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【第30話】20階攻略(完)

"うあぁ……暑っ。"

"塔の中って、最初からこんな蒸し風呂なの?"


中央シェルターのど真ん中。

汗でぐっしょりになったまま床にぺたりと座り込み、ぱたぱたと扇いでいるのはジウだった。


銀獅子: "天候はランダムだ。"

"極寒のときもあるし、砂漠並みに灼熱のときもある。入るまでは誰にもわからない。"


"うぇ……じゃあなんでみんなわざわざ塔なんか登るの。"

"……もしかして、楽しいからとか?"


銀獅子: "それより一つ聞きたい。"


"ん?"


銀獅子: "おまえ、なんでまだ力を隠してるんだ。"

"普通は名前を売って、ギルド入って、金稼いで、名誉も手に入れて……そういう流れだろ。"

"おまえ、世界ランカー一位クラスなのに、わざとやってないよな。"


"……なんで急にそんなこと聞くの。"


問いかけに一瞬だけ言葉を失ったジウは、ため息みたいに口を開いた。


"んー……まず、あたしはハンターが嫌い。"

"いや、正確に言うと『嫌いだった』が正しいかな。昔はハンター=クズだと思ってたから。"

"力あるってだけで一般人いじめて、カネゆすって、ワイロもらって。そういうやつらしか目に入らなかったし。"


彼女は床に走ったひびを指先でカリカリとなぞりながら続けた。


"でも、ちょっと回ってるうちにわかったんだよね。いいハンターもちゃんといるんだなって。"

"自分の命まで投げ出して他人守るやつら。"

"そういう子たちは、本当にいる。"


"……だから、あたしが嫌いなのはあの子たちじゃない。"

"あたしが嫌いなのは、あの子たちを見てる『周りの目』のほう。"


銀獅子: "周りの目、って?"


"うん。その目つき。"

"『俺たちは怖いから、おまえが前に出ろ』"

"『おまえは力あるんだろ? だから当然やれ』"


ジウは鼻で笑った。


"あれが本気でムカつくんだよね。力があるってだけで、なにかを『背負わされる』仕組みそのものがさ。"

"それが当たり前になった瞬間、その人は人間じゃなくて、ただの道具扱いになるんだよ。"


銀獅子は黙って聞いているだけだった。


しばらくのあいだ、シェルターの空気は砂嵐みたいな熱気でゆらいだ。

ジウがそっと立ち上がる。


"……ま、とにかく。この話これ以上すると頭痛くなるし。"

"そろそろ出よっか?"


銀獅子も立ち上がった。

いらんことを引きずり出したか、と一瞬だけ視線を落とす。

だが考える間もなく、システムアラートが鳴り響いた。


『警告! 中央シェルターから離脱しました。』


シェルターの結界を出た瞬間、都市側から怪鳴がはじけた。


ギエエエエエッ――!


シティ型フィールドに放たれていたオークの群れが、まとめて突っ込んでくる。


"はあ、また群がってきやがったか?"


【スキル:抜刀 を使用します。】


スパッ――。


一閃。

オークたちの胴体がまとめて斜めに裂け、アスファルトの上に崩れ落ちた。


そして――

飛び散った視界の裂け目の向こうから、巨大な影が差し込んだ。


巨大な翼。

ねじれた厚い鱗。

焼け焦げたコンクリ片がべったり貼りついたまま。


ジウは顔を上げた。


"……ドラゴンだねぇ?"


空から、黒みがかった青の飛竜が急降下してくる。

咆哮がアスファルトを震わせ、

その影が交差点ごと丸呑みにした。


銀獅子: "ジウ! あれがボスだ!"


"オッケー。じゃ、さっさと終わらそ。"


彼女は腕を後ろにしならせ、剣気を一点に集中させる。


【スキル:斬撃 を使用します。】


ヒュイィィッ――!


飛竜はビルを何棟もえぐり取りながら、爆撃じみた勢いで降下してきた。

ジウは正面から踏み込み、そのまま真上へ斬り上げる。


"ふんぬ――っ!"


ドガァンッ!!!


