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IRREGULAR《アン・エイビー事件編》  作者: 616
第二章※アン・エイビー猟奇大量殺人事件・発端編
17/35

11:その3.白いひと


『散歩』を始めてから、そろそろ一か月にならんかと思う。

 暦はそろそろ冬に入るかといったところで、上着一枚でもやや肌寒い。

 本の国にあまり雪は降らないし積もらない。それでも現地人にしてみれば、夏との寒暖差は堪える。

 チャックは集落の路地裏を縫うようにして歩いていた。

 裸の田園が広がっている中、うつむいて地面の土を見ながらの散歩だった。

 ひと月の間、これといっては何もない。アン・エイビーは現れる。

 チャックはせっせと歩数を稼ぐ。

 しかしその日、彼の運は――――少しばかり悪かった。


 角を曲がる。右側に衝撃、追突、横転。


 角を曲がろうとした人物にぶつかって転んだのだ――――――それに気が付いて、チャックは真っ青になった。

 たいへんだ。

(―――――大変だ! )

 ぶつかった人物は、はっと一瞬足を止めたが、すぐに去ろうとした。けれどもあまりにチャックが蒼白で座り込んだままだからか、ついに少年に声をかける。


「お、おい。どっか痛いのか? 」

 チャックは呆然と顔を上げた。

 目の前には本の青年。背が高く、頭に布を巻いて首に襟巻をしている。頭の色は――――――白い。

 チャックはギョッと二度見した。

 正真正銘、本物の『白』だ。

 青年は気まずそうに、差し出した手を下ろした。綺麗な青い目をしていた。

「…あ、あの、ありがとう」

 チャックはつい、そう声をかける。

「どこか、痛いところは……?」

「ありません。ありがとう」

「……膝すりむいてるよ」

 やはり気まずそうに青年は言った。

 つかつかとチャックに歩み寄り、脇に手を入れて立たせてやる。服の土埃もはたいてやった。


「……いいか、お母さんやお父さんに『転んで俺に助けてもらった』とか言うなよ」

 チャックが不思議そうに見返す。

「い、言わないよ」

「いいか、絶対にだぞ。本当に誓えるか? 『どうしたの』って聞かれたら、『転んだけれど自分で立ち上がった』って言うんだ。そうすればオトウサンやオカアサンに褒められるからな。俺のことは絶対に言うな、いいな? 」

「う、うん…」

 あらかた世話を焼いて、『白』の青年は満足げに頷いた。

「お兄さん、ありがとう」

「……お前と同じくらいの弟がいるだけだよ」

 襟巻を鼻まで引き上げると、青年は去って行った。




「その膝どうしたの! 」

 さっそくその日のうちに傷のことは露見した。

 言われた通りに、『転んだけれど一人で立ち上がった』と言うと、夫人は心底うれしそうに彼の頭を撫でて、手放しに褒める。

「すごいね」「えらかったね」―――――――――

 チャックは俯いたまま、動けなかった。










 その日から、アン・エイビーは現れなくなった。

 そしてまたひと月。

 12月20日の、その日が来る。







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