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無理なものは無理。

公園から移動しました。

 交番には行った。

 警察にも行った。

 役所にも行った。

 スーパーも110番の家も行った。


 自分の思いつく限りは行ったと思う。


 なのに何処に行っても「兄弟なんでしょ?」って言われて帰される。いや、始めは「迷子がいる。」という言葉を信じてくれるんだけど、少年が「お姉ちゃん、もうボクと一緒にいるの嫌になったの……? イタズラしたのは謝るから、ボクを見捨てないでっ……ごめんなさい、ごめんなさい……!」と泣きだすのだ。


 当然周りの目は白けた物になる。年の離れた弟のイタズラに大人げなく憤慨し家に入れない姉、虐待にあたる行為だと諭される事もあった。


 最後には涙目を常時装備しやがるんだから手に負えない。

 どこで覚えた、そんな技。



「へー、ここがこっちの人間の家か。やっぱり色々違う気がするね。」


 言いながらソファに腰掛け「柔らかいな、気に入った。」と呟く。


 笑顔は純粋で可愛い。まるで天使だ。ただ中身が悪どかった。

 なんだこれ、なんの詐欺だ。近頃の家出少年はこんなにも強かで逞しく寄生するものなのか。


 どうせ1日暇だからと、面白そうな厨二患者を見つけたものだと構ってやったのが運の尽き。見事に家まであがりこまれてしまった。


 だいたい、年の頃……多く見積もっても小学校高学年くらいに見えるが学校はどうした。いいのか。……よくないよな。


 どうする、これ。本格的に誘拐犯じゃないか私。

 例え少年が無理やり押しかけてきたのが事実だとしても世間はそうは捉えてくれないだろう。


 “幼い少年を自宅で拉致監禁。容疑者は独身、一人暮らしの女性。”


 一瞬で自分が犯人となるニュースの見出しが思い浮かぶ。……ああ、お父さん。お母さん。親不孝な娘でごめんなさい。


「オレが原因でキミに問題が降り掛かるとしても、オレはキミが頷いてくれるまで離れないからね。」


 いい笑顔で言いきってくれますね。この質の悪い家出少年は。


  「だいたい、さっきは了承してくれたじゃない。あの時、そのままオレと飛んでくれればこうなる事もなかったのに。」


 ……そう、このままじゃ埒があかないと思った私は、1度少年の設定に沿って異世界とやらに行ってやろうとした。今更感半端ないが、天の邪鬼が働いてなかなか少年の言葉に頷けなかったのだ。しょうがない。


  了承すると少年はそれはもう嬉しそうな顔をして「早く早く」と私の背を押した。


 そして連れられたのは、橋の上。


 そこから共に川に向かって飛び降りようというのだ。


 驚いた。厨二病の家出少年は自らのライフを犠牲に実施される紐なしバンジージャンプ希望者でもあったのだ。


 流石に付き合いきれないと帰ってきて、今に至る。例え誘拐犯と疑われる事になろうとも、命あっての物種。ああ、生きてて飲むお茶が美味い。


「……だから、死にはしないんだってば。ちょっとここでの器を外すのに衝撃を受けたいだけ。中身はちゃんと保護して向こうに行くんだから問題ないでしょ? 車に突っ込んでもいいけど相手に迷惑だし。」


 橋から落ちたら中身もぶちまけると思いますけどね!


「キミの言う中身は内蔵とかでしょ? 問題ないよ。」


 いや、問題しかないよ。何この子。命はいくつもあると思ってるゲーム脳か? それとも死ぬ事で堕天した魂が浄化されるとか言っちゃう系なのか? ……あんまり設定詰め込むと後で自分が忘れて矛盾した発言した時に恥ずかしくなるから止めておきなさい。経験者は語るから。……クッ! 封印されし右腕と邪眼と心に巣食う邪竜が疼く……!


「邪竜とかは信じるのに神は信じないの? あんな奴に信仰心で負けてるなんて傷つくなあ。ムカつくから今度潰してやらないとね。」


 そんな弾んだ声で言われてもな。家着くまでドン引くくらい猫被ってぐすぐす泣いていたのに。あの大量の猫はどこ行ったんだ。とても傷ついてるようには見えないぞ。被り直せ。そもそも、少年の話を私が設定にしか思ってないっていうの解ってんだろ。嘘も貫けば真になる、とか言うけど内容が厨二じゃ厳しいぞ。


「そもそも嘘じゃないからね。ほら、心読んだりとかしたじゃん。だいたいあれで信じるものなんだけど。」


 夢はあるけど、現実味が無さすぎてね。少年が心読んでくるのも何かトリックがあるんじゃないかとしか思わんし。どんなトリックかはわからないけど。


「……はあ。異世界移住希望者ってリストからあみだくじしたのに……人選間違えたんじゃないの、ここのヤツ。」


 あみだで決めるとかテキトーだなオイ。


「テキトーだなんて心外だな。あみだの途中にワープとか橋渡しとか作ったせいで1ヶ月もかかったんだよ? 移住希望者の名前書くのも時間かかったしね。なんなんだこの日本って国。希望者多すぎない?」


 手書きかよ。ローテクだな。自称神様なら魔法使えよ。……つか、あみだで1ヶ月って下準備それ?


