花の咲く音
花が咲く音を聞いたことがありますか?
ユミには花の開く音が聞こえます。
花が咲く時に何でわかるのでしょう。ユミにもよくわからないのです。つぼみがふくらんで、今咲こうとしている花は、ユミを呼んでいるみたいで…、ふと顔を向けると咲くのです。
「きのうねタンポポ、開くのがわかったの。花びらがたくさんあるからね、パラパラパラって、オルゴールみたいな音がするんだよ」
ユミがうれしそうに言うと
「そう、よかったわね。すてきね」
お母さんは、いつもやさしく、にっこりとほほえみます。
(あーあ、ユミの言うこと、信じてないんだな)
ユミにはなんとなくわかっていました。
ほんとうは、花が咲くときに、お母さんを呼びに行って、いっしょに見ればいいんですけどね。そう思ってはいるけれど、もぞもぞっと花びらの開く感じがして…、咲くぞ! とわかってからお母さんを捜していたら、もう遅いのです。
しょうがないな、とユミは思いました。なんでもかんでも、お母さんにわかってもらうのって、大変ですからね。
それに、近所のお友だちのノンちゃんなんか、いっしょにいて、花が咲くそのときに
「ほら! 今、チューリップが咲いたね。ポコンってかわいい音がしたでしょ!」
ってユミが言っても
「何言ってるの? さっきから咲いてたよ!」
と、変な顔で見ます。
藤の花なんか、水が流れるようにピラピラピラピラって、それはみごとに鳴るのにね。
どうして、みんなわからないのかしら。ユミはいつもくやしく思っていました。
春から夏にかけて、いろいろな花がいっぺんに咲く時は、オーケストラなみです。バラなどの大きい花は低い音で、ブルルルン、ブルルルルンと、風をふるわせるようにゆっくり咲いていって、ウツギのようなラッパに似た形の花は、ほんとうにラッパみたいにパパパパパパと、空に向かってかん高くよく通る音で咲いていきます。
だから、ツツジの道を歩くのは最高です。
歩く先からパパパパと開いていって、ユミはその音楽に合わせてくるくると回って、リズムをとってしまいます。
「あらら、ユミは踊りがじょうずね」
と、お母さんは、ほめてくれます。
「今、ラッパみたいな音、聞こえたでしょ?」 そういっても、お母さんは、ただ笑うだけですけれどね。
ユミがなんといっても好きなのはアジサイの花。
色のない花びらが雨をはじいて、ピュピュピュピュと、透明な静かな音にのって、どんどん色づいていくのがわかるのです。
ユミも花に負けじとカサをクルクル回して、水たまりの中で思い切り水をはねかえします。
そんなとき、通りがかったおとなたちは、フフフと笑って見て行きます。その笑い声はふしぎにアジサイの色づく音ににています。
ユミはある日、気がつきました。人はみんな…、もちろん、お母さんも、ノンちゃんも、実は音が聞こえているんじゃあないかなって。
ノンちゃんがあくびした時、ふわあっと、むくげの花がふくらむのと合っていたし、お母さんが笑う声は、しっとりとあやめの花が開くのと似合っていました。
きっとからだのどこかにアンテナがあって、花が咲くのがわかっているんだ! みんな気がついてないのに、わかってる! それが、たまたまユミには、耳と目でわかるのだけど…。
注意して見ると、歩く人も、花の咲くときには軽やかに、楽しそうに、パパパと、花の音楽に乗っています。子どもが走るのも、ころぶのも、ふしぎと音楽に乗っています。
ユミはおかしくって、笑ってしまいました。花が咲く頃人が浮かれているのには、そんな秘密があったのですね。
だれに言っても信じてもらえないから、ユミはこっそり観察しています。まるでミュージカルみたいに、花の音楽に合わせて歩き、しゃべり、動く人たちって、楽しくてすてきです。
いつかユミは、この音たちを楽譜に集めてどんな楽器に合うか考えて、演奏する、大音楽家になりたいと思っています。
秋、ユミは葉っぱが木からはがれる音にも気づきました。しずんだ、さびしい音ですけれど、しっとりと心にひびきます。
そんな感じを、人は今までにも歌にしてきたんでしょうね。