第5話 危険
12月5日(金曜日)
朝の掃除をしていると
四階の高橋さんが、
隣の公園の方から
ワンちゃんと散歩しているところに遭遇した。
立派な秋田犬を飼っていらっしゃる。
私をみてしきりに吠えている。
「ワン!」
元気があるというのは、実に良いことである。
「この子、私以外の人には懐かないんですけどねぇ。」
「ワン!ワン!ワン!」
「実は私、管理人の前は猟友会に入っていまして…」
「同じく秋田犬を飼ってたんです」
「あら!そうなんですか」
「多分匂いとかで分かるんでしょうねぇ。」
「最近クマとか多いでしょう。散歩するのも怖くてねぇ」
「お爺さんがいてくれれば心強いんですけどねぇ」
「あまり住人の方も見かけないんですよ」
「でも、私はもう猟銃もないですし、
それに明後日には
ここ..辞めてしまうんですよ…」
「あら、そうなんですか!」
「ええ..少しでも生活費を稼いでこいと、クマより怖いものでして…」
「ほほほ、大変ですわね」
ぐるるるるる。ワンっ!ワンっ!
突然、秋田犬が吠え始めた。
背中と脳裏にひやりとしたものがよぎった。
まさか…後ろを振り向くと…
なんと夏目さんがそこにはいた。
「ああ、先日はどうも」
「うるさい眼鏡の小僧を静かにさせてくれたお礼です。感謝いたします」
そういうと夏目さんは
「ねこ薯蕷饅頭」をくれた。
「こんなもの、頂いてもよろしいのでしょうか」「いえいえ、お陰様で..すっかり睡眠不足も解消されました。」
ワンワン!と犬はしきりに吠えている。
夏目さんは少し怪訝そうにその犬をじっと
見ている。
「こら!ほらっ。いくよ」
高橋さんは引っ張る。
しかし、秋田犬は動かない。
ぐぐぐ..と首輪を引っ張るが顔が饅頭のように潰れながらもその場を動こうとしない。
その様子を見て、
夏目さんは「ぷっ」
と少し吹き出すとくるりと背を向けてしまった、
小刻みに背中を振るわせている。
「……管理人さん..では..」
とマンションの方にすごすごと帰っていってしまった。
どうしても秋田犬は、やはり動かない。
私もその姿を見て、もう少し見ていたいという気持ちから、
戻るかどうかを少し悩んだ末に
管理室に戻ることにした。




