第1話 選別
どうか、寛大な心でお読みください。
「それでは履歴書を拝見させてもらいますね。」
この紙が、その人の今後を左右することにも繋がると考えると感慨深いものです..
私、山野寛大は
ふと、そんなことを考えながらも
管理会社の面接官に
そっ..と机に滑らせるように1枚の履歴書を渡した。
「えーっと。山野さん。82歳!凄いですねぇ。お若く見えますよ」
「ありがとうございます。」
「ふむふむ..」
面接官の若い男の方は、目線を履歴書に向けたなり、こちらの顔をみる。ぺらりと履歴書をまた持つ。じぃ〜..っとこっちを見たりと忙しそうにしている。なにやら落ち着きがないようだ。
「差し支えなければなんですが…今回はどのようなところが求人に来られるきっかけとなったのでしょうか」
「いわゆるPR点を教えていただければ」
「ぴぃ..あーるですか..」
「私のような老人でも働けるところがまたないかと思いまして…」
面接官の男のは
その言葉を聞いてとてもにっこりとしている。
「山野さん。これは貴方にうってつけのお仕事です!最近での大きな病気、持病などはお待ちないでしょうか?」
「ええ…耳や目は少し悪いですが、体はまずまず健康的です。」
「いえいえ!体が健康!それが非常に良いことです!力があまりない方をこちらの会社では特に優先しておりますので!」
「また、こちらのお仕事についてですが、タバコは禁煙となっておりますが…」
「はい。喫煙は一回もしたことがないです。」
面接官は目を輝かせて、
こちらの目をじ〜っとまた見つめてきた。
「凄いですね!山野さん。
それでは明日からでもおはいりになられますか。」
「丁度欠員が出ておりまして…こちらも非常に助かります」
「はい」
私は少し、ほっ..とした。前職を辞めて間も無い状況だったので、
少しでも今後の年金生活の足しにでも..と思って
応募した。なんとか無事に受かりそうである。
が..突如部屋の中にシン…
と思い空気が流れるのを私は感じた。
面接官の男のかたは、履歴書を見て
顔を曇らせているようだ。
「…..」
「どうか、されましたか?」
小さい心臓がキュッとする。
なにか変なことでも書いてしまっただろうか..?
「山野さん。」
重い声だ。人がなにか深刻な有事を話す時の
口ぶりである。
面接官の男が話の歩みを進めようとしている。
「この前職のところなんですけど…」
「あ、はい…」
「猟友会に在籍されていたのですか?」
「失礼ですが..猟銃の返納手続きは、済まされて..おりますでしょうか?」
「ええ。市役所に届けておりますが..」
一体何故、そんなところまで聞くのだろう。
「あちゃー…それは残念だ。」
重い空気が嘘のように一瞬にして軽くなった。
「ここ最近熊の出没が多いでしょう。
このマンションの住人の方にも
山野さんがいれば安心していただけると思ったんですよ。はっはっは」
「では、山野さん。明日からよろしくお願いします」
「ええ、ではこれにて失礼いたします。」
こうして、私は面接を終えて
無事にマンションの管理人として雇われることになりました。
家から歩いて、徒歩10分程の場所であります。
12月1日(月曜日)
「マンションジャラシー…こちらですか。」
8階建ての築30年のマンションのようです。
お昼休みはお婆さんの
手作りの丸の内弁当です。
お米がきんと冷やされていて、
とても美味しかった。
朝早くから作ってくれるお婆さんには感謝でしかありません。
いただきます…..
お昼休みを終えると、
午前中になにやら落とし物が届いておりました
自転車の鍵のようです。
「みやざわ」
と、付属しているストラップに名前が書かれていました。
「えー..宮沢、あ、この人ですか。」
管理室内の名簿帳をパラパラと捲っていると
301 宮沢
に到達することに成功しました。
私はエレベータを通して三階に赴きました。
宮沢さんはこの部屋か。
ピンポンを鳴らすと
インターホン越しに声が聞こえてきた。
「どちら様でしょうか」
「すみません。管理人です」
「自転車の鍵を…落とされなかったでしょうか」
「あー!そういえば!えぇ。今向かいます!」
がちゃん
と開けると音がすると、男の人が出てきた。
「探していたんですよ。いやあ。ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ幸いです」
「ほんとに…よく落とすんですよ。にゃんとも..」
「あ、ちょっと待ってくださいね」
すると宮沢さんは
するすると、部屋の奥の方に向かい
ごそごそと、
音を立てながら何かを持ってきてくれました。
「はい!これ、お礼です」
「…これは?」
「食券です。ここの鍋が日本酒と合うんですよ」
「そうなんですか。ありがとうございます」
貰った食券は大事に財布にしまっておいた。
宮沢さんはにこりと笑っている。
感じの良さそうな暖かい方だなあ。
私は心がぽかぽかした。




