11:守る人
深緑の管理局制服を羽織ったままのシオンは、どこからどう見ても、管理局所属の夢人である。
黒目勝ちの眼や、細身の体躯、身長は170と少しで打ち止めているので、本の一族とも特徴は合致する。民族衣装でも着れば、紛れるかもしれない。瞳は濃い紺色なので、黒髪も、あの特殊な色彩のソレだと言い張れば通るだろう。
異世界漂流なんて、宇宙漂流と同じようなものだ。天然の宇宙服を身に持つ異端者が、流されるままに流れていく。落ち葉の方がまだ確実な空中遊泳をしている。『筋書き』なるものがあるこの世では、多くの場合、どの世界でも、形はどうであれ知的生命体が生息しているのは救いだが。
一時期、シオンは異世界人が、自分と同じ人間の姿をしている世界を連続して『引き』当てられず、以来、ナマコとうどんが食べられなくなった。
とどのつまり―――――その時期に出会った知的生命体が、細長くてつるっとした、どちらが頭だか尻だかよくわからない形状の生物だったのである。
まだ十代の頃の話だ。
管理局の使う、あの黒い機械が無ければ、自然漂流なんてそんなものだ。運と業で行き先が決まる。
あのころは、E・T式、対エイリアンコミュニュケーションをうっかり思い出しては、現実との差に泣いていた。
結局人間も動物なのだ。感情と考える頭がある分、生み出すものも性質が悪い。あの世界に『筋書き』が存在するとするのならば、めくるめくR20のマニアックストーリーだ。
もしくはあの世界の創造主が、主食はミミズという『ニンゲン』なのに違いない。顔にはきっとクチバシがついている。
頑なに争いが嫌いという要因もここにもある。シオンは友人に、頭があって脊椎が通っていて、腕に関節があるだけでも在り難い。
だからその時ばかりは死ぬ気で、この厄介な漂流の制御を覚えた。流れることを止められないのなら、せめて行きたい場所に行けるように。あの家に帰ることが出来るように。シオンは強くなった。
あらゆる危険を知ってしまうと、今度は身近な大切な人々に目が向いた。
気付けば守りきれるだけの力がこの手にある。
あの危険の、一片でも味あわせたくない――――――守らなければ、と思った。
シオンは強くなったが、弱点があまりにもありきたりで、あまりにわかりやすく、狙いやすい。
アイリーンだけはシオンのその性質を、『お前の強みだ』と言い切った。
『確かに弱点だ。でも弱点だってアンタが思ってるより弱くない。他の弱点たちもそうだ。アンタが弱点を突かれて初めて全力を出せるってんなら、それは強みだよ』
(ああ、あの親父さんいい人だったなぁ――――――)死なせたくないなぁ、と思う。
(話しちゃったもんなぁ―――――)
こうなったらもう駄目だ。自覚している。頭の天秤は、あの屋台の親父が笑顔で声をかけた時点で、完全に傾いていた。
(ああ、いやだいやだめんどくさい)
気分としては、8月終盤、登校日三日前の大台に乗っかっておいて、宿題をごっそりやり残した小学生だ。動かなければ後で死ぬほど悔いることは分かっている。
やらないつもりなら、ハナからこの街に足を踏み入れなければ良かったのだ。話をしなければ良かったのだ―――――。
親父の言葉通り、確かに往来には大人よりも、雪にはしゃぐ子供の姿が目に付いた。温暖な世界だというから、大概珍しいのだろう。
そこでシオンに、決意を決定づけるものが目に入る。
エリカだ。
シオンは思わず、脇の塀を乗り越えて、向こう側に身を隠した。
塀の飾り窓からこそこそ様子を窺う。久々の本気の冷や汗だった。
ミミズオバケエイリアンと未知との遭遇&究明をしてしまった時も、こんなに狼狽していない。
あの東シオンが、こんなお粗末な身の隠し方しか出来なくなっている。
しかしこれで確定してしまった。時分はこの国の人たちを絶対に守らなければならない―――――――――――!
けれど守るのはあくまでも賞品をどちらかが手に入れるまで。勝負終了までだ。そのあとは知らない。
裏を返せば――――それまでになんとかする。
根積という男、とんでもないやつだ。確実に、このためにエリカを用意したに違いない。
ここまでくると、頭も十分に冷えてくる。奴の思惑に乗ることになったが、やることは決まった。
シオンは雪遊びを楽しむ子供たちと、娘を見比べ―――――――――
「……俺の娘、もしかしてすごい可愛いのかもしれない 」
―――――――――緩む口元を抑えて、一言つぶやいた。
もう頭には、彼らを守り抜くことしか無い。