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【第3話】銀獅子

ムン・ソンホに連れられて協会へ着くと、荘厳な建物がチョン・ジウを出迎えた。

想像以上の規模に一瞬だけ驚いたが、ムン・ソンホが志優を呼ぶ。


ムン・ソンホ:「ジウ嬢、こちらです。」


無言でついて行くと、視界に多くの研究員たちが入ってきた。


(あの子がS+級……?)

(思ったより、ずいぶん若いな?)


通りすがる研究員たちが、志優をちらちら見やりながらひそひそと囁く。

志優は全部聞こえていたが、あえて無視した。


ムン・ソンホ:「建物、けっこう大きいでしょう?」

ジウ:「まあ、ね……」


志優はそっけなく返す。


ムン・ソンホ:「ここは防御系のハンターの方々が魔力を注いで建てました。

簡単には壊れませんし、有事の際は避難所として使えるよう大きく設計されています。」


(ふーん……)


説明を聞きながら、志優はゆっくりと内部を見回した。


だが――


十秒。

この建物を灰にするのに要する時間。

その気になれば、呼吸するみたいに破壊できる。


無意識のうちにそんな計算をしていた自分に、志優は一瞬だけ戸惑った。


とりとめない会話を交わしつつ歩いていくと、やがて大きな部屋に辿り着いた。

そこには、青く巨大な球体が志優を待っていた。


ムン・ソンホ:「ここに手を――」


(……)


星位と数え切れないほど対話してきた志優には、これが何かおおよそ察しがついた。

ハンターとしての覚醒認証であり、機関が公式にハンターであると宣言する段階。


この手順を踏めば、各国からのラブコールと世間の関心が一気に雪崩れ込むのは目に見えている。


志優は少し考え、振り返ってムン・ソンホを見た。


ジウ:「オジサン、条件がある。」

ムン・ソンホ:「え……?」


ジウ:「面倒くさくなるのは大嫌い。

だからハンター名は『無名』にして。

インタビューだのラブコールだの、対外的な要請は全部無視して。」


ムン・ソンホはうろたえた。

覚醒は祝福も同然で、名誉も富もついてくるのが常だからだ。


だが協会、そしてムン・ソンホは知っていた。

志優がなぜハンターを嫌うのかを。

何より最初のS+級であるがゆえに、覚醒メッセージが出た瞬間からすべての調査が終わっていた。


ムン・ソンホはおずおずと口を開く。


ムン・ソンホ:「ジウ嬢……それでも、ハンターとしての義務は少しでも……」

ムン・ソンホ:「ジウ嬢がなぜそこまでハンターをお嫌いになるのか、承知しています。我々は――」

ムン・ソンホ:「ひっ――!?」


言い終える前に、ムン・ソンホを含む研究員たちが呻き声を上げて崩れ落ちた。


「……なに?」


ムン・ソンホ:「ジ、ジウ嬢……ま、待っ……」


最後まで言葉にならない。

志優の魔力は、さらに苛烈さを増していく。


ジウ:「誰。」

ジウ:「私の過去を調べた、そのクズは誰?」

ジウ:「言わないなら……ここから生きて帰れない。」



挿絵(By みてみん)



ムン・ソンホは荒い息の合間に、どうにか声を絞り出した。


ムン・ソンホ:「わ、分かっておられるでしょう!

S+級ですから……我々にもどうしようも……!

関連資料はすべて破棄しました……!

ジ、ジウ嬢……!」


(……はぁ。甘くなっちゃうじゃん。)


志優はハンターを憎んでいるが、協会や公務員まで嫌っているわけではない。

父が公務員でもあったし、人のために働く者たちを尊重している。


何よりムン・ソンホは、昨日、命の危険を知りながらも志優を迎えに来た人間だ。


志優は小さく息を吐き、魔力を収めてから問うた。


――それでも、わざわざ「調べた」ことを明かした理由は分からない。

普通は他人を調べた事実など隠すものだ。

(私に脅されてまで……どういうつもり?)


