表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/34

【第9話】ペク・ドユン

「……それ、その名は誰にでも軽々しく呼べるものじゃないけど。」


しかし、怪しげな男は無言のままジウを見つめているだけだった。


(あー……コイツ、私だって分かった上で呼んだな。)


ジウは内心で舌を打ち、ゆっくり口を開く。


ジウ「お前、本名は?」


ペク・ドユン「……ペク・ドユン、です。」


【スキル:文書化を使用しますか?】

【ペク・ドユンの文書を確認します】


名前:ペク・ドユン

年齢:22

等級:A級

特性:魔剣士

星位:予言の星位


(……?! 予言……?)


ペク・ドユン「たぶん、少し長くなります。

ここで続けるのは……あまり。別の場所で話しませんか。周りの目もありますし。」


ジウ「……ついてきて。」


ジウはためらいなく、ペク・ドユンを人目の少ない路地へと連れていった。


【スキル:真実の眼を起動します】

――いまから、ペク・ドユンの発言が真か偽か判別できます。


ペク・ドユン「……カフェに行くのかと思いましたけど。」


ジウ「どっちでもいい。長話するつもりはないから。

――で、アンタ何者?

ちょっと珍しい星位を信じて、ひと稼ぎでもしに来たわけ?」


ペク・ドユン「そんなつもりなら、とっくに訪ねてます!」

ペク・ドユン「ご存じの通り、私は“予言の星位”と契約しています。

眠ると未来が視える。けれど“必ず”起きるわけじゃない。未来は変えられる。

……ただ、一つだけ絶対に変えられない流れがある。」


彼は息を整え、硬い表情で告げた。


ペク・ドユン「――世界が、滅びます。」


ジウ「はぁっ?!」


(また面倒なのが……なんで私のところにばっか来るのよ……)


表情を殺し、ジウは素っ気なく問う。


ジウ「詳しく。そう簡単に世界が終わるわけないでしょ。

今のハンター戦力でも、並のダンジョンブレイクは止められる。」


ペク・ドユン「私たちは――ダンジョンやモンスターで滅びるのではありません。」


(今、“私たち”って言ったわね。)


ペク・ドユン「ハンター、そして国家間の――戦争です。」


ジウ「……何だって?」


ペク・ドユン「今の“塔”は、ゲームで言えば“チュートリアル”。

戦い、殺し合う術を学ぶ段階にすぎません。」


ジウ「じゃあ、50階をすべて攻略したら?」


ペク・ドユン「ええ。攻略した国家は、他国の“塔”を奪えるようになる。」


ジウ「……攻城と防衛、ってわけ。」


ジウはスッと男を見返した。

“真実の眼”は、嘘を一つも検知しない。


【スキル:真実の眼を終了します】


ジウ「――いいわ。信じる。

で、どうして私を?」


ペク・ドユンは、毎夜見る夢の光景を思い出す。

巨大なドラゴンに跨り、空を裂く背中――この人、王。


ペク・ドユン「“王”だから、です。」


ジウは瞬きを一度。

善でも悪でもない王。偽善は嫌うが、困っている者を見捨てない。

そんな彼女が、なぜ滅びの果てに立っているのか――ペク・ドユンには分からなかった。


ペク・ドユン「私は毎日、未来を変えようと足掻きました。

けれど、この世界線だけはどうしても変えられなかった。」


ジウ「だから私を巻き込んで、流れを捻じ曲げたい――そういうことね。

結局、要件は?」


ペク・ドユン「お願いします。」

ペク・ドユン「“王”を前に取引を持ちかけるつもりはありません。ただ……」

ペク・ドユン「――人を守らなければならない。

**B級ランカー『デウス』**が必要です。」


ジウ「B級? S級でもなく?」


ペク・ドユン「“剣の極みに至った者”として知られています。

B級ですが、星位と契約していない純粋な剣士。

ギルド〈カエサル〉の象徴のような存在です。

……ですが先日、彼は“死体”で発見されました。

それから列島は不穏に傾き……おそらく他殺。」


ジウ「……そいつを見つければいいの?」


ペク・ドユン「はい。」


ジウ「分かった。身元が取れたら連絡する。」


ペク・ドユン「……え? 本当に?!」


あまりにあっさりした承諾に、ペク・ドユンは目を丸くする。


ジウ「“見つけたら連絡する”って言ったでしょ。――じゃ、私は行く。」


ペク・ドユン「は、はいっ……! ありがとうございます!」


(星さま、まだコイツ私を見てる?)


踵を返したジウが心の中で囁く。


【星の星位が、嬉しそうに拳を握って笑っています】


(……じゃ、)


(逃げる!!!!!!)


(私、ウェブ小説歴五年だよ!? 正義感は強い、顔は整ってる、有能サポーター枠――

どう見ても私だけが苦労する未来じゃん!)


心の中で絶叫しつつ、ジウは家の近所のコンビニへ着いた。


(ふーっ……今日の危機を回避した私、えらい!

 アイス食べて帰ろ~)


ご機嫌でアイスを手に帰路についた、その時――


「ひゃああああっ!!」


家の前にいたペク・ドユンを見つけ、ジウは猫のように跳ね上がった。


ジウ「な、なにっ?! どうやって私の家を――!」


ペク・ドユン「……夢で、見ました。」


ジウ「はぁ!? 夢で見たからって家の前は非常識でしょ!」


(……こんな性格だったっけ?)

一瞬たじろいだ彼は、すぐに深く頭を下げ直す。


ペク・ドユン「本当に……切迫しているんです。

このままだと、私だけじゃなく――チョン・ジウさんも酷い目に遭う。」


そして、その場に膝をついた。


(……?!)


ペク・ドユン「どうか……お願いします。」


――偽善は嫌いでも、不義は見過ごせない。

チョン・ジウは、ちょっとやそっとの嵐では揺るがない。

……ただし、太陽みたいな真っ直ぐさには、案外弱い。


「……はぁ。」


ジウは頭をかき、ため息一つ。真っ直ぐ答える。


ジウ「一度だけだよ。

私が手を貸すのは、たった一度だけ。」


ペク・ドユン「っ……! ありがとうございます!」


(ああいう目をする子、ホント……人の心を甘くするのが上手いんだから。)

ぶつぶつ言いながらも、もう差し伸べてしまった自分の手が恨めしい。


【星の星位が「一度だけならいいだろう?」と首をかしげています】


(星さま……小説、あんまり読まないんだね?

こういう“きっかけ”ができると、結局ずっと手を貸す羽目になるの。)


(それにしても――ハンター名は“デウス”? 二つ名は“神”?

まあ、剣の極みに達したなら納得だけど。)


(星さま、星位と契約しなくてもB級まで強くなることって、あるの?)

【星の星位が「稀だけど、皆無ではない」と答えます】


(……じゃ、まずはそいつを探すか。)


そうして日常へ戻ろうとした――が。


ポツ、ポツ――


(……デウス? ここにいる?)


突如、予備校の中に“ゲリラダンジョン”が開いた。

そして、その内部に――デウスがいた。


(いやいやいや……“剣の極み”って、普通は山奥で隠遁してるもんじゃないの?!)




【塔攻略状況】


国家:アメリカ合衆国(27階)

国家:日本(17階)

国家:韓国(12階)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