【第27話】物理退魔 - 19階攻略(2)
ジウは先生に連れられ、教室へと移動した。
先生: 「はいはい、みんなー。授業の途中で悪いけど、転校生が来たぞ。
転校生、簡単に自己紹介してくれるかい?」
自己紹介……ああいうの、苦手なんだけど。
「こんにちは。ジウです。」
【 星の座が「もう少し誠意を見せろ」と言っています。 】
うるさいなぁ……私が自己紹介とか嫌いなの、知ってるでしょ……。
先生: 「ジウちゃんは少し恥ずかしがり屋みたいだね。ほら、あそこの空いてる席に座って。」
「はい。」
軽く答えて席に腰を下ろすと、ジウはさっさと授業が終わるのを待った。
隣の席には、小柄で一人が好きそうな静かな子が座っていた。
「よろしくね。」
短く挨拶すると、その子は驚いたようにコクリと頷いた。
学校という空間に懐かしさを感じたせいか、ジウは思ったより退屈せずに授業をやり過ごした。
やがて、終業のチャイムが鳴る。
するとクラスメイトたちが一斉に彼女を囲んだ。
生徒1: 「ねぇ、名前なんだっけ?」
生徒2: 「ジウだよ、バカ!」
生徒5: 「ジウ、どこから来たの?」
「東京。」
生徒7: 「おおっ、東京!?どんな所?」
生徒2: 「なんでこっちに?」
矢継ぎ早の質問に、ジウは少し戸惑った。
――え、学校ってこんなに賑やかだったっけ?
「なんとなく、かな。ところで、ここってどこ?」
生徒6: 「え? ここは神奈川県だよ?」
生徒1: 「えー、場所も知らずに転校してきたの? ぷっ。」
「……にしても、この学校、ずいぶん古いね。」
生徒1: 「ああ、1950年代に建てられたんだって。だから結構ボロいんだ。」
生徒4: 「でも旧校舎よりマシだよ。あそこは……昼間でも怖いんだから。」
「なんで? トイレの花子さんのせい?」
生徒1: 「えっ、知ってるの?!」
「来る途中で、他の子たちが話してるのを聞いたの。」
生徒1: 「実はさ、この学校が“トイレの花子さん”の発祥らしいんだ。」
生徒4: 「まさか、それは盛りすぎでしょ。」
生徒3: 「そうそう、そんな噂いくらでもあるじゃん。」
否定されて、生徒1はむきになった。
生徒1: 「本当だって! 1950年代に建てられたでしょ?
神奈川発祥説ってのがあるんだよ!」
「じゃあ、倒す方法は?」
生徒1: 「うーん……それは知らないけど……。」
生徒3: 「はぁ? そんな詳しそうに語っといて、それ知らないの?」
生徒5: 「やっぱウソなんじゃない?」
生徒1: 「違うもん! 伝わるうちに形が変わっただけ!
でも、生徒記録簿に何か残ってるかも!」
生徒2: 「1950年代の記録とか残ってるの?」
生徒1: 「うん、旧校舎の地下にあるって先生が言ってた。」
生徒2: 「ひぃ……旧校舎の地下とか絶対行きたくない……。」
みんなが同時に首をすくめた。
だがジウは思った。
……なるほど。
つまり“攻略法は自分で探せ”ってことね。
でも怖いから、これは銀獅子にお願いしよ。
そして――横の席を見た。
「ねぇ。」
隣の子がびくっとして顔を上げた。
ジウはニヤリと笑った。
「あなた、花子でしょ?」
「マナが漏れてるよ。これ、気づかないフリできないな。」
クラス全員が凍りついた。
正体を見破られた花子は、口の端を裂くように持ち上げ、耳が痛くなるほど笑い出した。
「ハハハハハハハ――!」
悲鳴と共に、生徒たちは慌てて耳を塞ぐ。
【 警報! この学校にダンジョンが生成されます! 】
瞬く間に、校舎全体がダンジョンへと変わった。
生徒4: 「な、なに!? あの子が花子だったの!?」
生徒1: 「ひぃっ、いやぁぁ!」
生徒3: 「助けてぇぇ!」
【 スキル:抜刀 】
ザシュッ――。
モンスターなど、ジウの一太刀の前では紙切れ同然だった。
生徒1: 「ジ、ジウ……ハンターだったの!?」
生徒3: 「す、すご……!」
生徒2: 「じゃあ、花子を倒しに来たの?」
生徒5: 「かっこいい……!」
……うっかり花子退治のハンターになっちゃったじゃん。
そこへ、銀獅子がドアを蹴破って入ってきた。
銀獅子: 「ジウ! 攻略法が――」
辺り一面のモンスターの残骸と、けろっとした顔のジウを見て、
彼は肩を落とした。
銀獅子: 「――見つかった……ようだな。」
「お、ちょうどいいとこ来たね、銀獅子。
あの旧校舎の地下に花子の生活記録簿があるらしいよ。」
銀獅子: 「なるほど。そこに攻略の鍵があるな。行こう。」
「うー……でも怖いんだよね。
それにこの子たちも守らなきゃだし……ひとりで行ってくれない?」
銀獅子: 「時間がない。急いで次の階層に進むぞ。
俺の後ろにいろ、ジウ。」
ちぇっ……。
ジウはそっと銀獅子の背中にくっついた。
そういえば、子供の頃は幽霊が怖くて仕方なかったけど――
花子を一撃で倒した今となっては、少しだけ安心できた。
生徒1: 「も、モンスター出たら……どうすれば……?」
振り向いたジウは笑って言った。
「大丈夫。この人が全部倒してくれるから。」
指差された銀獅子は、心の中で嘆いた。
(……やっぱり、変な性格だな。)
旧校舎へ向かう途中、銀獅子が口を開いた。
銀獅子: 「それにしても、ここって結局は幽霊じゃなくてモンスターだな。
“幽霊じゃなくて敵”だと思えば、怖くないんじゃないか?」
「そんな考えで怖さが消えるなら、誰も苦労しないっての。」
少し間を置いて、ジウはぼそっと言った。
「でも、よく考えたら……私、退魔できるんだよね。」
銀獅子が驚いて振り向いた。
【 星の座が「俺、そんなスキルあげた覚えないけど?」と訊いています。 】
「それはね……」
ちょうどその時、ゾンビ型のモンスターが飛び出してきた。
血に染まった制服をまとい、ジウに襲いかかる――。
【 スキル:強パンチ 】
ドガァン――!
「物理退魔。」
銀獅子: 「……パンチから爆発音が……。
それ、退魔じゃなくてただの攻撃だろう。」
【 星の座が「ジウ、‘退魔’の意味、分かってる?」と訊いています。 】
「結果的に消えたんだから、退魔でしょ!
ほらほら、銀獅子――出発!」
【塔攻略状況】
国家:アメリカ合衆国(27階)
国家:日本(18階)
国家:韓国(13階)




