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依存症

明るい吸血鬼の話が書きたかった。

ただそれだけなのに……どうしてこうなった?

「ねぇねぇちー、このあと……してもいい?」

「ちょっ、言葉を選びなさいよ馬鹿!」

 慌てて口をふさぐも時すでに遅し、クラスメートからはにやにやと呆れの視線が同時に突き刺さる。

 そうじゃない!そうだけどそうじゃないの!

 うう……どうしてこうなった……。


***


 私の幼馴染の彼女、押見(おしみ)詩央(しお)と私こと苑田(そのだ)千裕(ちひろ)は、互いに“しー”、“ちー”と呼び合うほどの長い付き合いになる。

 ただ、しーはちょっと困った体質を持っていた。


 ――それは、不定期なタイミングで突然貧血になり、他の人の血を求めてしまうというものだった。

 この体質のせいでうかつに人づきあいできなかったこともあり、出会った当時の彼女はそうとう暗かった。


 思えば彼女との関係は、小学校1年の時に忘れ物を取りに行ったらしーが倒れていて、先生を呼びに行こうとしたら押し倒されて吸血されたところから始まった。

 ――今思えばちょっと恥ずかしいなこれ。

 そういえば吸血しながらも、しーは泣いていたんだっけ。

「また、人を傷つけちゃった……。ごめんなさい……ごめんなさい……」

 どうにかして泣き止んでもらいたくて、でもいい言葉も思いつかなかったから、とりあえず抱きしめてあげた。……今思えば本当に大胆だったな、私。

「大丈夫、ちょっと驚いちゃっただけだから。……私の方こそ、気づけなくてごめんね?」

 その頃は、何の因果か委員長を任されていたんだった。

 親の教育もあってか、責任感の強かった私はこの出来事を結構重く受け止めていた。


 ――そして、さらなる大胆な行動に出る。

 

 授業が終わって帰りの会が開かれたときのこと。

「じゃあ、今日はこれでおしまいです。他の方から何かありませんか?」

 と、いつものように先生が取り仕切ると

「はい!」と私は勢いよく手を挙げて答えた。

「……苑田さん?どうしましたか?」

「皆さんに伝えたいことがあります、前に出てもよろしいでしょうか」

「ええ、構いませんよ」

「あ、あと押見さんも前にお願いします」

「……え?私ですか?」

「はい、お願いします」

 おずおずと前に出るしー、何事かとざわめく生徒たち。

 私はそのざわめきをも吹き飛ばすかのごとく、大きな声で言った。

「皆さん!押見さんはおびょうきを持っています。しかも、治すのがとても難しいということです!」

 いきなり何を話すのかと不安な顔でこちらを見つめるしー、思い思いの顔をするクラスメート。

「もし、押見さんが困っていたらみんなで助けてあげてください。そして、押見さんに何かあったら、私を呼んでください!」

 そして、しーの手を取って宣言した。

「今日から私は、押見さんの係です!」

 しーは、驚きと嬉しさがまじりあったような、それでいて泣きそうな表情だった。


 ……思えば、昔の私は本当に大胆で恐れ知らずだったなぁ。


 それからというもの、彼女に対する偏見・差別をなくすために奔走した。徹底的にしーをかばい、守ってきた。……今考えれば、過剰とさえ言えるまでに。

 わかってる、わかってるんだ。しーがここまで私にべったりになってしまったのは私のせいだって。

 「いつでもそばにいてあげるからね!」とか、「もっと私に頼ってもいいんだから」とか、今考えればプロポーズの言葉にしか聞こえないよね、これ。


 私は委員長の責任感として始めた行為だったわけだが、思春期ともなると私もしーもだんだんと関係が変化してくる。


「……はぅん」

「ちょっ、しー大丈夫なの?」

「ごめん……今日もお願いね?」

「う、うん……///」

 中学校に入ってからというもの、しーの方が私の方に積極的にアプローチをかけるようになった。

 それと同時に、私が吸血行為によって生じる感情に恥ずかしさを覚えるようになっていた。

 小学校の頃は治療のために、かなりの頻度で薬を飲んでいたしーだったけど、このころになるとあまり飲まないようになってくる。もともと私が『子供のころから薬に頼ると危ない』という話をどこかで聞いて、しーにあんまり薬に頼ってはだめだと言っていたからなんだけれど(だからこその「もっと私に頼ってもいいんだから」というわけなのだ)。

 昔交わした約束を破るわけにもいかないし、やれやれと思いつつも結局は彼女の要望に応えてしまっていた。……甘やかしもいいところだ。


 気が付いたら、しーと私の立場が完全に逆転していた。

「や、やるなら早くね!また声でも聞かれたらなんて言われるか……」

「私だけもらってばかりじゃ悪いから、ね?ちーも気持ち良くなればいいの……」

 ああ、あのころの純真なしーはどこへ行ってしまったのか。


「んっ……ふっく……ちゅる」

 清楚な見た目からは想像もできないような妖艶な表情で指から血をなめとるしー。

「んぁふっ!んん……!んっふ……」

 吸血行為中はなるべく声をあげないようにしてはいるものの、どうしても少しは漏れてしまう。

 しかも、長年の行為により、彼女は私のくすぐったいツボを押さえてしまったらしく、重点的に責めあげる。

「んちゅ……ちーの声、可愛い」

「――っっ!」

 しかも、大きい声を出せないことをいいことに、耳元で言葉攻めをしてくるのだから、たまったもんじゃない。

 もしも自宅だったらこのあと下の方にも指を入れられて……ってもうこれ以上は言わないからね!///


 ……まあ、そんなこんなで人にはおおっぴらにできない仲です、はい。


 中学校時代はまだ人気のないところでこういうことするくらいだったからよかった(いやよくないけど)。高校になってからは中学時代のクラスメートにはもう遠慮する必要性を感じなくなったからなのか、人前でもはばからず「しよう」だの「したい」だの言うし、貧血になりやすいことを言い訳に私にべたべたくっついてくる機会が明らかに増えたし、わざと誤解されるような関係にみられるようにふるまっているとしか考えられない。

 そこで私もようやく気付いた、しーは私のこと本気で好きなんだって。

 そして、私も――

「私、薬じゃなくてちーの依存症にかかっちゃった。だから、責任とってね?」

 ……言われなくても、そうするつもり。

 責任感から彼女を世話していたのも事実だけれど、彼女をこういう風に育てたのもまた私に違いない。

 そこには、『しーも私にとって特別であってほしい』という気持ちもまた、確かにあった。

 私もいつの間にか、ちーに依存していた。

 だから安心して、絶対に離れたりしないから。

「はあぁ……///ちーの血が私の全身にくまなくいきわたって私を生かしてくれている……ふふ」

 ……まあそれよりもまず、ここまで変態度と危険度が上がってしまった彼女を他の人が扱えるとも思えないんだけどね!

 少しは自重してよ!



なんかもういろいろとすみません。

吸血鬼を題材にしているとは言ったものの、もうほとんど『吸血鬼もどき』って感じですし……

現代舞台の吸血鬼小説にはこれからも挑戦していきたいと思います!

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