爆音とともに、飛竜の首と胸郭が斜めに裂断された。

巨体は瓦礫の塊みたいに落下し、道路を押しつぶす。

鱗はガラス片みたいに四散した。


"ふん。ウチのヨンガリより弱いんだけど。"


『通知:20階の攻略に成功しました!』


"おー、銀執事。終わりだってさ。"


銀獅子: "あー……ああ。うん……終わった、な……"


口ではそう返しているが、顔には「いま俺は何を見たんだ?」って書いてあった。


"じゃ、出よ。あたしはステルス入って先に消えるから、後始末よろしくね?"


【スキル:ステルス が起動します。】


タワー出口。

外はすでに修羅場だった。


何十人もの記者、協会関係者、一般人、配信者っぽいのまで、わらわらと押し寄せている。

フラッシュが白く弾けた。


記者1: "今回の攻略、本当に『無名』さんと銀獅子さん、お二人だけで入ったというのは事実ですか?!"


記者2: "日本全域に緊急地震速報が流れた直後に攻略に入ったとのことですが、それと関係はありますか?!"


記者3: "現在、地震は止まっているんですか?! 再発の可能性は?!"


記者4: "学生服姿で入っていったって目撃証言があるんですが、あれはファンサービスですか?!"


銀獅子: "ファンサービスではありません……"


銀獅子は落ち着いて答えた。

口数は少ないのに、一言一句がそのままニュースの見出しになりそうな口調で。


銀獅子: "今は一刻を争います。まもなく全国民に緊急メッセージが送られるはずです。"

"俺が中に入った理由は、そのためだ。"


それから、ほとんど聞き取れない声量で、ステルス状態のジウにだけつぶやく。


銀獅子: "行くぞ、ジウ。"


その様子を、少し離れた場所から眺めているハンターが一人いた。

カメラには映らない位置取り。

まるで「確認しに来ました」みたいな顔で、口元だけをゆるく吊り上げて。


"……あそこにいるわけだ。うちの『ランカー様』は。"


そいつは遠くで、にやりと笑っていた。


【星の聖位が『おまえのステルスを感知したやつがいるぞ』と伝えてきます。】


『気配だけ拾われたってとこでしょ。べつにいいし。』

ジウはそう流して、踵を返した。


そのあいだに、災害速報(緊急避難指示)の一斉配信が本当に全国で鳴ったらしい。

外は一瞬で騒然となる。


記者1: "これ……どこに避難すればいいんですか?!"


記者2: "セーフゾーンは指定されてるんですか?!"


すべての視線が銀獅子に集中する。

そのスキに、ジウは静かに姿を消した。


――


家のドアを開けた瞬間、聞こえてきたのはチョン・ソユンの声だった。


チョン・ソユン: "お姉ちゃん、帰ってたの?"


"ユンユンー! あたしのこと待っててくれたの?!"


ジウはそのままソユンに飛びついた。

……が、よく見るとソユンは全身ばっちり仕上がっていた。

お出かけ用の服、メイク、香水。どう見ても「これからデートです」という顔だ。


"あれ? ていうか……どこ行くの?"


チョン・ソユン: "うん。会う人がいるから。"


"……!!!!!"


ジウの頭の中で電球がパーンと光った。

『あ、そうだ。』

『ソユンに男がいるんじゃないかって疑ってたんだった。』

『この目で確かめようとしてデパートまで尾行して……ドユンに会って、塔の件がドカンと起きて、ドタバタしてる間に忘れてたんだっけ??』


チョン・ソユン: "じゃ、行ってくるね。"

"お母さ……じゃなくて『奥様』は、あんた待ってたから。顔くらい見せてあげなよ。"

"今日、塔から帰ってきたってちゃんと話しといて。"


"う、うん……"

"いってら……"


ソユンが靴を履いて出ていくなり、ジウはすぐに目を細めて手をかざした。


【スキル:ステルス を起動します。】


【星の聖位が『また変なことにその能力使ってるな』とぶつぶつ文句を言います。】


『星さま、これは正義のための正しいパワー運用なんだけど?』

『うちの妹の相手は、姉であるこのあたしが直接審査しますけど?』


【星の聖位が『あーあ、過保護なお姉ちゃん降臨だわ』と告げます。】


ジウはご機嫌で後を追った。


ソユンとジウ。

二人の外出が始まった。

……もちろん、ソユンはそれが「二人で」だなんて、これっぽっちも気づいていなかった。





【塔攻略状況】


国家:アメリカ合衆国(28階)(NEW)

国家:日本(20階)(NEW)

国家:韓国(14階)(NEW)


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