5:誘い
12月20日
百年ぶりの寒波に、誰が一番喜んだかと言えば子供達であろう。
ファンもまた例外ではなく、彼女は桃色の長い髪をいつものお下げ髪に結ってもらうより前に外に飛び出していた。
手ですくうことが出来るほどの雪は新鮮で楽しい。母はファンに朝食を用意するなり、畑を見に行ってしまった。
父が昨夜からまだ帰宅していなかったので、彼女は玄関先で出迎えがてらに雪遊びに乗じていた。
(……お父さん、遅いな)
お酒を飲んで日をまたぐことはままあっても、ファンが起きてくる頃には帰宅する父である。
今日はいつもと違う事ばかりだ、と、ファンは四羽のウサギの一家をこしらえた。
大きいウサギが二羽に、小さいウサギが二羽の一家。小さい方は、一羽が一羽より一回り大きい。
ファンは小さく白い息を吐いた。
この貴重な日を、一番に誘い出したい人物は今日も部屋に引きこもっている。
しかし両親が火事で死んでからというもの、病んだ雰囲気が常に漂うようになった従兄弟を寒い外へ誘うのは、幼心にも気が引けた。
(昔はあんなじゃなかったのに…)
おままごとでプロポーズまでした仲だ。彼が『兄』になることに戸惑いは無かったが、その変わりようには大いに戸惑った。
チャックは優しい男の子だということはファンもよく知っているから、仕方ないと思っている。
ファンは少しだけ物思いにふけるために止めていた手で、雪を掻いて丸める作業を開始した。
「―――――――しもやけにならないかい? 」
かけられた声に、ファンは「えっ 」と顔を上げた。
ちょうど逆光になっていて顔が良く見えなかったが、真っ赤な赤毛が顔の横を舞っている。
「……誰? 」
「お父さんのお友達だよ」
朗らかに男は言った。
「あの……お父さん今は居ないんです」ファンは申し訳なさそうに拙い敬語で切り出した。「後から出直してくれませんか」
「それは困ったなぁ……でも、そうだ、キミでもいいんだが。君のお父上がね、家族の人を呼んできてくれって僕が頼まれたんだ。ちょっとした急用なんだよ」
「お父さんが? 」
ファンはぱっと立ち上がった。「すぐですか? 」
「ああ、そうだな…早い方がいい」
「わかった! ちょっと待っててください」
「すまないね」
※※※※
閉まった玄関扉の音に、チャックは驚いて窓に駆け寄った。
ファンが赤毛の男と連れ立って出ていく。彼女の母親が帰ってきたふうでもないし、ファンがお留守番中に放り出して遊びに行くような性格をしていないと知っていた。
「どこに行くんだ……? 」
迷ったのは少しだけだった。
チャックは上着も取らず、外に飛び出した。