【第2話】ハンター協会
【おめでとうございます! 国家:日本のチョン・ジウ様が S+級覚醒者 になりました!】
……はぁっ!?
生まれて初めて見る「S+」の文字!
メッセージを確認した人々は本能的に悟った。
――これは歴史に残る一文だ、と。
各国のハンター、国家機関、メディア。
世界中のすべてが一斉にS+級ハンターへ視線を向けた。
しかし――
ムン・ソンホ:「ジウ嬢!」
日本ハンター協会の本部長、ムン・ソンホが慌ててジウを呼んだ。
彼は四十代にして協会本部長の座に就いた、自尊心の強い男だ。
チョン・ジウ:「なに、オジサン」
ムン・ソンホ:「なに、じゃありません! 今日はセンターに行く日でしょう!」
チョン・ジウ:「めんどくさい。それに塾も行かなきゃ。」
……どうしてこうなったんだ?
「日本にS級どころかS+級だと……!」
世界を見渡しても、S級より上の等級など一度も存在しなかった。
誰もがS級を頂点と信じていたし、実際そうだった。
――少なくともチョン・ジウが現れるまでは。
「ついに日本も10階以上を攻略できるかもな!」
日本は現在、かろうじて6階までしか攻略できていなかった。
塔を登れば登るほど戦利品は価値を増し、
攻略状況はそのまま国の威信に直結する。
だが日本にはS級がたった二人しかいない。
7階への挑戦中には、そのS級ですら倒れたことがあった。
その時、ひとつの抜け道が発見された。
『30日以内に塔を攻略しなければペナルティが発生します。』
――この文章にはどこにも「成功しなければ」という条件がなかった。
ただ塔に入場するだけで、30日間の猶予が得られたのだ。
日本はそのルールを利用し、ひたすら耐える戦略を取ってきた。
海外のハンターを招いて攻略を続けようともした。
そんな中、S+級ハンター チョン・ジウが現れたのだ。
日本全体が歓喜し、ムン・ソンホも胸を高鳴らせた。
彼は喜びを隠せぬまま、すぐさまジウの家へ駆けつけた。
だが喜びも束の間――
チョン・ジウ:「オジサン、なに?」
ムン・ソンホ:「あ、あの……こちらにチョン・ジウさんはいらっしゃいますか?」
チョン・ジウ:「それ私。」
ムン・ソンホ:「……え?」
チョン・ジウ:「チョン・ジウが私だってば。」
――この子がS+級……?
呆然と立ち尽くすムン・ソンホをよそに、
ジウは契約した星位を通じて彼の正体を読み取り、
冷ややかに口を開いた。
チョン・ジウ:「協会?」
ムン・ソンホ:「は、はいっ! そうです! 協会からジウさんの覚醒をお祝いに……!」
――スゥッ。
ジウの表情が一瞬で冷え切った。
「ひっ……!」
圧倒的な威圧感に、ムン・ソンホの体が小さく震えた。
チョン・ジウ:「失せろ。」
ムン・ソンホ:「……え?」
チョン・ジウ:「生かしてやってるうちに、消えろ。」
ムン・ソンホ:「ジ、ジウさ――」
バタン――!
冷たく扉が閉ざされた。
ムン・ソンホ:「……じ、ジウ嬢……」
実は、ジウはハンターを憎んでいた。
「嫌い」では表せないほど、心の奥底から。
平凡な日常を送っていたあの日。
突然現れた塔とハンターたち。
彼らは誰もが羨望と憧れの対象だった。
ジウも例外ではなく、かつては彼らに憧れていた。
――ハンターの本性を知るまでは。
チョン・ジウ:「あ……パパ……」
チョン・ジェヒョン:「こ、こっちに来るな!」
チョン・ジェヒョン:「ジウ、パパとよくやったかくれんぼ覚えてるだろ?」
チョン・ジェヒョン:「隠れて、絶対に出てくるな……!」
いつも強かった父が、見知らぬ男に首を掴まれ宙に吊られていた。
生まれて初めて見る、凄惨な光景。
ジウは恐怖で体が凍りつき、動けなかった。
その時――
チョン・ジェヒョン:「早く――!」
本能か、それとも父の怒声だったのか。
ジウは涙をこぼしながら、狭い隙間へ身を隠した。
???:「ククッ、何言ってんだこのオッサン。」
???:「あんな所に隠れたって、あのガキを殺せないとでも?」
仲間のひとりが不安げに声を上げた。
??:「人を殺すなんて聞いてないぞ……! オレは刑務所なんか行きたくない!」
すると、父を掴んでいた男が嘲るように言った。
???:「お前、新入りだから知らねぇんだな。」
???:「たいていのことは協会が揉み消してくれるんだよ。」
『協会……?』
息を潜めていたジウは息を呑んだ。
???:「ハンターは足りねぇんだ。俺たちみたいなD級を協会が捨てるわけないだろ。」
??:「……そうか。」
『ハンター……』
その瞬間――
「ぐっ……!」
父の苦痛の声が響く。
ジウは恐怖で耳を塞ぎ、目を固く閉じた。
だが、その光景は鮮明に脳裏へ刻まれていく。
――普通の人間なら、幼い頃の記憶は曖昧になるものだ。
ほとんどは当時の感情だけがぼんやり残り、
誰と何をしたか、なぜ起きたのかは薄れていく。
