出会いと出逢い side MAKOTO
地味な男の子とキラキラした女の子。
普段の生活からテリトリーの異なる二人が、気がつけばお互い気になるように。
※ 保険の為R15設定にしてあります。
今日からまた新しい一週間がはじまる。
本来休日明けの月曜日といえば、全細胞を奮い立たせなければ、朝目を覚ますことも叶わない。
しかし今日のぼくは一味違う。
鳥のさえずりもはっきりと耳に届くくらい静かな早朝の教室に、ぼくはすでに座っていた。
先週末。
明らかに自然の法則や科学では説明できない、何かしら超常的な存在によって、ぼくの人生に新たなイベントが追加された。
憧れの女の子である九重さんと!
二人きりで!
昼ごはんを食べたのだ!
この星の片隅でひっそりと命を長らえてきたぼくには、本来あり得ない僥倖。
しかもこともあろうか……。
間接キスしちゃった!!
健全な男子中学生であるぼくが、月曜の朝までまともに寝付けなくなるのも当然だろう。
間接キスでこれでは先が思いやられるが、事実だから仕方ない。
つまり早起きしたと言うより、あまり寝れなかったのだ。
早朝の誰もいない教室で、見るとはなしに九重さんの席に目を向ける。
当然今はその席の主人もいない。
でもあと30分もすれば九重さんがそこに座り、彼女のまわりにはたくさんのクラスメートが集まってくるだろう。
九重さんの周りにはいつも誰かしら集まっている。
それは彼女がどんな相手とでも分け隔てなく接し仲良くなるし、何かあれば相談に乗るだけでなく行動も取れる人だから。
はじめて彼女に会った時もそうだった。
ぼくと九重さんが初めて会ったのは、この学校の入学式の日。
参加者が体育館に集まり整列をしている時、ぼくは体の大きな不良っぽい奴に絡まれていた。
周囲の人間は見て見ぬふりをして助けてくれる様子もなく、『あぁもうこんな奴がいるなら学校なんて来るのやめようか』とネガティブエンジンが発動しかけたその時、助け舟を出してくれたのが九重さんだった。
彼女はぼくらの話を聞き、同い年とは思えないくらいハキハキとその場を収めてくれた。
先生たち大人も含め、その場にいたみんなが彼女という存在を記憶したと思う。
もちろんぼくも。
彼女のことが気になるようになったのはその時だ。
その気持ちが《好き》という感情に変化し、気がつくまでにどれほど時間を要したことか。
それ以降ずっと、彼女はいつも誰かしらに囲まれている人気者だ。
あれ……?
あの時ぼく、なんで絡まれたんだっけ……。
半分ぼーっとしながらそんな事を考えていると教室のドアが開き、彼女が教室に入ってきた。
「「あ……」」
お互い同時に口を開き。
「おはよー、九重さん」
「おはよう、東雲くん」
同時に挨拶をする。
よかった、普通に挨拶できた。
九重さんも普通に挨拶してくれてほっとした。
先週末の土曜日、ファミレスの帰り道、結局分かれるまで一言も話せなかったから、今日も話してもらえなかったらどうしようって思ってたんだよね。
マニュア…恋愛モノラノベで研究したところ、土曜日の彼女の態度は、脈ありの可能性が高いようだ。
でも本だとそもそもヒロインが主人公に好意を持っている場合がほとんどじゃん!
そうじゃない場合はもう詰んでいるのでは……!?
「あの……東雲くん。土曜日はごめんね。帰り道黙り込んじゃって。ちょっとあの……交際や結婚って聞いてはずかしくなっちゃって」
「あぁ、うん。ぼくの方こそ変に意識しちゃってごめん」
「東雲くんも意識してたんだ……?」
「あ……うん」
「「………」」
詰んでなかった!
東雲くん『も』意識してたって!?
つまり……!!!
どうやらこの恋、まだ可能性が残っているようだが、その時廊下からがやがやと話し声が近づいてきた。
タイムリミットだ。
他の生徒たちが登校してくる時間になってしまった。
こうなるともう、人間の盾によって九重さんに近づくことはできなくなる。
早速教室に入ってきたクラスメートたちから声をかけられ、東雲さんとの至福の時間は終了した。
でも今は、普通に話せたことで不安の種もなくなったしちょうどいい。
クールダウンタイムだ。
その後授業は何事もなく進み、完璧なまでにクールダウンも済んだ。
休憩時間もいつも通りで、九重さんのまわりはガードマンのごとく人が集まり、ぼくが彼女と話をすることはなかった。
これが本来のぼくたちの関係だ。
特別なイベントでもなければ会話をするきっかけもない。
先週末が特別だっただけ。
ところが放課後。
「おーい! 九重! 東雲! まだ残ってるか?」
6時限目の授業が終わり、クラスメートもぼちぼちと帰りはじめたところで、開かれた教室のドアから担任が入ってきた。
九重さんの方を見ると、彼女も心当たりの無い表情でこちらを見ていた。
「どうしたんですか?」
「いや、土曜日の事でな……2人を置いていくことになってしまって、本当にすまなかった」
教室に入ってきた担任に何かあったのか聞くと、土曜日先に帰った件を謝罪してくれた。
ぼくとしては九重さんと2人きりで話もできたし、ごはんもおごってもらったし。
正直謝られるどころかお礼を言いたいくらいだが、さすが教師、その辺りしっかりとしている。
尊敬を込めて、今後は担任呼びではなく名前で呼ぶことにしよう。
ありがとう二階堂先生。
