Instagram様へ
私は消そうと思った。ふと頭をよぎったのである。あの破廉恥な、輝かしい、忙しない、吸血鬼の、馬鹿馬鹿しい、宗教的な、Instagramの世界から逃げ出そうと思ったのである。私は震える人差し指で、削除ボタンを押した。その小刻みに痙攣する人差し指の、切迫たる独白を、今から垂れ流そうと思う。
コンコンコン、失礼致します。
Instagram 様とお別れする事を決断致しました。短い間でしたが、大変ご迷惑をお掛けしました。私とInstagram 様との付き合いは、かれこれ二年ほどになります。Instagram 様と初めて出会ったとき、私は二十二歳の若造でした。私は文学以上に興味関心を抱いた事柄がないと断言してもよい人生を送ってきました。
Instagram 様は、なんというか、私にとって、遥か遠い、未知の世界に思え、Instagram様の扉の前で逡巡しつづけた余り、中高大の恋の真夏の季節を通り抜け、やっとのこと、液晶パネルの扉を開ける決心が付いた次第だったんです。二十二歳の、初夏の真夜中。私は、みんなが、平然と開けていく扉の前で、恐る恐る、律儀にノックし、扉の隙間から顔を覗かせ、部屋の状況を確認し、お辞儀をしながら、はにかみの笑顔を見せ、Instagram様と手を繋ぐことが、できました。最初は、真率に、嬉しかった。ホッとしたが、正解かもしれません。「僕も同じ仲間。」と自慢げな額を晒すことができました。しかし、私は節度というものに、鈍感な人間でありますから、次第にその隠れ蓑が、ごわごわとした不快な感触を覚えはじめたのであります。私は、正直に申し上げるならば、とち狂った。Instagram様の衣服を着つつ、脱衣するという矛盾たる愚行に、猪突猛進したのであります。突然の弱音。私は一人の友人を造るのに、全身に脂汗を垂らしながら、まず、右耳を切り、次に、親指を切り落とし、最後に、心臓を差出さなければ、不健全ではなかろうか。そういう強迫観念に圧倒されるんです。それが、四六時中、頭の中で反響するので、一言で言えば、億劫なのであります。私はInstagram様と短い期間、蹴っては蹴られ、些細な喧嘩をしてきましたが、これで最後のお別れになります。金輪際Instagram様に臓器を提供しません!欲してないよって!?惜別の答え。虚栄の影よ、バイバイであります!
私は生ゴミの匂いに満ちた室内に清風を送り込むため、窓ガラスをこじ開けた。私は汗ばんだワイシャツを外界に投げ捨て、シャワーを一時間ほど浴びた。
その後、私はびしょ濡れのまま姿見の前に立ち、二つの小さな乳輪と一つの大きなチンポと対面した。
爽快であった。爽快であった。




