【第21話】18階攻略(2)
七年。
短いようで、長いようで――
けれど、決して軽くはない時間だった。
ハンターという存在への偏見を壊してくれた人。
ただ強いだけじゃなく、力に溺れることなく、
いつも一番危険な最前線に立っていた人。
――父の次に、頼もしかった人。
七年間、本気で自分を支えてくれた人。
自分以上に、自分のことを理解してくれていた人。
「……そんな人を、見た目が少し変わったくらいで見間違えるわけないでしょ。」
『通知:銀獅子さんが〈シナリオの呪い〉から解放されました!』
『通知:ボス戦まで残るハンター数 1/3』
「やった~、銀獅子の子供モード可愛かったのに~。」
銀獅子: 「……うるさい。恥ずかしい姿を見せたな。」
ダビデ: 「ぎ、銀獅子!? あの子供が銀獅子だったって!?」
紅の鷹: 「信じられません……どうやって気づいたんです?」
「基本でしょ。」
まるで大したことないというように、ジウは肩をすくめた。
銀獅子は微笑みながら、ジウの頭に手を置いた。
銀獅子: 「ありがとう、ジウ。……またお前に助けられたな。」
「……お父さんの命日前には帰るって言ってたのに。
来ないと思ったから、私が迎えに来ただけ。」
その言葉に、銀獅子は一瞬目を伏せ――そして、静かに微笑んだ。
紅の鷹: 「それにしても……まだ二人残ってますね。
全員を元に戻さなくても、ボス戦って始まるんでしょうか?」
ゴリアテ: 「状況的に、その可能性が高いな。まあ、助かった。」
ダビデ: 「でも一年も探して誰も見つけられなかったのに……あと二人なんて、簡単じゃないだろ。」
その時――
ジウの頭の中に、朝の光景がよぎった。
彼女が渡したネックレスをつけていた、あの女性。
「……まさか、あの人がデウス……?」
「皆。たぶん分かった。デウスを見たの、来る途中で。」
ダビデ: 「本当か!? じゃあすぐ戻してやろう! あと一人だな!」
銀獅子: 「デウス……? いつから知り合いなんだ。」
「あ、えっと……なんか、流れで……ははは……」
ジウは銀獅子の視線を避け、苦笑いでごまかした。
「とにかく、デウスは私が連れ戻す。そっちは残り一人お願い。」
銀獅子: 「分かった。ギルドの連中なら、大体見覚えがある。」
「はいはい~。」
軽く返事をして、ジウはネックレスの座標へ向かった。
その背を見送りながら、三人のハンターはぼそりとつぶやく。
ダビデ: 「……正直、あの二人だけで攻略したほうが早くね?」
紅の鷹: 「同感です。」
ゴリアテ: 「……(うなずく)」
ネックレスの反応が示したのは、東京の漫画会社。
朝に見かけた女性は、上司に怒鳴られていた。
(デウス……ここでも怒られてるのね……)
ジウはためらいなく近づき、彼女の腕を掴んだ。
驚いた彼女が、眉をひそめて叫ぶ。
???: 「な、何ですかあなた! 朝のあの変な人!?」
「はぁ……」
「もういいでしょ。――戻りなさい、“デウス”。」
『通知:デウスさんが〈シナリオの呪い〉から解放されました!』
『通知:ボス戦まで残るハンター数 2/3』
デウス: 「……え?」
「アンタ! 塔の攻略に参加するなって言ったよね!?」
デウス: 「さっきまで課長に怒られてたのに……
今度はジウさんにも怒られるんですね、はは……。
あの、その……この前お会いしたあと、家に帰る途中でコンビニ寄ったんですよ。
そしたらギルドがカード履歴を追ってたみたいで……呼ばれたら、そこがもう“攻略現場”で。」
「次からは絶対断ります!
守ってくださるって言ってたのに、逆にご迷惑を……本当にすみません!」
深々と頭を下げるデウスに、ジウは一瞬だけ言葉を失った。
「……そういう言い方ずるいんだよ。
そんな風に言われたら、私が悪者みたいじゃん。」
「ま、無事で良かったけど。怪我もないしね。」
デウス: 「あ、ありがとうございます!」
「でも、外の時間ではまだ五日しか経ってないよ。」
デウス: 「え、五日!? 俺、ここで一年くらい過ごした気がしますけど!?」
「まあ、そういうこともあるか。
……でもおかしいな。五日も反応なかったのに、なんで今になって?」
デウス: 「あ、出勤前に車に轢かれそうになりまして、はは。
あの時、本当に“死ぬ!”って思ったんです。たぶんそのせいかと。」
「ふぅん……なるほどね。」
「とりあえず、下に合流しよ。」
二人は階段を降りながら話を続けた。
その時、また新たな通知が響く。
『通知:エダンさんが〈シナリオの呪い〉から解放されました!』
『通知:ボス戦まで残るハンター数 3/3』
「お~、さすが銀獅子。やっぱ勘だけは神レベル。」
『通知:ボスルームの条件がすべて満たされました!』
『通知:呪われた全てのハンターが本来の姿を取り戻します。』
『ボスルーム座標:北緯35°39′32″/東経139°42′6″』
「なんだ、すぐ近くじゃん。」
「デウス、あんたは中央へ行って。みんなと合流。
ほら、マップに出てるでしょ?」
デウス: 「じゃあ、ジウさんは?」
「人に説明すんの、疲れるじゃん。
私はこっそり潜り込む。
また同じ話するの面倒だし。」
デウス: 「あっ、はい! 分かりました! 後で合流しますね!」
ジウは手を振りながら笑った。
デウスが去り、静寂が戻る。
「……しかし、ほんとに現実そっくりに作ってあるな。」
そして――
その瞬間、視界に映った“彼”を見て、ジウの動きが止まった。
ここにいるはずのない人。
――いや、“存在してはいけない人”。
そこに立っていたのは、ジウの父だった。
「……お父さん……?」
【塔攻略状況】
国家:アメリカ合衆国(27階)
国家:日本(17階)
国家:韓国(13階)




