【第10話】ゲリラダンジョン編(1)
数時間前、学園。
静かに勉強していた教室に、突然――ゲリラダンジョンが発生した。
「……この感じは……」
『 緊急! ゲリラダンジョンが生成されました! 』
「はぁ……最近ツイてないな……」
ため息をついたチョン・ジウは、窓の外をちらりと見てから、
何事もないように立ち上がり、トントンと外へ歩き出した。
普通の人間なら、一度巻き込まれたら脱出不能。
だが、ジウは例外だった。
どんなダンジョンであろうと、彼女に“扉”という概念は存在しない。
ゲリラダンジョンの攻略法は二つ。
ひとつ、内部の市民を救出すること。
ふたつ、ボスを討伐してゲートを閉じること。
ジウはしばらく考えた。
本当は家に帰ってウェブ小説を読みたかった。
だが、すでに外では「家族がダンジョンに閉じ込められた!」という噂が広まっているはずだ。
(さて、選択肢は二つね。)
今すぐ行って、あとで「たまたま巻き込まれた」と言い訳する。
もしくは「勉強中に偶然、ダンジョンに飲み込まれた」と言う。
(もちろん二番……チッ。)
【 星の星位が「“勉強中”は言いすぎだろ」と突っ込みます。 】
(黙ってて、星さま……今はイメージ管理が大事なんだから。
ウチのパク女史がどれだけ怖いか知らないでしょ……)
肩を回しながらジウは小さく呟いた。
(ま、危険に陥った人を放っておくのは私らしくないし。
見なければ気が楽だったんだけどね……)
――そしてまた、
チョン・ジウは“面倒ごと”へと足を踏み入れた。
(考えてみれば、私って“力を隠した最強主人公”ポジションじゃない?
……全部、あのペク・ドユンのせいだ。変なことばっか言って、世界が滅ぶだの何だのって……)
その頃、遠く離れた場所でペク・ドユンは耳を掻いた。
(……誰か、俺の悪口言った?)
――少し後、ダンジョン突入前の待機エリア。
「この建物の構造をよく知っている方はいませんか?」
消防服を着た救助隊長が拡声器で呼びかけた。
(来た、ゲスト枠。)
ジウはすぐに手を挙げた。
「はいっ! 私、この学園の生徒です!」
「そうですか! お名前は?」
「ジウです。チョン・ジウ。」
「ジウさん、それではこのダンジョンのゲストとして同行していただけますか?
特別支援金も支給されますし、安全は我々が保証します。」
普通の人間なら恐れて断るだろう。
だが、チョン・ジウは――違った。
「分かりました。一緒に行きましょう。」
その時、後方から誰かが走り込んできた。
「すみません! 遅れました!
ギルド《カエサル》から来ました!」
(カエサル……デウスが所属してたギルドね。
このメンツは……第5部隊くらい? 魔力はD級、せいぜいE級ってとこ。)
身元確認が終わると、隊長が手際よくブリーフィングを始めた。
「私は救助作戦を統括するキム・チョルです。
ハンターの皆さんは私の指示に従ってください。
市民の救出完了後、最終目標はダンジョンクリアです。
ゲストは――こちらのチョン・ジウさん。」
ジウは無表情のまま周囲を見回した。
その中に――見覚えのある顔があった。
(あの男……渋谷ダンジョンで見た剣士じゃない?
なんでA級ハンターがこんな所に……?)
ハンター部隊の中に、明らかに異質な存在。
しかも、身分を名乗らない。
(何か……臭うわね。)
(ま、とりあえず観察しよう。)
こうしてチョン・ジウは、
またひとつ、予想外のダンジョンの扉へと足を踏み入れた――。
【塔攻略状況】
国家:アメリカ合衆国(27階)
国家:日本(17階)
国家:韓国(12階)




