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IRREGULAR《アン・エイビー事件編》  作者: 616
第二章※アン・エイビー猟奇大量殺人事件・発端編
7/35

1:アン・エイビー連続猟奇殺人事件 C視点

  



12月20日 午後




  挿絵(By みてみん)




 空は灰色で重く、雪の降りそうな薄暗い日だった。

「くそ…っ!」

 男は人柄に似合わない罵声を吐いた。

 普段の彼なら、絶対に口にしない類の言葉だったが、こうも追い込まれると口をついて出たのかもしれない。

 右目には真新しいガーゼが、肌に直接テープで貼りついている。痛みから大きく体は傾ぎ、長く続く白い塀に左肩を支えさせ、ずりずりとしがみつく様に進んでいく。

 虫の声が聞こえていた。



 がぁぁあああ……ん


 遠くから地響きと共に爆発音。ハッ、と男は隻眼を上げた。西の空にもうもうと黒い煙が上って雲にドロドロ溶けていく。

 虫の音がやんだ。静寂。


「くそ……なんで…」男はうめく。小さく妻の名前を呟いた。


 希望の光がまた一つ、男の胸でポッと潰える。



「目を…あいつに目を渡さないと……」

 血の味をする唇をかみしめ、彼は立ち止りかけた右足を引いた。また黙々と、左肩を支えに足を進める。

 ガーゼを張り付けていない方、残った左目は爛々と鈍く、金色に光っていた。雲に陽が隠されていたその日、ことさらに良く目立つ。

 騒ぐ彼の心臓の音と同じだけ、瞳の中心にある瞳孔からは、金色の円が広がっては瞳の淵に消えていく。


 カシャン、と、右手に握りしめていた彼のトレードマークだった赤い眼鏡が地面に落ちた。けれど彼はそれに気づかない。


 もうそれは譫言うわごとだった。

 ダイモン・ケイリスクは呟き、歩を進める。






 ※※※※



12月24日 午後




 トム・ライアンは、管理局の情報総括指揮部隊。第二部隊の長たる男である。

 シルバーグレイの髪を後ろになでつけ、鉤鼻にモノクルを引っかけた壮年の紳士は、身長が自分の胸ほどしか無い黒人の小男、ミゲル・アモにデスクの向こう岸から一声かけた。


「第三部隊隊長就任、おめでとう」

「ケッ」

 ミゲルは吐き捨てた。「これでアンタの下から出られると思うと、せいせいするぜ」

「おや、そんなに私を嫌ってくれるなよ。……まあ、幸いにも・・・・幸先良い始まりではなかったようだがね」

「まっ…たくだ! 初の大仕事が身内の不祥事だったからな! ったく、アテにならねえ指示ばっかり出しやがって、右往左往するハメになったじゃねえか」

「いやあ、直前に君が第三部隊の隊長になってくれて、実に、まっこと、助かった! 私の仕事の微々たる雑務が一割二分ほど減ったからね」

「……」


 イメージ。【ヒット! デッドボォォォォォオオル! 】



「ははは」

「…………相変わらず、真実三割の大嘘が上手なこって」

「おや、私は君に対して嘘はついたことは無いさ。すべて裏表が純白の真実だ。教えてあげようミゲル坊、これは、【皮肉】というものだ」

「よぉおく回る口ですねェ。舌がもつれて捩じれ切れるんじゃねーのかジジイ」

「……………」



 イメージ。【ヒット! デッドボォォォォォオオル! 】


「ケケケ」

「…このクソガキが」

「あン?なんだって?モーロク色ボケ糞ジジイ」


 真顔でにらみ合う第二部隊長と第三部隊長。


 一石を投じたのは、第二部隊長――――――トムの方だった。



「戯れはここまでにして、仕事の話をしよう。君にはいくつか聞きたいことがある」

「あ?心当たりがねえな……なんだってんだ」


「ダイモン・ケイリスクが死んだ。しかも今回の『猟奇殺人・・・・』に関わりがあるかどうかも分からない不審死だ。直前の【最後の仕事】は君だったそうだな、話を聞きたい。」




 挿絵(By みてみん)

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