【第20話】18階攻略(1)
数日前――
各国のギルドと協会が集まって行われた緊急会議の末、
ついに〈塔〉18階の攻略日が決まった。
銀獅子のギルドも、当然その対象に含まれていた。
出撃の前日、彼はジウのもとを訪れた。
「……塔の攻略に行くの?」
銀獅子: 「ああ。出発前に、顔ぐらい見ておこうと思ってな。」
「ふーん、別に死にに行くわけでもないでしょ。」
口調はいつも通りだったが、
彼女の両手は背中でぎゅっと握られ、落ち着かずに震えていた。
銀獅子: 「お前の父上の命日前には帰るさ。」
その言葉に、ジウは視線をそらした。
その日は、ちょうど命日の一週間前だった。
「……死なないでね。本当に危なくなったら、逃げて。」
銀獅子: 「ああ。」
「口ではそう言って、どうせまた一人で全部やるんでしょ。」
「いいよ、早く行って早く帰ってきて。」
最後の一言は、いつもよりずっと静かだった。
〈塔〉の中では、時間の流れが外より遅い。
各階層は「シナリオ」と呼ばれる構造になっており、
そのシナリオをすべてクリアしなければ次の階に進めない。
――つまり、何が起こるかは誰にも分からない。
だからこそ、ギルド代表クラスの幹部たちは
基本的に攻略に参加しない。
……もちろん、銀獅子のような例外もいる。
「ライオンだのなんだの」と呼ばれながら、
いつも危険な任務ばかり請け負う男。
そして、攻略が始まって五日目。
未だに、何の報せもなかった。
「もう五日? なんでクリアの情報が出ないの……」
「……ま、勝手に帰ってくるでしょ。」
そう言い聞かせるように呟いたそのとき――
首にかけていたネックレスが、淡く光を放った。
『警告! 着用者〈デウス〉から危険信号を受信しました。』
ジウは勢いよく立ち上がった。
まさか……あのバカ、ギルドの攻略に参加した!?
座標を確認した瞬間、表情が険しく歪む。
場所は――〈塔〉だった。
「デウス……参加するなって言ったでしょ!!」
そのまま外へ飛び出した。
――星さま、中途入場の権限、もらえる?
【 星の星位が「うちのジウのお願いなら、なんでも叶えてあげる」と言い、少し待てと告げます。 】
『星の星位より〈塔・18階 中途入場権〉を獲得しました。』
「ありがと、星さま。」
【 星の星位が「大したことじゃない」と肩をすくめます。 】
「……よし、到着。
デウス、覚悟しときなさいよ。」
「警告! 現在18階攻略中です。中途入場しますか?」
「入る。」
〈シナリオ〉――
〈塔〉を攻略するために必ずクリアしなければならない課題。
漫画のように単純なものもあれば、童話のように美しいもの、
あるいは推理小説のように複雑なものもある。
「通知:18階シナリオへ入場します。
今回のキーワードは〈愛〉です。」
目を開けると、そこは東京の中心街。
現実と寸分違わぬ街並み――だが、ここは〈塔〉の内部だった。
「キーワードが“愛”ね。……まあ、簡単そう。
私はデウスを見つければいいだけ。」
ネックレスの反応を追う途中、見覚えのあるものが目に入る。
――彼女がデウスに渡したはずのネックレス。
だが、それを首にかけていたのは見知らぬ女だった。
「……え? あんた、それどこで手に入れたの?」
ジウは女の襟元を掴んだ。
???: 「な、何なんですかあなた! 忙しいんです、どいてください!」
女は慌ててジウを振り払い、そのまま駆け去った。
人々は言う。
〈塔〉の中にいる存在は、すべてモンスターだと。
「じゃあ殺せばいい」と、軽々しく。
だが――
実際にシナリオを体験した者たちは、口を揃える。
「あそこには、人がいる。」
「本物か偽物かは分からない。でも、確かに“人”なんだ。」
ジウも、それをよく知っていた。
だからこそ、簡単には攻撃できなかった。
「……一体、どうなってるのよ。」
とりあえず中央シェルターへ向かう。
他のハンターがいるかもしれない。
〈中央シェルター〉
攻略の途中でハンターたちが休息を取る、唯一の安全地帯。
モンスターすら近づけない場所。
「ふん、塔にも一応の良心はあるんだ。」
遠くに見える小さな拠点。
そこには三人のハンターがいた。
ゴリアテ: 「ん? 誰か来るぞ。」
ダビデ: 「NPCだろ、放っとけ。」
紅の鷹: 「待って、魔力を感じる。……ハンターよ。」
三人が同時に身構える。
「ねえ、状況どうなってるの。」
ダビデ: 「あんた、誰だ。」
「抜刀帝。」
ゴリアテ: 「なっ!? アビス・ゲートの“抜刀帝”!?」
空気が一瞬にして凍りついた。
紅の鷹: 「抜刀帝でも、この塔の途中に入れるはずが……」
「中途入場権、持ってるから。」
腕に浮かぶ紋章を見せると、ようやく警戒が解けた。
「で、状況は。」
紅の鷹: 「今回のシナリオのキーワードは〈愛〉。
入場したハンターたちは、“探す者”と“変わった者”に分けられて、
都市中に散っています。
今はそれぞれの手がかりを持ち寄って、情報を共有しているところです。」
「その“手がかり”って?」
紅の鷹: 「“変わった者”は皆、“守りたいもの”や“大切な存在”を持つ人たちだそうです。
詳しくは分かりませんが……見た目が全く変わってしまった彼らを、
見つけ出すことが目的みたいで。」
ダビデ: 「でも、誰が誰だか分からないほど変わっててな……」
「……制限時間は?」
紅の鷹: 「私は一ヶ月。」
ゴリアテ: 「俺は九ヶ月。」
ダビデ: 「俺は一年以上だ。もう数えてない。」
「……“見つけ出せばいい”ってことね?」
紅の鷹: 「それ以降のことは、俺たちも――」
「いいわ。やってみる。」
ジウは立ち上がると、迷いなく歩き出した。
そして、一人の少年の前で足を止める。
その瞳をまっすぐに見つめ、囁いた。
「やっぱりね、どこにいても目立つんだから。
もう戻ってきなさい――マタギの獅子。
私の、愛しい執事さん。」
【塔攻略状況】
国家:アメリカ合衆国(27階)
国家:日本(17階)
国家:韓国(13階)