「全然気にしてません」
「またごはんをおごってもらえるなら、いつでも手伝いますよ」
彼女も気にはしていないようで何も問題無し。
「お。じゃあ早速頼りにさせてもらうか」
「今から明日配布するプリントを、学年・クラスごとに分別しないといけないんだ。2人とも頼めるか?」
すると本当に早速、ヘルプを頼まれることに。
また東雲さんと一緒に過ごせるなら、ぼくが断るわけがない。
ぐっじょぶ二階堂先生。
「いいですけど昨日の今日じゃ高いですよ?」
「じゃあ、わたしも!」
「おまえら……今日はもう昼飯は食っただろ。茶菓子で手を打ってくれ」
しかし大喜びして引き受けるのもおかしいので、気持ちを抑えるためにちょっとした条件付けなどしてみる。
そんな軽口に九重さんも乗ってくれた。
普段からたくさんの人とコミュニケーションを取っている彼女は、こういうやりとりにも慣れてるんだろうな。
「でも安心しろ! 今日は2人だけじゃないぞ! もう1人声をかけてある!」
うん、やっぱりこいつは担任呼びでいいな。
余計なことを。
担任に連れていかれたのは教務室の隣にある進路相談室。
扉を開けるとすでに中に1人、女子生徒が作業をはじめていた。
上履きの色を見ると同じ学年のようだが、初めて見る顔だ。
振り向いた瞬間、ふわふわと軽くウェーブがかかった長めの髪が揺れる。
「遅いです! 先生!」
色白でパッチリとした目に、アヒル口っていうのかな。
少し幼い印象だけどかなり可愛い子だ。
九重さんと同じく、スクールカーストでは上位に位置するに違いない。
同学年にこんな子がいたら忘れないと思うんだが……。
「……むぅ」
どうしても思い出せずにいると、隣の九重さんがなぜか不機嫌になった。
え。なんで?
んん??
「お。先に進めてくれてたのか、すまんな御厨。助っ人を追加したから勘弁してくれ」
「お菓子も忘れないでくださいね!」
「ちゃぁんと準備してある。安心しろ。卒業生からのお中元の残りが……」
「それ賞味期限大丈夫なんですか!?」
この子もお菓子に釣られてきたのか。
うちの担任は買収が常套手段なのか?
……まぁ好き好んで手伝いにくる奴なんていないか。
「じゃあ2人とも、端から順に1枚づつプリントを取って、左上をホチキスで止めていってくれ。あとは御厨が把握してるから」
「はーい」
「わかりました」
簡単な指示だけ出して、担任は隣の教務室に繋がるドアから出て行った。
「こんにちは、御厨さん? わたしは九重。彼は東雲くんよ。よろしくね」
「東雲です」
「御厨です」
「はじめまして、御厨さん」
「……はじめまして?」
自己紹介をした時、御厨さんが小声で何かつぶやいたような気がしたが、とっとと作業を済ませ、なんとか九重さんと2人きりの時間を作りたいぼくは、スルーしてプリントが並べられた机に向かおうとした。
が、なぜか御厨さんが目の前に立ちはだかった。
そしてぼくの顔を見上げ、無言で凝視される。
「…………」
近い。
いや、近過ぎる……!
さっきも言ったが御厨さんもかなり可愛い。
そんな相手に見つめられてぼくの豆腐メンタルが耐えられるはずもなく、つい目が泳いでしまう。
目が泳いだ先には、やはり少し戸惑った表情の九重さんがいた。
九重さんも状況が把握できないでいるようだ。
とにかくこの気まずい雰囲気をなんとかせねば。
「あ、あの……何か?」
声を振り絞るようにして、御厨さんに質問する。
「はぁ……」
ため息をつかれた。
え。なんで?
ぼくそんなにひどい顔?
ため息をつくほど?
「あの……御厨さん。東雲くんがどうかした?」
九重さんも加勢してくれる。
でも御厨さんは無言のまま……むしろさっきより少し剣呑な気がする。
だって眉間にちっちゃくシワがよってるもの。
「……やっぱり思い出さないか」
あ。これ、ぼくが悪いやつっぽい。
でも何も思い出せない…ていうか初対面だよね?
生き別れの双子とかいたっけ?
似てないから二卵性?
御厨さんは椅子の上に置いてあったカバンを手に取ると、ごそごそと何かを探し始める。
黒いシンプルなゴムを取り出すと手慣れた感じで髪を三つ編みにし、目からコンタクトをはずす。
同じくカバンから取り出したビアンキブルーのメガネケースから出てきたのは、昭和感満載のいわゆる瓶底メガネ。
あれ?
レンズが片方割れてる?
「こ、これならわかり……ますか?」
「以前……は、お化粧もしていませんし……スカート……も、校則で決められた長さ……でした」
うん?
失礼ながら、スクールカースト上位から一気にぼくの近くまで降りてきたようなお姿と話し方。
どこかで見覚えがあるような……。
「……地味」
「うっさいわね! わかってるわよ!」
「だから変わったの!」
つい余計な一言が口に出た。
変わった?
変わってるの?
「あ! そのメガネと三つ編み、入学式の時の……!!」
あれ?
九重さんは知ってるの?
入学式……。
割れたメガネ……。
ぼくの中で何かが繋がろうとした瞬間、御厨さんが抱きついて……いや、しがみついてきた。
「「なーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!??」」
わけがわからないまま、放課後の進路相談室にぼくと九重さんの声が響いた。




