【第17話】復讐よりも救いを
キー バ: 「さぁ――このキー バ様を語るなら――」
「ペラペラペラペラ……ほんと悪役って毎回同じセリフしかしゃべらないよね。
悪党の自己紹介、スキップしていい? めんどいし、早く始めよ。」
余裕たっぷりの挑発に、一瞬言葉を失ったキー バの顔が怒りに染まる。
キー バ: 「ククッ……いいだろ。ここで死ぬ女に挨拶なんて必要ないさ。始めようか!」
言葉が終わると同時に、彼の剣が稲妻のようにジウへと閃いた。
刃先が彼女の首筋に触れようとした瞬間――
◈ ◈ ◈
銀獅子: 「ふむ……」
秘書: 「代表、最近また肩を気にされてますね。」
銀獅子: 「この傷……もう一年になる。魔力を使わずに戦っただけで、これだ。」
秘書: 「なっ……! 代表にそんな傷を!? 規律違反です。直ちに――」
銀獅子: 「いい。」
秘書: 「……え?」
銀獅子: 「一人だけ、規律を破っても構わない相手がいる。」
秘書: 「誰のことを――」
銀獅子: 「世の中に無関心で、気まぐれな“王”。
もしかすると、今もこの世界に顔を出しているかもしれんな。」
◈ ◈ ◈
チィン――!
キー バの剣が粉々に砕け、床を転がった。
彼は信じられないという顔でつぶやく。
キー バ: 「な、何が起きた……?」
「なんで? 私が剣を使うから、“剣士”の特性だと思った?」
キー バ: 「な……なんだ貴様はッ!」
「威勢はどうしたの? さっきまで偉そうにしてたじゃん。」
キー バ: 「ぐっ……!」
彼は慌てて短剣を抜き、滅茶苦茶に突き立てた。
だが、届かないと本能で分かっていた。
ジウは滑らかに身体をひねり、刃先を弾き、手首を掴む。
次の瞬間、肘が彼の顔面を撃ち抜き、巨体が壁に叩きつけられた。
「他に手札ないなら、さっさと終わらせよ。
バレたら、うちの“パクお母様”に殺されるし。」
キー バ: 「ひ、ひぃっ――!」
闘志を失った彼は、壁際まで這い下がった。
そのとき――ジウの視線に映ったのは、小さく倒れている少女の姿だった。
「……ダリャ。」
ひと目で分かった。
常人の比ではない魔力、ヘヤと同じ気配、そして赤い髪。
駆け寄った時には、もう息がなかった。
キー バが魔法陣を強制発動させ、彼女の魔力を絞り取った痕跡だけが残っていた。
「……ごめんね、ダリャ。もう少し早ければ。」
その瞬間、キー バが叫びながら突っ込んできた。
キー バ: 「そのガキ……お前の家族か! 死ねぇぇぇッ!」
顔面が空中で止まる。
ジウの掌が顎を掴み、ゆっくりと力を込めた。
骨の砕ける音が響く。
キー バ: 「ぐあああああああっ!」
次の瞬間、彼の頭は床に叩きつけられ、衝撃波が広がった。
魔法陣が蜘蛛の巣のようにひび割れ、砕け散る。
誇りだった〈魔力封鎖〉も、今はただのガラクタだ。
キー バ: 「た、助けてくれ! 金ならいくらでも――!」
「ほんとさぁ、悪役ってどうしてセリフがテンプレなんだろ。」
彼女は彼の口を押さえた。
「命は助けてあげるよ。……二十四時間だけね。
その間に、外の部下全員引き連れて自首しな。」
「二十四時間過ぎても誰も出てこなかったら――
“生きてること”を後悔させてあげる。」
キー バ: (な、なんだこの圧……!)