「うん、そう。来てもらう側だからね、真心込めたんだ。」


 チートうんたらはどうした。器がどうとか。


「あんなもん送り出した後からでも追加出来るからね、問題ないよ。器はかなり悩んだね、3分も費やした。」


 ……やっぱ行きたくないな、少年んとこ。


「えー?」


 不服そうに口尖らしてるけどな? 誰が好き好んで3分で作られた身体受け取るよ。幼稚園の工作レベルじゃねえか。


「神の3分って凄いんだよ? 世界壊してもっかい作る程度なら1秒と要らないんだから。そんな事したら査定に響くからやらないけどさ。キミには到底理解が及ばないレベルで複雑な公式とかを詰め込んだのが新しい器なんだから。ホント、価値が解らないヤツはこれだから。」


 ……へえ? 少年はどうやら今日の夕飯は要らないらしいな?


「え。」


 ああ、残念だったなあ。駄菓子とはまた別の満足感を得られる食事を作る予定だったのに……。豚肉の生姜焼きにポテトサラダ、美味しいんだけどな……少年は要らないらしいからこれから作るものは私1人で食べないとな。ああ、非常に残念だ。とても美味しいのに。


「……そんなに、美味しいの?」


 さてと、少年が講釈垂れてる間に研いだ米をガス釜にかけて……同じく蒸してたじゃがいもを潰すかな。皮を剥いて……おお、ほっくり! これはとても美味しいポテトサラダが出来そうだ! でも残念! 少年は要らないらしいからな!


 湯気をあげるじゃがいもを見つめて少年がごくりと喉を鳴らす。


「オ、オレも……。」


 んー? 何か? 価値の解らない私が作る料理だからね! 価値の解る少年にとっては価値のないものしか出来ないだろうしそんなの要らないよね?


「うぐ……。」


 じわじわと少年の瞳に涙が溜まっていく。


 ……やば、やり過ぎた? いやでもまさか泣く程とは……。いやいや、お得意の泣き真似でしょ? タチが悪いぞ少年!


「うっ……うえ……っ!」


 騙されないぞ。


「ひっく……えぐ……ふえ……!」


 …………さ、流石にこの量のじゃがいも潰したりきゅうり切ったりするのは手間だなー! あー! 誰か手伝ってくれないかなー! 手伝ってくれたら出来上がった食事は半分あげるんだけどなー!


「ひっく……ホ、ホント……?」


 ホント、ホント! いやー! 誰か手伝ってくれないかなー! チラチラッ!


「……しょうがないなー。オレが手伝ってあげるっ。……その代わり半分もらうからね! 絶対約束!」


 ……おお! 約束するする!


 じゃ、じゃあ、とりあえずじゃがいもはまだ熱いから、先にきゅうり切ってくれる? あ、包丁持った事ある? 家庭科で持ちそうなものだけど、最近は安全にうるさいらしいからね? どうかな?


「ホウチョウ?」


 あっ。これ使ったことないヤツだわ。

 こう、利き手で包丁を持って、反対の手を熊さんにして、すととととん! ゆっくりでいいからね! 同じような厚さで1枚ずつ切ってくれればいいから!


「同じ厚さに切ればいいの? 簡単だね、任せて。」


 うん、そう……って、なんで包丁置いてんだ少年。

 手で千切るのは今回無しだぞ。


「“切れろ”。」


 少年が手を翳すと、きゅうりがまるで包丁で切られたかのように分かれる。


「次はこのじゃがいもを潰せばいいんだったね、“潰れろ”……出来た! 次は何すればいい?」


 同じく手を翳されたじゃがいもは何かで押し潰されたかのようにボウルの底にへばりつく。


 ……は?


「ん?」


 はあああああ?! えっ! 何、今の?! 魔法? 魔法なの?


「なにいきなり大声を出して、近所迷惑だよ。」


 あっ、ごめんなさい。

 ……いや、違う! だっていま、だって!


「魔法なんて珍しくもないでしょ。オレの区域の力だよ。神であるオレが使えなかったらそれこそ問題でしょ。」


 珍しいよ! 魔法……魔法!


「……なんなの、誘い文句の1つにしても反応が薄かったから興味が無いのかと思ってたのに。がっつり食いついてるじゃない、キミって解らないな。」


 ね、ねえ! ファイア! ファイアって!


「そんなの使ったら火災が起きるよ、水でも被って落ち着いたら? “水球”。」


 はぶっ……!


「……あー、ごめん。顔だけにかけるつもりが制御ミスって全身に……。」


 ……何も無いところから水がいきなり……ま、魔法だ……本物の魔法だ……! きゃー! 凄い! きゃー!


「……大丈夫そうだね。食事……ちょっと作り方の記憶だけもらうから。」


 魔法! 魔法! 凄い! 水がぶしゃーって! ぶしゃー! きゃー!



 「レタスとロースハム、マヨネーズ……あと作り置きの人参グラッセ使えばいいか。ええと……人参、ロースハムは“切れろ”、レタスは“千切れろ”、マヨネーズ入れて……“混ざれ”。……こんなもん? あとは生姜焼き……豚肉、豚肉。」

お互い色々チョロイようです。

生姜焼きとポテトサラダ……食べたいですねえ。

お味噌汁も追加でお願いしますね。具材はキャベツと卵を所望します。

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