第3話 信号
12月3日(水曜日)
今日は夜勤の日です。
変則のシフトと
夜の冷たさは特に老体に堪えるものです。
一階ずつですが
不審者や落とし物がないかなど
しっかりとパトロールをする必要があるのです
そして上から順番にチェックしていきます。
屋上…問題なし。
七階…問題なし
六階…なにやら騒いでる声が聞こえますが
まぁ問題はなし…
そして、五階に辿り着くと、
不気味な音と話し声が聞こえてきた。
なにやらむしゃむしゃとベランダの方で
咀嚼音がする。
耳の悪い私でも聞こえるくらいのかなりの音だ。
こんな夜中に…?
なにか食べてるのだろうか。
そしてぱちっ..ぱちっ..火の弾けるような音と共に、なにかが焼き焦げるような、なにやらよい匂いがした。
そして耳をすましてみると
変な会話が聞こえてきた。
503号室である
「..すから御仁も涅槃の境地に至るのがよろしいかと..」
「いやいや、まだまだ人間を… るのは…られませぬぞ…」
「…皆賢いものです。…一匹集まりませんからなあ。」
ゴロゴロと喉を唸らせながら
ずりずりと背中を地べたに擦り付けている音がした。
「それよりも…4階の….。
アレをどうするかですよ。」
…このマンションでは火気厳禁なのだが、
夜分に注意を入れると、
かえって周りの睡眠妨害となり
迷惑するだろうか..色々悩んだ末、
「まぁ..明日にでも注意すれば良いか..」
と、会話の聞こえる503号室を通過した。
「しかし、あのネズミを発見した方にはなにか、最後にお礼をする必要があるかと…」
「ええ。いずれは同じ運命を辿るものですが、それが「筋」というものでしょう」
奥の方まで確認し、引き返そうとしました。
「異常なし、っと…」
そうしてエレベータの方に戻ろうとすると
私の膝に何かがぶつかり、つまづいてしまった。
「わっ」
どてっ。とその場に私は倒れてしまった。
いててて…暗くて
一体、何につまづいたのかも分からない。
なんだろう。
来た時はなにもそこには無かったのに…
持っていた懐中電灯も
すってんころりんと落としてしまった。
「なんだ…?」
「いてっ」
擦り切れてしまった手で、
懐中電灯を慌てて取り、
転んだ場所のあたりを照らしてみた。
そこには、パジャマ姿の子供が
うずくまっていたのである。
「うん..ううん…」
見間違いかどうか、もう一度確認した。
どうみてもやはり。小さな子供である。
「ど、どうしたんだい..そんなところで」
思わぬ遭遇者に私は目を丸くしました。
するとその子供は、
懐中電灯に顔を照らされると
さっ..と顔を隠すようにして
急に泣きだしてしまったのである。
「うわあああああん」
「ど、どうしたんだい」
「わあああ助けてぇ〜!」
ガチャリと近くから
ドアが開く音とともに
隙間から部屋の光が廊下に差し込んだ。
「かいと!どうしたんだい!」
お母さんだろうか。
「なんですかあなたは!」
「あ、私は管理人でして..夜分にすみません」
「怖いよぉ〜!」
かいと、とよばれた子供は
すぐにお母さんらしきモノに抱きついた。
「まったくもう..すみませんねぇうちの子が」
「いえいえ…」
親にも構ってもらいたい年なのでしょうか。
しかし、
あんなところに一人でいて…
何をしていたのだろうか。
ぽんぽんと、転んだ際の埃を払って再度、エレベーターの方に戻った。
玄関が閉まるとともに、
床に付着していた
赤いなにかも闇の中に消えていった。




