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白き者達のティータイム

作者: merry

「ふう、こんなものでいいかしら?」


 息を吐き出しつつ、周囲を確認をする美しい一人の少女───アマニタ・ヴィロサ───。死の天使の異名を持つ彼女はドクツルタケの『きのこの娘』である。今は庭先で友人たちとのお茶会の準備を終え、最終確認をしているところだった。


「茶葉にお茶菓子も用意したし、クロスもこんなものよね。我ながらいいセンスだわ。」


 自身の手際に満足し誰ともなく頷く。するとカランカラーンと甲高いベルが鳴り響いた。


「丁度いいタイミングね、お出迎えしましょう。」


 そういって彼女は正門まで小走りし、戸を開け放った。






「久しぶりじゃのうヴィロサ。今日は招いてくれて感謝する。」

「声か掛けてくれてありがとうございます。これ差し入れです。」


 やや高圧的な言葉遣いはキヌガサダケのクイーン・シルキーと、頭から星を振りまきながら椅子に座ってお辞儀するヤグラタケの櫓屋望星(やぐらやみほし)


「望星ありがとう。クイーンも相変わらずみたいで何よりだわ。あなた達もよく来てくれたわね。」


 紙袋を受け取りつつ応対し、その横にいる者達にも顔を向ける。


「あの、よろしく、です。」

「お邪魔します。」

「…………………………………『ヒャァッハァ!来てやったゼ!』」


 ぴょこぴょこと飛び跳ねながらしゃべるシラウオタケの白魚緑(しらうおみどり)、そっけない挨拶の後は口を閉ざすシロヤマドリタケの山鳥眞白、口では喋らず頭上の牙が生えた帽子からファンキーな声をだすアマニタ・ヴェルナはシロタマゴテングタケのきのこの娘だ。三者三様の反応に微笑みながら、ヴィロサは庭園へと皆を案内していった。






「それじゃあ、お茶入れるから適当に席ついちゃって。」

「あ、私自前の椅子あるんで一つ余ってしますね。」

「あら、忘れてたわ。まあ隅に寄せておけばいいでしょう。」


 うっかりと口にしつつ少し離れた位置に片すと、緑が疑問を投げかけた。


「ゆきちゃんの、分じゃ、ないんですか?」

「そうね、今日は一応"純白の乙女の集い"って銘打ってるからちょっと外れて貰ったわ。」


 苦笑して多少含みのある返しをしたヴィロサ。エノキダケの榎ゆきは全身真っ白な衣装で肌も白い。にも関わらずここに呼ばれない意味がわからず首を傾げる緑だったが、そこに口をはさむ物がいた。


『おめえ知らねえのかヨ!榎茸は天然物はほとんど白くねえんダヨ!それでもお前きのこの娘カ!』

「うぅ、無知で、すみません。」

「………………………ドンマイ」


 帽子から強い言葉で虐げられた緑は泣きそうな声を出し、それを小さな声で慰めるヴェルナ。こちらは本人の口から出たものであるが、帽子の話すことが本音に近いので形だけ取り繕った可能性も否めないのが彼女の彼女たる所以である。


「まあその辺にしておけヴェルナよ。今日は折角仲間同士集ったのじゃ、険悪な雰囲気なぞ作らず楽しもうではないか。」

「……………ワカッタ」

「それじゃ仲直りついでに乾杯でもしましょうか。」


 ひとまず反対せず頷いた少女を畳み掛けるかのごとく、ヴィロサはカップへと紅茶を注いで各自に振り分ける。そして自分は席に座らず、そのまま言葉を紡いだ。


「今日はみんな本当によく来てくれたわ。ここにいるのは毒を持ってるもの、持っていないもの、大きい物から小さいものまで様々な種類が集まってるわ。そんな中、ただ一つだけ共通しているのは皆無垢なる白であるということ。まあ若干一名黒いの混じってるけど、誤差の範囲としときましょう。」


 痛いとこ突いて来るのう、まあまあとクイーンと望星の掛け合いを横目で確認し、予想通りの反応に気を良くする。


「そんな私達だけど、仲間同士仲良くやってきいましょう。あんまり長く喋ってお茶が冷めては何だし、この辺で締めとします。種の更なる繁栄を願って、乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」」






「ところで、今日は集まりましたが何かすることはあるんですか?」

「特に無いわ。ただお喋りしたかったから、集めるメンバー考えてたらこういう方向性が出てきたから採用しただけ。」

「つまり妾でなくとも良かったということか。」


 望星の質問にヴィロサが答えると、クイーンがムスッと不機嫌を顔に出す。


「でも、わたし、ヴィロサさん、クイーンや、望星さん、あったことなかった、から、嬉しいです。」

「私も。」

『俺はヴィロサとは御三家でしょっちゅうだゼ!むしろテメェらの方が初めてダ!』


 御三家とはタマゴテングタケのアマニタ・ファロイデスを加えたアマニタ家に連なる三つの家系で組織されたものである。人によっては猛毒三羽鴉とも呼ばれる大変危険な一族であり、みな揃いも揃って毒を吐く。その中でヴィロサは比較的まともであるのだが、スイッチが入ってしまうとまあ、そのアレである。我が国できのこの娘の毒(魅力)にやられ昇天した人々は数知れず、その大半がヴィロサの手によるものだというのは業界では有名な話である。


