【第6話】アビスゲート(完)
【スキル:感知を使用します】
【周囲のモンスターは感知されません】
(……おおよそ片付いたな。)
周囲のモンスターを一掃したジウは、そのままウンサジャのもとへ駆け寄った。
ジウ:「どういう状況だったの?
たかがこの程度で押されるなんて、らしくないじゃない。」
ウンサジャ:「そうだったさ……ボス部屋に入るまではな。」
ジウ:「……ボス?」
ウンサジャ:「あいつはスキルを使う。
対象を最も苦痛な記憶の中へ閉じ込めてしまうんだ。そして――」
ジウ:「……デバフ系か。」
ウンサジャ:「ああ。スキルだけじゃない。
魔力そのものがとてつもなく強い。まるで……初めてお前に会った協会で感じたあの魔力のようだった。」
ジウ:「ふん。どうせ私の方が強いけどね。」
ウンサジャ:「それにしても……お前、正体を隠したいんじゃなかったのか?
一般人はともかく、S級ハンターなら見抜くかもしれん。
幻影の魔法を使っているとはいえ。」
ジウ:「別にいいでしょ。どうせこの様子じゃ誰も気づく余裕ないし。
ここの連中、もう気力が尽きてる。私を見分ける暇もないよ。」
ジウ:「とにかく、ここで待ってて。ボスってやつ、さっさと片付けてくるから。」
ウンサジャ:「ジウ!」
立ち去ろうとしたジウの腕を、ウンサジャが掴んだ。
その瞳は不安をにじませていた。
ウンサジャ:「言っただろう。あのボスはトラウマを抉ってくる。
お前にとっては……」
ウンサジャは一瞬、視線を伏せた。
――父の記憶を呼び起こされるだろう。いまでも心の奥底を刺激する傷。
ジウ:「大丈夫。もう何ともないから。
……それより、見る限りじゃ一番ダメージ食ってるのはウンサジャじゃない? らしくないね。」
ウンサジャ:「獅子が敵に背を向けて隠れるわけにはいかないからな。」
ジウ:「ほんと、バカみたい。」
ウンサジャ:「それと……いい加減、“銀執事”はやめないか。
せめて“銀獅子”って呼んでくれ。」
ジウ:「私にとっては“銀執事”が一番しっくりくるんだよ。」
【スキル:召喚を使用します】
ジウ:「行こう、アーシャ。」
ジウはドラゴン・アーシャを呼び出し、ボスの待つ領域へ飛び立った。
ウンサジャ:「……相変わらずだな。」
長く彼女を見守ってきたウンサジャは、ジウが怒りを隠そうとしていることを悟っていた。
(あの人のトラウマは一つきりだ……)
数年前、協会地下二階で起きた魔力暴走事件。
王と呼ばれるほどの存在でも、初めから魔力を完璧に操れたわけではなかった。
あの時、ウンサジャはジウを守るために全身を血まみれにし、死線をさまよった。
――いまだに「守れなかったかもしれない」という罪悪感と恐怖に縛られているのだろう。
(バカ……悪いのは私なのに、なんであの人が罪を背負うのよ。)
【星の星位が「うちの子のせいじゃない」と優しく囁きます】
(分かってる、星さま。)
【星の星位が「デバフ程度、このお兄ちゃんが全部防いでやる!」と豪語しています】
(……星さま、それって“お兄ちゃん”って呼ばれたいだけでしょ?)
【星の星位が勢いよくうなずきます】
(しょうがないな……二十年後くらいに考えてあげる。)
【星の星位が「そんなの聞いてない!」と必死に抗議しています】
ジウはその必死な様子に、少しだけ頬を緩めた。
(ふふっ……きっと私を元気づけようとしてるんだな。)
そう思った瞬間、ジウはふと星位のいつもの冗談を思い出し、ほんの一瞬だけ表情を曇らせた。
(……まさか、冗談じゃないのかも?)
――トンッ。
アーシャが大地へ降り立つ。
ジウ:「お疲れ、アーシャ。」
アーシャはジウの感情を感じ取ったように、頬を擦り寄せて慰めるように鳴いた。
【スキル:召喚を解除しました】
(さて……あのクソボス、狩りに行こうか。)
遠くからでも感じる凶悪な魔力。
だがジウは怯むことなく、まっすぐその方角へと歩み出した。
――ダンジョンボス:ハイオーク(High Orc)と遭遇しました――
グオオオオオ――ッ!!
目が合った瞬間、奴の忌々しい魔法が発動したのを感じた。
【警告:デバフスキルを受けました】
【星の星位がデバフを弱体化します】
(ありがとう、星さま。)
弱体化されたとはいえ、視界の中に父の幻影が浮かび上がった。
ジウは少し寂しげに微笑み、静かに呟く。
ジウ:「ごめんね、パパ。
こんな奴に利用されちゃって。」
グルルルルルアアア――ッ!!
魔法が効かないと悟ったハイオークが激昂し突進してくる。
ジウは軽やかに身をかわし、すかさずスキルを発動した。
【スキル:雷撃を使用します】
オークの腕へ雷が落ち、轟音とともに悲鳴が響く。
だがジウは構わず次の動きを繰り出した。
【スキル:魂牢を使用します】
ハイオークの魂をそのまま監獄へ封じ込める。
これから幾千年も、全身が引き裂かれる苦痛を味わい続けるだろう。
――王の逆鱗に触れた代償は、甘くない。
――ダンジョンボス:ハイオークを討伐しました――
【塔攻略状況】
国家:アメリカ合衆国(27階)
国家:日本(17階)
国家:韓国(12階)




