【第28話】19階攻略(完)
意気揚々と出発した二人は、地下へと降りていった。
「おお……銀獅子、思ったより強いじゃん?」
銀獅子: 「これでもランキング二位だ。
お前が規格外なだけだ。」
「ふーん、じゃあこのペースなら今回の階層もすぐクリアだね。」
その時、ジウの視界にぼんやりと顔のようなものが浮かんだ。
「ひ、ひぃっ——!
ゆ、幽霊だぁぁぁ!」
突然の悲鳴に、銀獅子が振り返ったが何も見えない。
だがジウはすでに、建物ごと吹き飛ばす勢いでスキルを詠唱していた。
【 星の座が『おいおい、うちのジウ、建物ごと消す気か?』と呆れています。 】
銀獅子: 「何も——ちょ、待て!」
【 スキル:雷撃嵐 】
銀獅子: 「ジウ! 何もいない! 落ち着け!」
銀獅子がジウの手首を掴むと、彼女はもがいた。
「いたもん! 確かに見たんだって! 早くスキル——!」
《 五分後 》
銀獅子: 「はぁっ……はぁっ……もう落ち着いたか……。
お前がスキルを乱発したら、記録簿は二度と見つからんぞ……。」
ジウは銀獅子の胸の中でぷいとそっぽを向いた。
「ふ、ふんっ! 私がこんなことで取り乱すような女に見える?」
〈取り乱していた。〉
銀獅子: 「はぁ……。攻略法さえ分かれば好きにしていい。
それまでは我慢しろ。今は俺が手を出せない、モンスターはお前が倒せ。」
「しょうがないなぁ……。」
ギィィィ……。
古い旧校舎のせいか、一歩進むたびに木が悲鳴のような音を立てた。
時折、モンスターが飛び出したが——
ギャアアアッ!
【 スキル:ディモクレスの剣 】
銀獅子: 「……やれやれ、遠距離の敵まで一撃か。相変わらずだな。」
閃光が走り、モンスターの心臓を貫いた。
取るに足らぬ敵など、ジウのスキルの前では塵にすぎなかった。
こうして二人は、旧校舎の地下へとたどり着いた。
「お、おりるんだよね……?」
銀獅子はジウの頭を腕で包み込んだ。
銀獅子: 「ああ。」
予想に反し、地下には何も起こらなかった。
ただ、冷たい気配だけが漂っている。
やがて銀獅子が一枚の扉の前で足を止めた。
銀獅子: 「記録室……ここだな。」
チャン——
固く閉ざされた錠前が、銀獅子の手であっさりと切り落とされた。
彼は棚を漁り始め、ジウはその背後をとことこついて回った。
銀獅子: 「……少しは手伝え。」
「やだ、怖いもん。幽霊出たら私、建物ごと吹き飛ばすかもよ?」
銀獅子: 「まったく……記録が多すぎる。どこから見るか……。」
「生徒たちが1950年代を強調してたし、その辺りが怪しいね。」
ジウの言葉に、銀獅子が頷いた。
銀獅子: 「よし、1950年から順に見よう。」
静寂が長く続いた後、ジウがぽつりと口を開いた。
「“トイレの花子さん”って、意外と有名なんだって。」
銀獅子: 「そうか。そういう話には興味がないな。」
「私も友達から聞いただけだけど、
殺されたとか、事故死だとか、虐待で自殺したとか、いろんな説があるみたい。」
銀獅子: 「塔のシナリオが、常に現実の過去や未来を映すわけではない。
生徒たちといっても所詮はNPC。塔が意図的に錯乱させている可能性もある。」
「じゃあ、クリア条件は? 幽霊を倒せば終わり?」
銀獅子: 「……どうだろうな。とりあえず記録簿を見てみよう。」
ついに銀獅子が一冊を取り出した。
銀獅子: 「花子……あった。1953年度の生徒だ。」
開かれた生活記録簿には、簡単なメモが残されていた。
銀獅子: 「1953年……か。」
「どうしたの? 何かあったの?」
銀獅子: 「日本にとって悲しい年だ。戦後の混乱が残り、社会の統制が崩れていた。
二月には国宝が放火で焼失した事件もあった。」
「じゃあ……。」
銀獅子: 「“花子”という怪談は、そうした時代の闇が生んだ影なのかもしれない。」
「戦争孤児に食糧難……食べ物に執着して死んだとか?
なんか、ちょっと可哀想だね。」
銀獅子: 「そうかもしれん。だが“執着”が食べ物とは限らない。」
「じゃあ、どうやって死んだの?
時代背景の怪談なら、食べ物を供えればいいんじゃない?
……インベントリにリンゴが一個あるけど。」
あなたは、どうするかを決めた。
二人は旧校舎のトイレを順に見て回り、
その中でも特に、不気味な気配が漂う一つの個室を見つけた。
「じゃあ……やってみようか。」
選択肢
花子に食べ物を供える → 28-1話へ
花子の怨念を調べる → 28-2話へ




