誰がために咲く
特別な花でなくていい。
貴方自身の、精一杯の花を咲かれればそれでいいのです。
どうして私は、こんな花にアルラウネとして生を受けてしまったのでしょうか。
他の花々に比べると私は、咲いているのかどうかやっと分かるほどの小さな花でしかありません……
こんな花から生まれたアルラウネなど、人に気づかれたら馬鹿にされてしまうでしょう。
……そう危惧してひっそりと咲いていたのに。
ぱったりと、この部屋の住人と目があってしまいました。
私はさっと葉の陰に身を隠します。
ああでも、なんということでしょう。
私の姿に気づいた方が、こちらに気がついて近づいてくるではありませんか……!
「今絶対、花の中に顔が見えたよね……見間違いなんかじゃないよね……」
どうか、どうか早く立ち去ってください。
私になんか、構わないで。
しかし、現実は非情です。
「お花の妖精さーん、お顔を見せてくださいな?」
葉の隙間からちらりと見えた少女の目は好奇心に輝いています。
「うーむ……しぶといな」
そういうと少女が遠ざかります。
……おや?諦めたのでしょうか。
しかしそうではありませんでした。
「ひゃわっ!」
冷たいっ!冷たいですっ!
「しゃわわわわ~……」
彼女はじょうろで、真上から水をかけてきたのです。
突然のことでしたので声も出てしまいましたし、隠していた葉っぱも離してしまいました。
今や、私は丸見えの状態です。
「ふふふー」
ああっ、彼女がこっちを見ています!
大きい!怖い!
しかも、まるで格好の獲物を見つけたかのような笑み……!
ま、まさか私、食べられちゃうんでしょうか……!
だめです!私おいしくないです!
「はじめまして、だね」
は、はじめまして人間さん……アルラウネです。
しがない花から生まれた、花の精です。
「アルラウネって聞くと、もっとおっきくて人智を超えたパワーを持ってるってイメージだから、なんか意外だったね」
全部が全部そうというわけではありません。
元に私のように、アルラウネとして生まれても特に力もないものも居ますから。
「でも、花に似合って、可愛い感じでよかった」
か、かわいい、ですか……
……アルラウネとしてはちょっと、複雑な心境です。
本当はもっと、人に恐れられてこその種族のはずなんですが……
それに、周りに咲いている花々に比べれば、私はちっぽけなもの。
きっとアルラウネ史上最小を記録するでしょう。
私は……どうしてアルラウネとして生まれてしまったのでしょうか……
「も~、アルラウネちゃんはわかってないなぁ」
え?な、なにがですか?
「私とこうして、おしゃべりするためだよ」
え、えぇっ!そうなんですかっ!
っていうかなんでそんなことあなたがわかるんです!
「そりゃわかるよ、だってあなたは私が一番手塩にかけて育ててきたんだもの」
*****
初めてあなたと出会ったのは……そう、小学校に上がる時。
私の誕生日プレゼントと小学校入学祝いを兼ねてもらったのが最初。
思えばこれが、私が花を育てることが好きになったきっかけだった。
毎日毎日、友達のようにいつも話しかけていたっけ。
嬉しいことも、悲しいことも。
他の人には話しづらいことでも、あなたには話すことができた。
ただある日ね、水やりを忘れちゃって。
もう少しで枯らしそうになった時があった。
その時はもう本当に泣いて泣いて……
もう絶対にそうすまいと誓ったんだ。
その頃かな。
花と本当におしゃべりできたらいいのになって思い始めたのは。
そうすればもう少し水がほしいとか、お花の調子がわかると思ったし、
何より、楽しいと思ったからね。
*****
「……だから私は、感謝してるんだよ。この出会いを」
……
「だからさ、もっと自信持ちなさいよ。ね?」
自信、ですか……
「じゃあ、もう一ついいことを教えてあげよう」
……?
「私の名前、あなたとおんなじ名前なの」
えっ……
「同じ『◯◯◯』って名前なのよ。
なんか、運命みたいじゃない?」
屈託なく話す彼女の慈愛に満ちた笑顔は、太陽のように眩しくて
……そして、暖かく感じました。
そう、ですか……
そうだったんですね。
あなたこそが、私を照らす太陽だったのですね。
わかり、ました。
私は、あなたのためだけに咲く花になります。
きっとそれが、私に課せられた定めなのでしょうから。
だから――
これからももっと大切にしてくださいね?
「ええ。私も、あなたからの話をもっともっと聞きたいの。いいでしょ?」
は、はい。喜んで……!
~翌日~
「おはよー……ってあれ?もしかして増えた?」
はい、妹分ができたみたいです。
名前は――――――
ネガティブ系アルラウネちゃんと、お花大好き娘さんのお話でした。
想像に似合う花の名前を当てられず、伏せ字で対応させて頂きました。
いつか機会があって彼女たちにあう名前が出てきたら名前をつけてあげたいと思います。
若干消化不良気味だったので、知らないうちにちょこちょこ書き直すかもしれません。




