【第23話】18階攻略(4)
銀獅子: 「……ジウ。」
心配そうに近づいてくる銀獅子を見て、
ジウは本能的に手を伸ばした。
空気が裂け、魔力が爆ぜた。
銀獅子は腕で衝撃を受け止めたが、
切り裂かれた袖口から血が滲んだ。
銀獅子: 「くっ……!」
「嘘じゃない。
一歩でも動いたら……全員、殺す。」
その言葉を聞いたジヒョクは、
まるで別人のように変わり果てた娘の姿に息を呑んだ。
だが次の瞬間、
彼はそっとジウの背後から抱きしめた。
ジヒョク: 「ジウ、久しぶりに会って……喧嘩か?」
「お父さん……私、どうすればいいの……
正しいことが、もう分からない。
いっそ……あの人たちを全部消してしまえば、
二人でずっとここにいられるんじゃないかなって……」
誰もが一度は心の奥で呟く、危うい願い。
だが、ジヒョクだけはそれを許せなかった。
ジヒョク: 「ジウ!」
久しぶりに響く、その叱責の声。
ただ一言で、ジウの魔力が揺らいだ。
しばしの静寂。
周囲を圧していた重圧が、雪のように消えた。
ジヒョク: 「何を言ってるんだ、殺すだなんて!
なぜ怪物になろうとするんだ、ジウ!
そんなことをしても……父さんの死は無意味になるだけだ!」
「あ……お父さん、私は……
ただ……」
魂を抜かれたように、ジウは俯いた。
ジヒョク: 「人を……殺したことがあるのか?」
「……お父さんを殺したハンター以外には……いない。」
ジヒョクは静かに息を吐いた。
ジヒョク: 「それでいい。
それだけで、いいんだ。
あの人たちと話してこい。
父さんはここで待ってる。」
「でも……」
【 スキル:圧倒 解除 】
空気が緩み、ハンターたちの体が自由になった。
銀獅子はすぐに状況を理解し、
周囲に静かに告げた。
銀獅子: 「悪いが……このシナリオは、私とあの子だけで十分だ。
皆は中央のシェルターで待機していてくれ。」
不満を漏らす者もいたが、
誰一人、銀獅子の言葉には逆らわなかった。
一人、また一人と、静かにその場を離れていく。
やがて静まり返った空間。
銀獅子はそっとジウに近づいた。
ジウは目を閉じた。
叱られる覚悟をした。
――いや、一発ぐらいは殴られると思っていた。
だが彼は、代わりにジウを抱きしめた。
銀獅子: 「……すまない。
本当に、すまない。」
何がそんなに悲しいのか、ジウには分からなかった。
銀獅子: 「このシナリオ……どうやら、私とお前が関わっているらしい。
キーワードが“愛”だなんてな。
お前が入った瞬間、内容が変わったんだろう。」
「それって……まさか……」
ジウの瞳が大きく見開かれた。
「ボスルームの座標が……」
銀獅子は静かに頷いた。
「……はぁ。」
そして彼は、ジヒョクに向かって深く頭を下げた。
銀獅子: 「お久しぶりです……ジウさんのお父上。」
ジヒョク: 「私がいなくなってから……ジウを見てくださってたんですね。
ありがとうございます。うちの娘を守ってくれて。」
銀獅子は首を横に振った。
銀獅子: 「いえ。
むしろ、彼女に救われたのは私の方です。
ジウがいなければ、私はここにいなかったでしょう。」
「何よ、それ。
私がしたことなんて、何もないじゃない。」
銀獅子: 「シナリオをクリアすれば分かる。
隠し続けてきたことも、もう隠せそうにない。
……それに、そろそろ本当の別れの時間だ。」
短い時間だった。
けれど、終わりは必ず来る。
ジウはゆっくりと父の元へ歩み寄った。
声は震えていたが、目だけはまっすぐだった。
「お父さん……私のこと、憎くないの?
私のせいで、あんなことに……」
ジヒョク: 「当たり前だろう。
お前は何も悪くない。
もう……今日から抜け出すんだ。」
それは、ジウが自分の過去から
ようやく解放されることを意味していた。
ジヒョク: 「最後なのに、笑顔も見せてくれないのか?」
ジウは涙の中で、微笑んだ。
「お父さん……大好き。」
ジヒョク: 「俺もだ。
立派に育ってくれて……ありがとう。」
「じゃあ……」
ジウはゆっくり顔を上げ、
静かに宣言した。
「――今から、あなたはこのシナリオをクリアするためのNPCです。
娘を救い、そして……この物語を終わらせてください。」
言葉が終わると、空気が揺らめき、
光が静かに降り注いだ。
ジウは最後まで笑っていた。
まるでこう言っているように――
“心配しないで、お父さん。
あなたの娘は、ちゃんと生きてるから。”
『通知:18階シナリオの終幕が始まります。』
『参加ハンター:〈名無し〉、〈銀獅子〉』
【塔攻略状況】
国家:アメリカ合衆国(27階)
国家:日本(17階)
国家:韓国(13階)




