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IRREGULAR《アン・エイビー事件編》  作者: 616
第三章※アン・エイビー猟奇大量殺人事件・事件編
21/35

1:カーニバル

※グロ注意※

 12月20日。明朝



 生肉というものは、総じて人の口には合わない。『刺身』を食う文化というのは、それこそ極々一部の特殊なものである。

 生物の体に元来居着いている、細菌などの小さな生き物は人間より遙かにパワフルで、人はそれを『細菌』の概念が無いうちから脅威にしてきたのである。

「…それ、おいしい?」

「血なまぐさいですけどぉ、興奮します。食べます?」

「いらない」

「…んもう」

 肉塊を差し出した手をアンはまた口に寄せ、かぶりついた。淡い色合いをした薄い布地のスリップで、部屋の中心の床に直接尻を付けたまま、両手は肉をいじっている。光沢のある布地に、ぽたぽたと血染みが出来た。

 男は部屋の隅で椅子の上に片膝をつき、女の食事風景を眺めていた。真っ赤な赤毛を長く伸ばして頬を隠している。前髪の裾から右頬の大きなアザが覗いた。傾いた三日月の形が、耳の方までまわっている。

 物思いにふける男は、いきなりおっ始まった女の解体ショーをBGMに、膝に顎を乗せて何度かまどろんでいた。


「本の一族って言うケド、つまりこの人たちって人間なのかしら? ねぇ、根積様、どう思う」

「……血は赤いし、夜には寝るし、出るものは出るから、少なくとも生き物だろう」

 おっくうそうに男、根積は応える。

「ねぇ、あんたたち本当のところは本なの・・・人間なの・・・・?」

 アンは肉で、目の前の・・・・男の頬を叩いた・・・・・・・

 根積はそっと閉じていた瞼を空け、男の挙動を見物し始める。

 床に転がる男は、すでに満身創痍で床に転がっていた。男自身に外傷は無い。けれども床に頬をつけ、濁った菫色の瞳がわずかに開いて見上げてきた。

 血を流しているのは、アン・エイビーの手にある一冊の本である。

 男は背を丸めて大きくせき込んだ。血反吐を吐いているだけの男に飽きたのか、アンは大分ページの剥げた本を開くと、また一枚千切った。男がのけぞり、声にならない悲鳴を上げる。

 千切ったページからは、新鮮な血液が脈打って噴出す。辞書ほどしか無い本の体積から超えた体液が排出された。

 ページをくちゃくちゃと丸め、アンはまた口に放り込む。


「味の感想を具体的に聞いてみてもいいかい? 」

「ん~…お腹壊しそうれす」

「人間の味はするの? 」

「人間はあんまり味を覚えるほど食べてないんで、わかりません。でも血の味はおんなじですよぅ」



 締め切った雨戸の隙間から、冬の朝日がこぼれ出る。僅かな日光がまぶしく、男は両の瞼を閉じた。






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