その思考を読んだかのように、ムン・ソンホが静かに続ける。


ムン・ソンホ:「協会は変わりました。

すべてのハンターは覚醒時に義務として一か月の教育を受けます。

問題を起こすハンターは断固として懲戒し、刑務所へ送るよう改めました。

絶対に……二度と“ああいう”ことは起こしません。」


言い終えると、志優がさりげなく尋ねた。


ジウ:「私が出した条件……守れるよね?」


ムン・ソンホ:「はい! はい! もちろんです!」


研究員たちの間から、安堵の吐息が漏れる。

志優は静かに向き直り、魔力測定器へ手を置いた。


『 志優様の魔力測定が完了しました! 』

『 結果:測定不能 』


その文字が浮かぶや、背後の顔が一斉に強張った。


(測定不能……? いったい……)


誰かがそう呟き、ざわめきが広がる。

もちろん、ムン・ソンホもその一人だった。


ムン・ソンホ:「ジウ嬢、あなたは一体……」


当然の反応だ。

S級でもなく、S+級。

世界の“王”と呼ばれてもおかしくない力なのだから。


『 志優様のハンター名を入力してください。 』


「……無名。」


『 おめでとうございます! ハンター『無名』様が登録されました! 』


登録と同時に、メッセージ閲覧者全員へ通知が走る。


『 ハンター『無名』様がランカーに加入しました。 』

『 ランク国内一位:無名 ▲30 』

『 ワールドランク一位:無名 ▲300 』


“ランカー”とは、各国の最上位三十名が集う部屋。

ここにいるハンター同士は、リアルタイムでメッセージをやり取りできる。


一瞬で日本はおろか世界中の視線が集中し、

メディアは数日間は騒ぎ立てるに違いない。

志優は、あまり興味なさそうだったが――


「 ゴリアテ(15位):??? なんだこれ? 」

「 ゴリアテ(15位):み、みんな こ、これバグだろ?? 」


部屋の誰かが慌ててメッセージを飛ばす。

焦り過ぎて、誤字に気づいていないらしい。


「 虎(4位):うるさい、ゴリアテ。 」

「 ゴリアテ(15位):は? てめぇ、ケンカ売って―― 」

「 紅い鷹(7位):今回のS+ってやつか? 」

「 虎(4位):おそらくな。 」

「 ゴリアテ(15位):おい虎、無視すんなって!?」


反応はてんでばらばらだ。

志優は流れていく文字列を眺め、ふと思う。


(ハンターって……元からこんなにうるさかったっけ。)


やり取りを斜め読みしていると、ムン・ソンホが恐る恐る声をかけてきた。


ムン・ソンホ:「ジウ嬢、これから一か月、ハンター教育を受けていただくのですが……」


ジウ:「……それは無理。」


ムン・ソンホ:「え?」


ジウ:「うちの“お母さま”は、私がハンターだってこと、知らないから。」


ムン・ソンホ:「そ、それは……可能なんですか? どうやって――」


理由を問い詰めかけた彼は、すぐに言い直して丁寧に続けた。


ムン・ソンホ:「ですが、法律上は教育の履修が必要で……」


困り果てたその時、誰かが現れて口を開く。


???:「私が、その教育を請け負おう。」


ムン・ソンホ:「……銀獅子ハンター殿?」


(……銀獅子?)


志優は、その名を聞いたことがあった。

日本のS級ランカーの一人、“銀獅子”。

通り名の通り、銀の髪、猛々しい眼差し、大柄で鍛え上げられた体躯の男だ。


銀獅子:「この子がS+級ハンターか?」

ムン・ソンホ:「ど、どうしてこちらに……」


少し狼狽えつつ、ムン・ソンホが尋ねる。


銀獅子:「魔力が建物全体を覆っていた。何事かと思ってね。

まさか、あの小娘が原因とは思わなかったが。」


(……小娘?)


志優は内心むっとする。

なにそれ。こっちは立派な十八歳なんだけど。


銀獅子:「特別な子だ。教育は一か月、私が持とう。

もちろん合宿は不要、個別指導でいい。

その程度なら調整できるだろう、ムン・ソンホ君?」


ムン・ソンホ:「は、はい! その程度なら可能です!」


二人の会話を聞いていた志優が、ぶっきらぼうに言う。


ジウ:「オジサン、私、教育とか要らないんだけど?」


すると銀獅子は、志優の前で片膝をついた。

普通のハンターなら力に酔って尊大になるものだが、彼は礼儀正しく淡々としている。

妙な違和感を覚える志優に、銀獅子が告げる。


銀獅子:「そう言うわりに、魔力の“たたみ方”はまだ拙い。」


はっとして、志優は無意識に放っていた魔力を慌てて引っ込めた。


銀獅子:「嫌でも仕方ない。守るべき法だ。」


ジウ:「……分かった。」


力に酔わず、礼を尽くすハンター。

この人なら――仲良くしても、いいのかもしれない。

志優は自覚もないまま、そんな予感を覚えた。


こうして、志優のハンター教習が始まった。



【塔攻略状況】

国家:アメリカ合衆国(13階)

国家:日本(8階)

国家:韓国(6階)

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