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マットなぼくとPPな彼女  作者: kats(仮)


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距離感 side MAKOTO

地味な男の子とキラキラした女の子。

普段の生活からテリトリーの異なる二人が、気がつけばお互い気になるように。


※ 保険の為R15設定にしてあります。

 ここは友人とオタ話をする時によく利用する駅前のファミレス。

 時間は昼食目当ての客が引き始めた土曜の午後1時半。

 目の前にはこの店に来た時にいつも頼む人気メニューのミラノ風ドリアと、ドリンクバーでチョイスした、明らかに体に悪そうな蛍光緑と呼ばれる色を発する炭酸飲料。

 全ての要素がぼくをリラックスした状態に導く完璧なラインナップだ。


 ただなぜか隣には九重(ここのえ)さんが座っている。


 ……大事なことだからもう一度言う。


 ただ!

 なぜか!

 隣の席には九重さんが座っている!

 近! 近っっっ!


「それじゃあ、冷めないうちに食べよっか」


 ぼくのすぐ隣で、しかも二人きりで、最近好きだと認識した憧れの彼女、九重さんが言った。


 ━━━ 一体なぜこんな状況(きゅうち)に!?




 すこし長くはなるが説明せねばなるまい。

 放課後いつものように、教室で恋愛モノラノベを楽し……恋愛についての知見を深めていたところ、前回九重さんとの嬉し恥ずかしイベントを発生させてくれた担任が当の彼女引き連れ現れた。

 担任曰く、学級委員の集まりに九重さんしか出席できず、頼む予定だった仕事の手が足りないとのこと。

 そこで思い出されたのがいつも教室で暇そ……見識を広げているぼくの存在。

 つまりその仕事を手伝えという話だった。

 手伝ったら昼ごはんをおごってくれるというので、ぼくはその報酬のために引き受けた。

 もちろん九重さんと一緒だからだが、そんな事はおくびにも出さない。

 出さなかったはずだ。

 担任が少しにやけていた気がしないでもないが……。


 委員会の仕事は本当にちょっとした雑用で、ぼくがしたのは女性が持つには重いであろう荷物運びが主だった。

 仕事はすぐに終わり、約束の昼ごはんをおごってもらうために、担任の財布にも優しい有名チェーンのファミレスに来たのだが。

 頼んだ品物が届いたタイミングで担任のスマホからボカロ曲が鳴りはじめ、用事をひとつ忘れていたと、料金だけ先払いして、ぼくたちを残して学校に戻ってしまったのだ。

 着メロに設定されていたボカロ曲について、ひとしきり話したいと思っていたぼくは肩透かしをくらい、気がつけば九重さんと並んでふたりきりで昼ごはんを食べることになっていたのだ!


「どうかした? 東雲くん」


 説明的な思考の海をたゆたっていたせいで反応が遅れたのか、九重さんが心配そうな表情でのぞきこんでいた。


「あひ!? ……あ、いやなんでも、先生の用事ってなにかなって……!」

「なんだろうねー。もっと早く思い出してくれていれば、そっちの用事もみんなで済ませられたのに」

「先生が頼んだ分どうしよう……テイクアウトできるかあとで聞いてみようか」


 ぼくがひとりよがりな思考の海で翻弄されていた間に、担任の昼ごはんの事を心配してあげるなんて、九重さんは優しい人だ。

 彼女の前にはこの店の、やはり人気メニューであるカルボナーラと、ドリンクバーで持ってきたアイスミルクティーがあった。

 話をしつつ、手に持ったフォークでくるくるとパスタを丸めている。

 きれいに小さく丸めたパスタをそのまま口に運び……。


「ん! 美味しい! わたしここのカルボナーラ大好きなんだ♪」


 少し頬をピンクに染めつつ、その頬に手を当てて美味しそうに食べる彼女。

 その姿につい見惚れてしまう。


「……可愛いなぁ」

「え!?」

「あ、いや! そのパスタ盛り付けも可愛いよね!!」

「あ、うん! そうだね! 飲食店のごはんって盛り付けもきれいで、見た目から美味しそうだよね」

「うんうん!」


 あ……あぶねー!

 頭の中で思っているだけのつもりが、口から勝手に漏れてたし!

 しかも食べているところをじっと見てるなんて絶妙にキモいやん!

 気をつけろ自分!!


「今日は急にお手伝いを頼んでごめんね。東雲くんにも予定があったよね」


 気遣いもできる彼女は、さらっと話題を変えてくれる。

 ぼくが気にしすぎただけだったのか?

 いやいや彼女はキモいと思っても口には出さないだろう。

 やはり気をつけるべきだ。


「予定なんかないよ。今日もいつも通り本を読んでただけだから」

「九重さんと一緒に仕事も楽しかったし」

「ほんと? わたしも東雲くんと話ができるようになってうれしいよ。同じクラスでも今まであんまり話した事なかったもんね」


 うれしいって言った?

 今うれしいって言ったよね!?

 そんな事言われたら勘違いしちゃうでしょ!

 勘違いしたくなっちゃうでしょ!!

 優しさを勘違いしたらだめだぞ自分!!

 ちょっとだけなら!ね!


