1:カーニバル
※グロ注意※
12月20日。明朝
生肉というものは、総じて人の口には合わない。『刺身』を食う文化というのは、それこそ極々一部の特殊なものである。
生物の体に元来居着いている、細菌などの小さな生き物は人間より遙かにパワフルで、人はそれを『細菌』の概念が無いうちから脅威にしてきたのである。
「…それ、おいしい?」
「血なまぐさいですけどぉ、興奮します。食べます?」
「いらない」
「…んもう」
肉塊を差し出した手をアンはまた口に寄せ、かぶりついた。淡い色合いをした薄い布地のスリップで、部屋の中心の床に直接尻を付けたまま、両手は肉をいじっている。光沢のある布地に、ぽたぽたと血染みが出来た。
男は部屋の隅で椅子の上に片膝をつき、女の食事風景を眺めていた。真っ赤な赤毛を長く伸ばして頬を隠している。前髪の裾から右頬の大きなアザが覗いた。傾いた三日月の形が、耳の方までまわっている。
物思いにふける男は、いきなりおっ始まった女の解体ショーをBGMに、膝に顎を乗せて何度かまどろんでいた。
「本の一族って言うケド、つまりこの人たちって人間なのかしら? ねぇ、根積様、どう思う」
「……血は赤いし、夜には寝るし、出るものは出るから、少なくとも生き物だろう」
おっくうそうに男、根積は応える。
「ねぇ、あんたたち本当のところは本なの? 人間なの?」
アンは肉で、目の前の男の頬を叩いた。
根積はそっと閉じていた瞼を空け、男の挙動を見物し始める。
床に転がる男は、すでに満身創痍で床に転がっていた。男自身に外傷は無い。けれども床に頬をつけ、濁った菫色の瞳がわずかに開いて見上げてきた。
血を流しているのは、アン・エイビーの手にある一冊の本である。
男は背を丸めて大きくせき込んだ。血反吐を吐いているだけの男に飽きたのか、アンは大分ページの剥げた本を開くと、また一枚千切った。男がのけぞり、声にならない悲鳴を上げる。
千切ったページからは、新鮮な血液が脈打って噴出す。辞書ほどしか無い本の体積から超えた体液が排出された。
ページをくちゃくちゃと丸め、アンはまた口に放り込む。
「味の感想を具体的に聞いてみてもいいかい? 」
「ん~…お腹壊しそうれす」
「人間の味はするの? 」
「人間はあんまり味を覚えるほど食べてないんで、わかりません。でも血の味はおんなじですよぅ」
締め切った雨戸の隙間から、冬の朝日がこぼれ出る。僅かな日光がまぶしく、男は両の瞼を閉じた。