前って普段からチャリで来てなかったっけ?」
「修理に出してて無い」
「ふーん...」
相変わらず無愛想な奴だな...
かくして俺は警察にも会わず凍子を家に送り届け、地獄の作業をするために急いで自宅へと自転車をこいだ。