「まさか一緒にごはんを食べることになるとは、全然思ってもいなかったよ」

「ほんとだね」


 すみません!

 好きになってから毎日妄想してました!

 しかも手作りのお弁当をあーんしてくれるとかまで!!

 いやいや落ち着け落ち着け…ふう。

 一気に跳ね上がったテンションを強引に押さえつけ、ぼくも自分のドリアを、ちょっと気に入っている先端部分が細い形状のスプーンで口に運ぶ。

 先端が細いスプーン、食べやすくていいよね。


「あ。粉チーズかけるの忘れてた」

「粉チーズ?」

「ちょっと前を失礼……あ」

「……!」


 しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 卓上の粉チーズを取ろうとして、手と手が当たっちゃった!

 亜音速で手を引っ込められたし!

 いや音速だったかも!

 音が、後から、聞こえてきた気がする!


「あやっ……ご、ごめん、手が当たっちゃって……!」

「大丈夫だよ。わたしの方こそ声をかけてもらったのにごめんね。ふふ」


 慌てているのはぼくだけで、九重さんはいつも通り!

 通常営業!

 ビジネススマイル!!

 ただのクラスメート確定演出入りました!

 わかってたけど!

 わかっててもショック!

 はぁ……。


「ドリアに粉チーズをかけるとおいしいの? わたしやったことないかも」


 もちろん九重さんは、引き続き普通に会話を続けます。うん。


「これ、おすすめの食べ方アレンジってネットで見つけたんだ。やってみたら結構おいしくて、たまにやってるんだけど」

「あ。一口食べてみる?」

「え? いいの?」


 はいやらかしたーーーーーー!!

 つい友人と来ている時の感覚で言っちゃった!!

 一緒にごはんを食べるのがはじめての、しかも女の子相手に言うことじゃないだろう!!

 ないのでは!?

 でも、間、髪を入れずいいのって聞かれたし、わんちゃんあるのか!?


「じゃあ、あーん♪」


 えーーーーーーーーーー!?

 わんちゃんどころじゃねーーーーーーーーーーー!!

 あーんて!!

 妄想が現実に!!

 ぼくが食べさせるってことですよね!?

 ぼくが使ってるこのスプーンでいいの!?

 何が正解なの!!?

 ええい!ままよ!!


「あ、あーん……」


 やっちゃったーーーー!!

 これで断られたら恥ずか死する!!


「あむ……もぐもぐ……」

「あ、おいしい♪」

「追いチーズありだね!」


 何の躊躇もなくぼくが差し出したスプーンを口に入れ、笑顔を見せる九重さん。


 はい正解ーーーっ!!

 天使の笑顔ゲットーーーっっ!!

 ぼくがんばった!!

 ナイスぼく!!


「じゃあお返しに……はい! あーん♪」


 なんだと…!?


 人生初のミッション・インポッシブルを乗り越えたばかりのぼくに、さらなる試練が訪れた!

 九重さんが!

 彼女が食べているカルボナーラを!

 彼女が使用しているフォークで!

 くるくるしてあーんだと…!!!


「あ、あーん……ぱくっ」

「お、おいひいね! むぐむぐごくん」


 口に入れた瞬間おいしいとかどれだけ神の舌なのか自分よ。

 普段テレビやネットのグルメ番組を観て、口に入れた瞬間おいしいとかいうレポーターに全く味わってないじゃんとか思っていたのに、この大事な瞬間に全く同じ反応をしてしまった。

 正直緊張しすぎて、これっぽっちも味がわからなくなっている。

 ただただハートのビートが激しくなり、顔が真っ赤になっていることを自覚できるほど頬がほてっている。

 今すぐこの心臓を止めることができればいいのにというか本当に止まりそう。


「良かった。カルボナーラとドリア、わたしたち二人ともチーズが好きなんだね」

「異性との交際や結婚って、食べ物の好みが合うかどうかが結構大切らしいね」

「え。あ、そうなんだ……へー」

「あ。いやその! ぼくと九重さんがその……そうというわけではなく! でもいやというわけではなく! いや、げふんげふん!!」


「「………」」


 心臓ではなく会話が止まった。

 微妙な空気になったぼくたちは、その後食べ終わるまで一言も話さなかった。




 食べ終わって店を出るとまだまだ陽は高く、付き合ってる恋人同士だったら、この後どこかデートに行ったりするのだろう。

 もちろん妄想では何度もしてるけど、現実は厳しい。

 そもそも会話すら途切れてる状態だ。

 しかし無言のまま分かれるのも究極に気まずい。

 勇気を振り絞って声を発する。


「あ。じゃあ、また明日学校で……ぼくJRだからこっちへ」

「……わたしもJR」

「えっと……駅まで一緒に行く?」

「うん」


 ファミレスを出たところで分かれることになると思っていたけど、駅まで一緒にってことは、嫌われたわけではない……?

 隣を歩く九重さんとの距離も、別に遠くなったりしてないよね?

 むしろ微妙に近いような……うーん。

 恋をするって、色々距離感むつかしいんだな……。


 あれ?

 なんだかんだあったけど、今日、ぼくは、憧れの九重さんと間接キスをしたってこと?

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