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IRREGULAR《アン・エイビー事件編》  作者: 616
第二章※アン・エイビー猟奇大量殺人事件・発端編
12/35

6:ニル


『異端』とは、学説・思想・宗教などが、正統と定められたものから外れていることである。

 つまり、度を越したマイナー主義主張によって、大多数から糾弾を受ける少数派のことと言える。

 『異端』なる言葉は、しばしば差別を表現する言葉として使用されるが、『異端』自体は差別用語とは微妙に違う。


 例えばの小話。

『タケノコが一番おいしい』と掲げる街に、『キノコが一番おいしい』と言う一家が引っ越してきた。

 一家は当然の様にスーパーでキノコを買う。当然の様にそれを食べる。訪れた客のお茶菓子もキノコである。

 一家は主張する。『キノコが一番うまい』。

 しかし街の住人、『タケノコの方がおいしい』。

 いくら一家がキノコの良さを語ろうと、長年タケノコ派閥として食べ続けてきた住民たちは取り合わない。確固たる信念で、味覚さえ捻じ曲げて見せる。

 はぶれた『キノコ派』一家、ここで初めて【異端者】と呼ばれるようになる。ちなみに僕はタケノコ派である。



 外はどんよりとした灰色の空だった。風は冷え切り硬く、澄みきっている。僅かに道の端に雪が積まれ、溶けかけて凍り付いていた。

 管理局は外から見ると、縦長の洋館風の建物だった。しかし外に出ると、泥で塗られた白い塀、窓の装飾や道端の石で出来た置物、そのほかの建造物は屋根に瓦が乗っかっていたり、漢洋折衷した風情である。

「本の一族って言うのは、この管理局がある世界の先住民族なんだ」

 黄色の瞳をした少年は、相応の幼い凡庸な顔立ちに似合わず、読み上げるようにスラスラとこの世界についての説明を並び立てた。

「僕ら【本の一族】の能力は、『すべての力の増幅』。肉や体液は万能薬にして不死の薬っていうんで、千年くらい前に異世界人からの侵略を受けて、人口は30%まで低下した。現在は、この世界の住民丸ごと管理局じきじきの保護を受けてる。その変わり本の一族は管理局に、能力貸しますよ、っていう条約を交わしてるんだ。―――――――そこかしこに、髪や瞳が色鮮やかな人たちがいただろう?それが全部、本の一族だ」

 赤、青、緑、紫、黄、桃、橙―――――――そう言う少年は瞳こそ黄色だが、背中に太い一本の三つ編みで垂れる髪色は、ありふれたこげ茶色である。むしろこの一族内では珍しい色なのかもしれない。

「けど驚いたな。早々、僕が行く前に、禁忌の子なんかと一緒にいたから――――――え? 禁忌が何かって? …うーん、こんな往来で話すことでもないんだけど内容が無いようだし……わわ、いいよいいよ、話すよ。……エリカちゃんって、知りたがりなんだねぇ…ま、いいけどさ。迷惑じゃないよ、うれしいくらい」

 少年ははにかんだが、その表情はエリカの年と変わらなく見えた。ここに来てから、年齢不詳の人間に会ってばかりだと思う。うち二人は、若年寄り。うち三人は、若白髪。一人は銀髪だったけれど。

「ほら、良く見てみなよ。白い人はいないだろう?そう、言葉通り、白い頭に白に準じる色の瞳の人のことだ。僕らは男も女も長髪が慣例だ。けれど年を取って白髪が出てくると、頭を綺麗に丸めるっていう慣例もあるってくらいには白髪は忌まれてるんだよ。

 白髪だから禁忌なのかって?いいや、違うさ。本の一族に白髪が生まれる時、それは『別の種族との姦淫』を意味するんだ。『姦淫』の意味? …ううんと、ようするに、本の一族以外と生まれた子供ってことさ。この世界で言う『他の種族』は、異世界人のことだから……僕らは奴隷の歴史があるから、余計に忌むべきものだ。

『白』い色を持った一族は、今三人しかいない。一人は今の管理局長、ロメロ・ミアロ。あとの二人は、管理局員とのところに生まれた、ケイリスク兄弟。って言うとさ、すごいことだろ? だって一人は、実質この世界の権力トップなんだ。この世界に生まれても、姿すらそう見ることはできないだろうね。

 ……さっき君が一緒にいたのは…ケイリスク兄弟の次男坊のほうかな。名前は…そう、それ。ビス・ケイリスクだ」




 ※※※※





 この少年、本の一族のニル少年は、黄色い瞳に茶けた髪の自称11歳の少年だった。『自称』というのは、やけにこのニル少年、物腰が穏やかで年相応に見えないためである。外見はむしろ、反比例するように小枝の様にちっぽけで、赤ん坊のみたいに大きなドングリ眼の男の子なのだが。

 彼の家は数代続いて管理局に関連した職種に就いており、両親も、彼の成人した三人の姉も、二番目の姉の婿も、20年前までは祖母も、何らかの職員である。特に何かあるというわけでもなく、それえぞれの選んだ職種が、それぞれ管理局関連に、という偏った一家だった。

 末っ子長男の彼もまた、この年で管理局の資料室で文芸員見習いとして勤めているのだという。仕事内容は主に資料整理―――――彼は、生粋の本の虫だった。

 その縁あってか、一人で生活するには苦しいエリカの下宿先が、このニル少年の実家なのである。


「管理局に勤めてるのは、何も異世界人…君たちで言う、『異端者』? だけじゃない。僕ら一族の人間の方が、職員としてはむしろ多いと思う」

「そうなの? 」

「うん。確か、異端者の発生率は60億人に一人の確率だったかな? 」

 ちなみに地球の人口は、2012年現在で、約70億人である。

「それって、親から子供に遺伝はするのかしら」

「うーん…するんじゃないかな?だって、異端者って、世界の筋書きに描かれないから、世界に弾かれるんだろ? なら、その子供が生まれたって筋書きには無いじゃないか」




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