【第29話】ファーストタイトル - 20階攻略(1)
「よし、隠密を起動して……行こうか。」
【 スキル:隠密が発動しました 】
攻略を終えて外に出た銀獅子を待っていたのは、報道陣と群衆だった。
彼が姿を現した瞬間、無数の視線が集中した。
記者1: 「おおっ! 出てきたぞ!」
記者2: 「銀獅子さん! こっちを向いてください!」
記者4: 「今回の攻略を急がれた理由は何ですか?!」
記者3: 「ランキング1位の“無名”さんと一緒に入られたというのは本当ですか?!」
記者1: 「その制服姿は……ファンサービスですか?」
銀獅子は質問の嵐に答えず、短く言葉を返した。
銀獅子: 「……ファンサービスではありません。
そして今回は運よく早く終わりましたが、まもなく一通のメッセージが届くはずです。
それが、次に進む理由です。」
短く答えを残し、彼は隠密中のジウにそっと囁いた。
銀獅子: 「行こう、ジウ。」
そのとき、遠くから二人を見ている人影があった。
「……そこにいるのか、俺たちのランカー様は?」
そう呟き、にやりと笑った。
【 星の座が『君の隠密を見つめる者がいる』と告げます 】
……まあ、気配だけ感じ取ったんだろう。気にしない。
二人は再び塔へと向かった。
外では緊急避難速報が鳴り響き、街は騒然としていた。
ついに鳴ったか、あの災害警報。
記者1: 「なっ……どこに避難すればいいんだ?!」
二人は再び塔の入口をくぐった。
銀獅子: 「予備の服をここに置いておいて助かった。
このまま制服で塔に入るところだったよ。」
「別にいいじゃん。次のシナリオも学校かもしれないし。」
銀獅子: 「……そんな経験は一度で十分だ。」
『 星位の塔・第20階層への入場を確認 』
『 入場ハンター:〈無名〉、〈銀獅子〉 』
『 シナリオが展開されます 』
「……今回は、簡単なのがいいな。」
銀獅子: 「前回のも十分簡単だっただろう。
むしろ、武力が通じない方が面倒だ。」
「私は頭使うの苦手なんだよね。全部ぶっ壊せば済む話でしょ。」
『 今回のシナリオ:“ネオ東京” 』
「ネオ……未来?」
目の前に広がったのは、廃墟と化した炎上中の東京だった。
「おお……銀獅子、やっぱりこの塔は“必ず起こる未来”だけを見せるわけじゃないんだね。」
銀獅子: 「それでも、起こり得る未来ではあるだろう。」
「大丈夫、大丈夫。私がいるのに東京が滅びるわけないじゃん?」
……でももし、銀獅子や家族が死ぬ未来だったら。
そのときは、東京だろうが何だろうが全部焼き払ってやる。……あれ? それってつまり——
銀獅子: 「……立派な心構えだ。
どうやら今回は本当に戦闘特化のステージのようだな。」
その言葉を皮切りに、街の奥からモンスターの群れが溢れ出した。
ゴブリン、オーク、オーガが咆哮を上げながら建物を踏み潰していく。
「へぇ? なら、速攻で終わらせようか! すぅーっ……!」
【 スキル:黙輪功 】
ジウが両手を合わせると、黒い渦が掌に現れた。
まるでブラックホールのように周囲を吸い込み、
溜め込んだエネルギーを一気に解き放つ。
次の瞬間、モンスターの群れも、燃え盛る建物も、全てが消滅していた。
銀獅子: 「そんなスキルは初めて見たぞ……。
お前の“ファーストタイトル”は魔剣士じゃなかったのか?」
〈ファーストタイトル〉とは、星位/星座との契約で与えられる基本適性。
治癒系・筋力系・神経系など、通常は体質や性格に依存するが——例外も存在する。
ジウのファーストタイトルは筋力系の“魔剣士”だった。だが——
「うん? これ、私が作ったスキルだよ?」
……人間が独自にスキルを創造するだと?
しかも、まるで買い物でもするような口ぶりで……。(銀獅子の心の声)
銀獅子: 「それにしても、B級の群れを一撃で消すとは……
本当に一人の人間に許された力なのか?」
「うちの星様が、どんな契約をしたか聞いてないの?
私は“全知”、そして——“全能”だよ。」
銀獅子: 「だからこそ、精神干渉系には注意しろ。」
「へっ、私がそんなのにかかるわけないでしょ。
……で、次はどこ行く?」
銀獅子: 「他のルートは結界で封鎖されている。
このまま標識通りに進めばいいだろう。
……それにしても、普段なら面倒くさいと逃げ出すお前が、
今回はボスまで倒すなんてな。」
「今日はサービスデーだからね。ありがたく思いなさい。」
こうして——入場からわずか一時間後、二人は中央シェルターへと到達した。




