【第4話】ギルドとダンジョン
ウンサジャ。
――この人は、信じて頼っていい。
そう感じたのは、ハンター教習を受けていた十九の頃だった。
ウンサジャ:「……ジウ。」
ウンサジャ:「君の家庭のことを……意図せず耳にした。」
(……!)
ウンサジャ:「代わりに謝っても無意味かもしれないが……それでも、すまない。」
悪くない日々だった。
ハンターを憎む気持ちはまだ消えなかったが、
大義のために戦うハンターも確かにいる――そう気づき始めた頃だ。
そして――
本気で私を見て、正しく成長できるよう手を貸してくれる……
母を除けば、初めて出会った“おとな”だった。
それで私は、少しずつ彼に心を開いていった。
ウンサジャと知り合って三年。
その間に、世界のことも徐々に分かってきた。
最初は〈三大ギルド〉。
ウンサジャが長を務める〈銀虎〉、
剣を主力とするもう一人のS級が率いる〈カエサル〉、
そしてS級こそいないが多数のA級を抱える〈青龍〉。
この三つが日本の中核ギルドだった。
次に――
いまや塔を攻略しなくても、街角の至るところにダンジョンが生成される。
不安の声は上がったが、ダンジョンブレイクさえ起きなければ
一般市民が直接襲われる確率は低い。
……もちろん、巻き込まれる人がまだ多いのも事実だが。
そのせいで、全国でギルドが雨後の筍のように生まれた。
そして私は――!
警備員1:「あ、あの……これ以上は困ります……」
警備員2:「代表は、誰とでもお会いになる方ではありません!」
ジウ:「おじさんたち、私はただの一般人だよ。
手を出したら処分されるのはそっち。――ご苦労さま。」
――ギルド〈銀虎〉の一階で、堂々と駄々をこねていた。
警備員1:「ですから困りますって……」
警備員2:「はっ! 代表!」
一階の騒ぎを聞きつけて降りてきたのは――ウンサジャだった。
ウンサジャ:「お、来たか。」
ウンサジャは、ジウをひょいと抱え上げた。
ウンサジャ:「この子は俺が連れていく。
まったく、手のかかる子でね。」
抱えられたままのジウは、警備員たちにべーっと舌を出す。
警備員:(……猫……?)
ウンサジャ:「通行証は渡しておいたはずだが?」
ジウ:「知らない。めんどくさくて持ち歩いてないし。」
ウンサジャ:「……」
ウンサジャ:「それで、今日は何の用だ?
うちのランカー様は引きこもりライフを満喫してるんじゃなかったか?」
ジウ:「うちの“お母さま”がブチ切れて追い出されたの。
“飯の種にならないなら帰ってくるな”って。」
ウンサジャ:「なら、この機会に正体を明かすのはどうだ?
世界中が君の正体を知りたがっている――忘れてはいまい。」
言い終えるや、ジウは飛び上がって叫んだ。
ジウ:「はぁ!? 正気!?
そしたら私の引きこもり生活が終わっちゃう!
この幸せ、壊さないで!」
ウンサジャは、どこか名残惜しそうに呟く。
ウンサジャ:「……そんな教え方、した覚えはないんだが。」
ジウ:「ふん。私はめんどくさいのが大嫌い。――あ、キャンディだ!」
ウンサジャ:「じゃあ、大学にでも行ってみるか?」
ジウ:「……大学?
無理、私の成績じゃ入れない。
高校の時だって、“S+覚醒者と同じ名前なんだね”って言われるだけで手が震えたのに。」
ウンサジャ:「偽名を使えばいい。
入学は心配いらない。体裁を整えて席を用意しておく。」
ジウ:「……体裁?」
ウンサジャ:「いきなり大学に行けば、お母さまに怪しまれるだろう?」
ジウ:「あ……」
ウンサジャ:「一年ほど予備校に通えば自然だ。入学できるよう手は打っておく。」
ジウ:「はぁ……完全に権力の濫用。」
ウンサジャは肩をすくめ、悪びれずに笑った。
――大学ね……。
少し考えたジウは、ぱっと立ち上がる。
ジウ:「よし、行ってみようかな。
あ、でも……学費は?」
振り返って助けを求めると、ウンサジャはにやりと笑った。
ウンサジャ:「そこは君が説得することだ。」
『……星位さま、どう思う?』
【星の星位が「うちの子はもう一度追い出された方が早いんじゃないか」と言っています。】
『……』
少し考えたジウは、即座に態度を変えて甘え声を出した。
ジウ:「ウンサジャおにいちゃ〜ん♡ 学費だけお願い〜!」
【星の星位が「私には一度も“お兄ちゃん”って呼ばなかったくせに」と不満を述べています。】
『星位さま、これは私の命がかかってるんです!』
ウンサジャ:「くくっ、本当に猫みたいな性格だ。
だがタダは無理だ。条件がある。」
ジウ:「……条件?」
ウンサジャ:「予備校で成績トップ10に入れ。
できたら払ってやる。」
ジウ:「……トップ10!?
ランカーは一位なのに、勉強まで……!」
ウンサジャ:「勉強も一位なら、なお良しだ。」
ジウ:「……10位、やってみるよ……」
こうして頼れる後ろ盾を得て、
ジウは半ば強制的に予備校へ通うことになった。
(私の引きこもりライフ……)
落ち込みながら予備校へ入った、その時――
???:「うちの兄貴が『無名』なんだぞ!」
???:「違うって! 『無名』はうちの姉ちゃんだから!」
(……え?)
(『無名』って――私だけど?)
入って早々、分別のない子どもたちがジウを出迎えた。
【塔攻略状況】
国家:アメリカ合衆国(26階)
国家:日本(17階)
国家:韓国(12階)