だがジウは違った。
あの日の光景は、一瞬たりとも彼女の脳裏を離れなかった。
強いと信じていた父が崩れ落ちる姿。
その背を置いて逃げた自分の姿。
数年が経った今も――
一分一秒の情景まで鮮やかに蘇る。
そして、15歳のある夜――
「私と契約しないか?」
頭の中に響く、知らない声。
「私はこの世界の星位にして、すべての星位を統べる者。ずっとお前を見てきた。」
ハンターの力は、星位との契約から始まる。
その契約こそが力の源であり、星位の権能がハンターの力となる。
ジウは低く呟いた。
「……あなたは何をしてくれるの?」
「復讐だ。」
その一言に、ジウの心臓が激しく跳ねた。
「お前の仇を討ち、余りある力を授けよう。」
ジウの瞳が鋭く光った。
「やる。
復讐も、契約も……全部やってやる。」
『星の星位が、あなたに契約を申し込みます。』
「受け入れる。」
その瞬間、ジウは覚醒した。
――ハンターとしての覚醒は、本来なら身体が耐えられるときに起こるものだ。
だが今は……力こそがすべてだった。
その瞬間、ジウの胸を満たしたのは言葉にできない高揚感。
まるで生まれつきの能力かのように、
本能的にスキルを使えるようになっていた。
「……ありがとう。」
呟くや否や、ジウは即座にスキルを発動した。
【スキル:感知を使用しました】
【座標発見:41°24'12.2"N 2°10'26.5"E】
【スキル:召喚を使用しました】
ジウは翼を持つドラゴンを召喚し、
過去の犯人たちがいる場所へ飛び立った。
S級ハンターですら緊張するほどの圧倒的な力だった。
『こんにちは。あなたの名前は……アーシャ。』
ドラゴンは咆哮し、空へ舞い上がった。
???:「ひっ……!」
遠くから歩いてくるジウを見た男たちは、
本能的に呼吸が止まるような威圧感を覚えた。
??:「に、逃げろ……!」
だが逃げる暇すらなかった。
ジウにとって、狩りは呼吸と同じくらい簡単だった。
???:「た、助けてくれ! 金ならやる! 全部やる!」
かつては巨大に見えた男たちが、
今はあまりにも小さく見えた。
チョン・ジウ:「チョン・ジェヒョン。知ってる?」
???:「だ、誰……?」
チョン・ジウ:「知るわけないよね。お前らに話す時間すら惜しい。」
ジウの魔力に押し潰された二人は、もはや抵抗すらできなかった。
普通のハンターなら、人を圧倒する魔力には限界がある。
だがジウのそれは次元が違った。
……長年望んだ復讐を果たしたというのに、
ジウの胸を満たしたのは虚しさだった。
その時――
ムン・ソンホ:「ジ、ジウ嬢……?」
扉の外から聞こえた震える声。
ジウはゆっくりと魔力を収めた。
そして無表情のまま家の中へ戻った。
【うちの子、あの人始末してやろうか?】
星位がジウに話しかけた。
『いい。ノベルピア読むんだから。』
【昔は丁寧で可愛かったのに……】
星位が呟く。
『大人しい子だと思ってたのに……どうしてこうなったんだか。』
初めて出会った時と180度変わった星位を背に、
ジウは声を整えた。
「ふんっ。」
ジウは咳払いをして家のドアを開けた。
「お母さ〜ん、ただいま〜」
ジウの母は、娘がS+級覚醒者だとは知らない。
あの日の記憶のせいで、ハンターを嫌悪している一人だからだ。
ジウもまた、復讐と覚醒を隠し、
星位に頼んでメッセージを表示させないようにしていた。
「ジウ、試験の結果出たんでしょ?」
――世界で唯一ジウを震え上がらせる母の一言。
「……あ……」
「まだ出てない。出たら教えるよ。」
ジウは慌ててごまかし、自分の部屋へ向かった。
「今回の成績、悪かったら分かってるわよね?」
ひぃっ――!
ジウはその場で固まり、全身が総毛立った。
「も、もちろん。お母さんを失望させたことなんてないでしょ……」
蚊の鳴くような声で答えながら、ドアの外から顔をちょこんと出した。
――翌朝。
ムン・ソンホ:「あの……」
登校中のジウの前に、緊張した顔のムン・ソンホが現れた。
「はぁ……なに。」
ジウがぶっきらぼうに答える。
ムン・ソンホ:「ジ、ジウ嬢……」
ムン・ソンホ:「一度だけ、協会に一緒に来てもらえませんか……?」
彼は震える声を必死に整え、やっとの思いで頼み込んだ。
チョン・ジウ:「オジサン、私ハンター大嫌い。」
チョン・ジウ:「ハンターなんてやりたくもないし、興味もない。」
冷たく言い放つジウ。
ムン・ソンホ:「そ、それでも一度だけ……!」
しつこく食い下がるムン・ソンホを見て、
ジウは「これ、ずっと面倒くさくなりそう」だと考えた。
結局、一度協会に行ってはっきり釘を刺すことに決める。
チョン・ジウ:「はぁ……いつ行けばいいの?」
【塔攻略状況】
国家:アメリカ合衆国(13階)
国家:日本(8階)
国家:韓国(6階)




