【第16話】救いよりも復讐を
「……助けて、ください……」
血まみれの少女が木の陰に立っていた。
息は荒く、全身に無数の傷。だが、その瞳だけはまだ光を失っていない。
「ここで何してるの? そのケガ……」
少女は唇を震わせながら答えた。
「わ、私は……ホン・ヘヤ……です……」
【スキル:文書化を使用します】
【対象:ホン・ヘヤ】
名前:ホン・ヘヤ
年齢:13
等級:D級
特性:魔術師
星位:光の星位
「ホン・ヘヤ、ね。……何があったの?」
その瞬間、後方から怒鳴り声が響いた。
「見つけたぞ! こっちだ!」
「逃げられると思ったか、クソガキ!」
「言ったろ、ランクの低いガキは足を折っとけって!」
ジウの瞳が一気に冷えた。
血まみれの少女、そしてそれを追う男たち。
状況は明白――幼い覚醒者を拉致し、搾取する連中だ。
「……なるほど。これが“星さま”の言ってたことか。……少しムカつくね。」
ジウはヘヤの目線に合わせて膝をついた。
「ねえ、ヘヤ。君は“救い”を望む? それとも“復讐”を望む?」
ヘヤの瞳に宿る光が、憎悪の色に変わる。
「……救い、なんかいりません。復讐を……!」
ジウはその表情を見て、微笑んだ。
「そう――救いはセルフサービス。」
男たちが怒鳴る。
「おい、誰だあの女は!?」
「また逃げたガキか? いや、魔力が強すぎるぞ!」
ジウの唇が吊り上がった。
「……やっぱり、アンタらの巣はここね。」
男が縄を放ち、瞬く間にジウの腕を縛り上げる。
だが彼女は抵抗せず、静かに笑った。
【星の星位が『あぁ〜うちの子、また危ない真似を……』と呟きます。】
『大丈夫だって、星さま。どうせ連中の本拠地を探るつもりだったし。』
ヘヤ: 「ご、ごめんなさい……私のせいで……」
「気にしないで。君の復讐、私が手伝ってあげる。」
縄で縛られたまま、ジウは連中に連れられ山の奥へと進んだ。
崖下にぽっかりと口を開けた巨大な石門――そこが奴らの“巣”だった。
「チッ、信号は出しただろ。まだ開かねぇのか。」
「10分前だっつーの! 使えねぇ連中だな!」
「……ここが入口、っと。」
ジウが呟いた瞬間――
ブチィッ、と縄が裂けた音が響いた。
「な、縄が……!?」
「ボサッとしてんな! 捕まえろッ!」
ドゴォン!
一瞬で一人が地面に叩きつけられ、床がめり込んだ。
もう一人が刀を抜くが、ジウの掌が軽く空を払う。
【スキル:破空掌を使用します。】
バァンッ――!
石門が粉々に砕け散った。
風圧で砂塵が渦を巻く。
ヘヤは思わず息を呑んだ。
恐怖と同時に、胸の奥に熱い何かが灯る。
「ヘヤ。ここで待ってて。――君の“復讐”、私がやってくる。」
「……お願いします。中に、妹が……ホン・ダリャが囚われてるんです。」
「ホン・ダリャね。分かった。すぐ連れてくる。」
崖の奥、地下へと続く通路を進むと――
そこは、巨大な地下採掘場のような空間だった。
だが、これはただの鉱山ではなかった。
鎖に繋がれた子供たちが鞭で打たれながら働かされ、
鉄檻の中では子供たちがモンスターと戦わされている。
床一面には血のように赤い魔法陣。
「……最低。」
「侵入者だ! 捕まえろ!」
「構うな! 殺せ!」
四方から兵たちが押し寄せる。
ジウはただ一言、呟いた。
「蟻の群れと変わらないね。」
【スキル:圧倒を使用します。】
空気が爆ぜた。
見えない重圧が落ち、全員が膝をつく。
「……“誰に雇われた”んだ? ここが終わりじゃないんでしょ。」
一人が絶叫して突っ込んでくるが、剣は髪一筋すら触れない。
宙に止まり、時間が止まったようだった。
「まあいい。――今日でここは終わり。」
【スキル:絶命震を使用します。】
ドオォォォン――!!!
轟音とともに壁が崩れ、数十人が吹き飛ぶ。
赤い警報が点滅し、スピーカーが叫ぶ。
「警報! 侵入者発見! 全員、配置につけ――!」
「撃て! 殺せぇぇぇ!」
銃、刀、槍、盾――すべてが意味をなさなかった。
ジウはその全てを滑るように避け、一人、また一人と沈めていく。
【スキル:無明斬を使用します。】
一閃。
音より速い斬撃が走り、悲鳴だけが残る。
その背に矢が飛ぶ。
だが――矢はジウの魔力に捕らえられ、宙で止まった。
「おじさん、それで当たったと思った?」
矢を放った男は、恐怖に腰を抜かした。
「……化け物……」
地下最深部。
そこには、巨大な鉄の扉が一つだけ存在した。
赤く脈打つ魔法陣が扉を包み、鼓動のように揺れている。
「……ここが最奥。」
手を伸ばし、扉を押す。
ギィィィ――
重い音と共に開いた先は、広大なホールだった。
天井の魔石が血のように光り、中央には一人の男が立っていた。
「ここまで来るとは……お前は何者だ……」
「お前がこの場所の首か?」
「そ、そうだ。金が欲しいんだろ? 望むだけやる……!」
「金のために子供を使う? ……くだらない。」
「当たり前だ! この世は金だ! 理想も信念も、腹は満たせねぇ!」
彼の足元――魔法陣が光を放つ。
『システム通知:魔法陣〈魔力封鎖〉が発動されました!』
ジウのスキルが途切れ、魔力の剣が粉々に砕け散った。
「ハハハハ! 余裕ぶってた罰だ!
魔法陣が完成する前に俺を殺せなかった、お前の負けだ!」
「……子供の魔力を吸って、こんなものを作ったのね。」
「魔力を封じられたお前に何ができる!? その折れた剣で俺を倒すか!?」
ジウは砕けた刃の欠片を拾い、男を見据えた。
男: 「さあ――戦ってみろ!
この〈キバ〉様の手にかかって死ねること、光栄に思え!!」
【塔攻略状況】
国家:アメリカ合衆国(27階)
国家:日本(17階)
国家:韓国(13階)




