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IRREGULAR《アン・エイビー事件編》  作者: 616
第二章※アン・エイビー猟奇大量殺人事件・発端編
11/35

5:目隠しの子供

 チーン

 すぐ横の鏡から発せられた機械合成音に、エリカはギョッとして身をすくませた。

「あっはははははははっはっはっはっはっはっはっ、ひひひひひひひひ、あ、ありゃエレベーターだよ」

「……エレベーター? 」

「君は、そんなものも無いところから来たのかい? 」


 無音で扉がスライドした。中には一人――――――

 背景に同化する白髪、青白い肌、思わずエリカは男を振り返った。

 違いは襟首にかかるほどの短髪であること、着古し、着こんだ上着にマフラーという外出着、何より、エリカよ少し年嵩の少年であること。――――――目元にすっぽりと布を巻いて双眼を覆っていること。

 エリカはしげしげと二人の人間を見比べた。

「……親子?」

「違います」

 少年がなめらかに即答した。


「ちょうどかったね、彼も今帰るところだ。彼と一緒に上へあがればいい。この真上が君の行きたい物語管理局の夢人常駐本の国支部さ」

「本の国?」

「そう! ここは本の国。本の一族が住まい、異世界人が文明開化した異端の地。そしてこんなところに在住の僕は、物語管理局局長・・、ロメロ・パスカル・ミル・エラ・ピーター・アンジュ・アントン・S・Z・ミアロ・二世………覚えたかい? 」

「へぇ~……」

 見事な棒読み、生返事。

 少年が明らかに困惑して、そろりとエレベーターのボタンに手を伸ばした。すぐにでもこの場から逃げ出せるようにである。

 ロメロ・ミアロは偉かった。その地位、影響力を知るのは、この場には孤独にも、不幸にも……彼のみだった。


「……ふっ、まぁいい。この世界にいる限り、長い付き合いになるだろうさ。ほら、早くこんなところからは出て行ったほうが懸命だ」

 そう言ってロメロ局長は、エリカの肩をエレベーターに向かって突く。よろめいたエリカに、トランクを押し付けた。重みで彼女は床に潰れた。

 あわてて少年がトランクをエリカの上から持ち上げ――――――彼女が顔を上げると、閉じる扉の一瞬に、満面の笑みで手を振るロメロの姿が見えた。

「……とんでもないわ」エリカが呟く。

 少年の溜息が、空しく小部屋の中に響いた。

 彼はエリカの手を取り、抱き起し、コートの埃を払ってやった。

 トランクを起こした少年の仕草を見て、エリカはふと思う。

「その目隠し、前は見えているんですか? 」

「見えてますよ。見えないようにするものではなく、『見せないように』するためのものですから」

「……見せないように?」

「すぐにわかりますよ……邪魔なら取りましょうか」

「ええ、視線が分からないのはちょっと嫌だもの。そうしていただけると嬉しいです」

 少年は布を取って見せた。幅広の鉢巻の様な布である。冴え冴えとした碧眼が現れた。


「綺麗ですね」

「え?」

「目の色がきれいですねって言ったの。……そんなビックリ箱に引っ掛かった時みたいな顔するようなこと言ったかしら」

 彼は首をすくめてうつむいた。

「……あまり言われ慣れてなかったので、少し驚きました」

「そんな馬鹿な話があるもんですか」

「ホントウです………」

 少年はマフラーの下に鼻から下を潜らせた。

「わたし、エリカっていいます。あなたのお名前は?」

「ビス」

「よろしくお願いします」

「……上についたらすぐですから」

 ビスは寒くもないのに、マフラーを巻きなおして扉脇のボタンの方を向いた。エリカより着こんでいるというのに、酷く青白い顔色だ。

「どこか体がお悪いの?」

「……いつも貧血気味なだけです」

 ビスはとことん居心地が悪そうに、視線を逸らして扉を凝視する。


 チーン

 到着の音に、ビスはようやく上がっていた肩を下ろした。



 物語管理局のホールは、半円の形をしていた。

 エレベーターを待っていたらしい、奇抜な緑色の長い髪をした男がギョッとして、現れた黒白の子供二人を見やる。ビスは男に小さく目礼し、エリカをホールの受付脇まで引っ張った。

 ビスは声を潜める。

「ここで待っていてください。後で迎えが来るはずです」

「あなたは?」

「……僕は、あの……」

 ビスは青白い顔をさらに青くさせて、一度口をつぐんだ。

「…実は、僕もこの後用事があって……久しぶりに家族と会うことになっているんです。兄が迎えに来てて……」

「なら仕方ないわ…ごめんなさい、引き止めて」

「いいえ」

 またビスは瞳を伏せる。躊躇いがちに彼は別れの言葉を口にした。

「えっと…あの、さようなら」

「ええ、じゃあ、また逢えたら」

「……はい、また逢えたら―――――」


 振り向きざまに小さくはにかんで、ビスは小走りにホールを出口まで突っ切っていった。

 彼とすれ違いにこちらへ向かってきた少年が、ビスの姿にあわてて道を空ける。彼が通ると、さながらモーセが杖をかざした海の様に、人々が道をあけて距離を取る。

 エリカは、ようやく先ほどまでに向けられていた周囲の視線に気が付いた。

 視線は悪意だ。

 その悪意はすべて、あのビスに向けられたものだったのである。




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