彼は必死に頷き、そのまま気絶した。
ジウはダリャを抱き上げ、静かに囁いた。
「ダリャ……お姉ちゃんのところに、帰ろっか。」
外。
解放された子どもたちは、警戒しながらも次第に安堵の表情を見せた。
「無事でよかった。」
ジウはヘヤの元へ歩み寄る。
少女は呆然と、ジウの腕に抱かれた妹を見つめていた。
「着いた時には……もう。」
まるで子供のように、言い訳するような声で。
ヘヤは悲しげに、それでも微笑んだ。
ホン・ヘヤ: 「助けてくださって……ありがとうございます。本当に……」
ジウはダリャを木陰にそっと寝かせた。
ヘヤが妹を抱きしめると、堰を切ったように涙が溢れた。
ホン・ヘヤ: 「ひっく……うわあああん……!」
ジウは黙って見つめていた。
風が吹き抜け、森の匂いが静かに流れる。
少しして、ヘヤは顔を上げた。
子供たちに、ジウは悪人じゃないと伝え、皆が頭を下げた。
「ほんとに……私、ついて行かなくて大丈夫?」
ホン・ヘヤ: 「はい。私たちの村、外の人は入れないんです。
これ以上ご迷惑はかけられません。」
彼女は妹を背負い、深く頭を下げた。
「ジウです。私の名前。」
ホン・ヘヤ: 「ジウお姉さん……本当にありがとうございました。」
少し沈黙してから、ジウはぽつりと呟いた。
「……本当に? 心からそう思ってる?」
ダリャは救えた。
もっと早く、もっと静かに動いていれば。
私は――ただ“最強のフリ”してただけじゃない?
『君が復讐を選んだから』とか、
『救いを選べば違ったかも』なんて――最低な言い訳。
……何様のつもりなの、私。
項垂れる彼女に、ヘヤが静かに微笑んだ。
ホン・ヘヤ: 「感謝してます。
あなたがいなかったら、私も、ダリャも、他の子も……助からなかった。
そんな人を……どうして憎めるんですか。」
ジウはそっと彼女の頭を撫でた。
「……ありがとう。君の方が、私よりずっと大人だね。」
ヘヤたちは森の向こうへと歩き出した。
ジウはその背中が見えなくなるまで立ち尽くしていた。
空を見上げ、ふと笑う。
「……やっぱり、復讐より救いの方が似合うかも。」
【星の星位が『復讐を選んだ子に、自分を重ねてるのか?』と尋ねます。】
『ち、違うし。……うるさいな。』
「さて、と。帰らなきゃ。」
【星の星位が『聖痕閉じて、体に負担かけるなよ』と告げます。】
『はいはい……って、え?』
【星の星位が『外出バレたら、お母さんに怒られるぞ』と続けます。】
『……は?』
『星さま! それを先に言ってよ!!』
慌てて木の上を飛び越え、一直線に山を駆け下りる。
入り口には、あの僧侶が待っていた。
僧侶: 「散歩、楽しめましたか? 時に、歩くことで“新しいもの”が見えるものです。内でも、外でも。」
「……はは。じゃあ、僧侶様は何を見たんです?」
僧侶: 「“因”、そして“縁”。
あるいは――“王”までも、かもしれません。」
「やっぱり、仕組んでたでしょ。最初から。」
僧侶: 「何のことでしょう……?」
「まあいいや。世の中、私より自由に生きてる人もいるし。
もう怒る気も失せた。」
僧侶: 「そうそう。お母様の修行は延長されたそうですよ。」
「……助かりました。バレずに済みそうです。」
部屋に戻ったジウは、硬い床に寝転がった。
「うぅ……やっぱ床固い……」
そう呟きながら、すぐに眠りへ落ちた。
――数時間後。
扉が開く音。
お母さん: 「ジウや、修行終わっ……あら、この子、また寝てるの? 起きなさい!」
頬をつん、とつままれ、ジウは顔をしかめた。
「うぅ……パクお母様……眠い……」
――こうして、波乱万丈の四日間の修行は幕を閉じた。
ジウは再び、喧騒の世界へと帰っていった。
【塔攻略状況】
国家:アメリカ合衆国(27階)
国家:日本(17階)
国家:韓国(13階)