「折角だし仲良くして行ってね。またそのうち開くとは思うけど、このメンバーが自動的に集まるのはそうそう無いと思うから。」

「そうですね、私も皆さんとお友達になれたらと思います。」

「ここでは堅苦しいことは抜きじゃ。交友をかわそうではないか。」


 大人な三人はそれを後押し、会話を膨らませていくのだった。






「それで、呼ばれて、歩いた、絨毯が、緑藻生えて、みんな大慌て、したです。」

『ケヒャヒャヒャヒャ!そりゃ傑作ダ!レッドカーペットならぬグリーンカーペットだナ!』

「それはまた災難というかなんというか、ねえ?」

「まさに草生える」


 紅茶が三杯目となる頃には緑が語った体験談によって明るい空気が広がっていた。きのこの娘にはユニークな特徴を持つ者が多く、緑は自身の歩いた道に緑藻が生えるという現象を引き起こすのだ。正確には歩くではなく飛び跳ねて移動するため、緑の紋様が点々と続く様相になる。


「ただでさえ、人前苦手、なのに、すごい、恥ずかしかった、です。」


 だんだん語尾が小さくなり、白魚のような肌が朱色に染まっていく。その様子に周囲はより一層暖かな空間となり、クイーンに至っては(これ持ち帰りたいのう)などと考える始末である。考えるだけで言葉に出さないのは年長者ゆえの自制心か、はたまた自身の心境を気取られるのが嫌なだけなのか定かではない。


「さて、あと話してないのは望星だけね。時間もいい頃合いだし、それ聞いたらお開きにしましょうか。」

「わかりました。何話しましょうか……………そうだ、今日は初めての集会ですから、わかりやすいところにしましょう。外見についてなんてどうですか?」

「外見?望星さん綺麗です。」


 眞白がそう答えるが、望星自身はどこか自重めいた笑いを浮かべていた。彼女もここに呼ばれた純白の乙女らしく白く靡く髪と肌、服も白が基調となっている。頭にはファーで作られたような帽子が載っており、そこからは時折星のような物がキラキラ降り注いでいた。タイツはどういう理屈かその先が透けて見えており、全体を通して幻想的な少女がそこには居た。


「頭のこれ、実は帽子じゃないんですよ。」

「帽子じゃない?それじゃあもしかして胞子だったりするんですか?」

『ギャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハっ!』

「っく、っっっっっっ。」

 キョトンとした顔で首を傾げると、けたたましい音、何かを堪えるような息遣いが聞こえた。


「えっ、えっ?!どうしたんですか?」


 何やら知っている風な者達の反応に困惑し、もともと気が弱い眞白は狼狽える。綺麗と褒めていたはずなのに、いつの間にやら周りが笑っているのだ。それは望星に対して向けられたものなのだが、自分の発言にそのような意思を向けられているように錯覚して涙目である。


「まあキノコが振り撒いてる物って言ったら、そういう回答が出るのが普通ですよね。」

「あんまり勿体振らずにそろそろ教えてあげなさい。」


 望星とヴィロサすら笑い混じりにしているのを見て、潤んだダムはもはや決壊寸前になっていた。


「焦らしてたわけじゃないんですけどね。それじゃあ言いますが、フケなんですよ。これ。」

「………フケ?」

「見えないでしょ?でも本当にこれフケなのよ。」


 理解が及ばないのか固まってしまった眞白に諭すように言うヴィロサ。望星もこういった反応には慣れているものの、どうしましょうかと言わんばかりの様子。しかし意外なところから声がかかった。


「望星さん、変じゃ、ないです。」

『ケケケッ!それくらいで驚いてたらやっていけねえゾ!』


 緑は言う。頭からフケが出るのは当たり前のことだ、それが人より多いだけのこと、むしろ綺麗で素晴らしいと。自分は緑藻が生えるそのほうがよっぽどおかしいと。

 ヴェルナは言う。口が2つある自分のほうが異形だと、考える所は一つなのに上と下では話すことが違う、神経すら異常かもと。

 言葉が途絶えた後には、2つの嗚咽があった。眞白は自分の許容の狭さを知り恥じており、望星は望星でそのように言われたことが無かったのだ。ましてや両極端にいると思われる引っ込み思案な緑と、毒舌を振りまくヴェルナ。その二人に励まされた事実に涙が止まらなかったのだ。


「望星さん、すみませんでした。私視野が狭かったみたいで。」

「気にしないで。あなたが貶した訳でもないし、私もちょっと自虐的になってたところもあったから。」


 ハンカチで目元を吹きながら、それでも晴れやかな顔の望星に、眞白も表情穏やかになっていく。


「よし、それじゃあ感動のお話もあったところで、今日はこれでお開きにしましょうか。」

「そうじゃのう。これからも集まることはあるというし、この程度にしておいたほうが次も楽しめそうじゃ。」


 年長者二人の締めくくりのもとに、このお茶会は幕を閉じたのである。








 皆の微笑み遠ざかっていく姿を見ながら、満足そうな者が居た。


「うーん、今日は予想より楽しめたわ。今度はいつ開きましょうか?来月、じゃあちょっと遠いわよね。二週間後、じゃあちょっと早いかしら?二十日後くらいが妥当かしら?お茶菓子も新しいの仕入れなくっちゃ。」


 一番楽しんだであろうきのこの娘の姿がそこにはあった。

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