第五章
あたしはあるお休みの日 目撃してしまった。真臣君が女性と歩いているのを‥あたしの動きが止まりそのまま立ち尽くすしかなかった。通りの向こう側を見つめたまま…気持ちが一気に落ち込む…真臣君はあたしに気づかないまま通り過ぎて行った。
次の日からあたしは、真臣君の事を諦める為に登校時間を変えたり真臣君の教室の下を通らずに昇降口に行ったり、遠くに真臣君の姿が見えると側を通らないようにまわり道をしたりしていた。
そんなある日 冴草君があたしの事を好きな人がいるって‥その人と付き合ってみないかって言ってきた。
その人は白河君だった。
「悟の奴 中三の時から東条の事が好きだった。でも高校も離れ もう会えないと思っていたら、バスケの試合で偶然会って自分の気持ちを再確認したんだって言ってた。」
「そんな急に言われても‥」
「彼氏とかいるのか?」
「いないわ‥でも‥好きな人はいる‥片想いだけど‥その人彼女いるけどね…だからといってすぐに諦められる訳じゃないの…」
「わかった。悟にはそう伝えておく‥じゃあな。」
「じゃあ…」
その週末 文化祭の公演の為の部活に出た帰り、白河君が待っていた。二人で近くの公園に行き、話しをする事にした。
「ゴメン 最初から自分で来るべきだったね‥透から話しは聞いたよ。それでも俺は東条と付き合いたいと思っている。俺との付き合いを考えてくれないか?」
「そう 言われても あたしは 自分の気持ちに決着をつけられないでいるのよ。いくら中学の時に仲が良かったといっても、もう暫く会ってないし‥それにあたし自身 中学の頃と随分違うと思うわ‥だから白河君のもっている中学の頃のあたしのイメージと異なっていると思うよ。」
「それは お互いに言える事だよ‥俺だって中学の頃から見ればかなり違うと思うよ‥」
「でも‥」
「東条が好きな人を諦められないでいる気持ちは良く分かる。俺自身 東条への気持ちをずっと持っていたんだから‥それでいいんじゃないのか‥それが普通だと俺は思うよ…それが誰かをただ好きだったという想い出に変わるのか…それとも何らかの変化があり動いていくのか‥それは分からないけどな…」
その言葉は、真臣君を諦めようと必死になってもがいて余計 絡みついてしまったあたしの想いに響いて心を‥想いを‥解き放してくれた。
白河君は続けた。
「俺の場合 動いていく方だったみたいだ‥だからこそ俺はこの時を俺に与えられたチャンスだと思ってこうして東条に会いに来ている。しばらく会ってないし‥今は好きな人がいるから彼女として付き合えないと言うのなら友達として付き合い始めようぜ…俺との時間が好きな人を忘れていられる時間になればと思っている。そして三月になったら改めて考えてくれないか?」
白河君が真正面から真っ直ぐあたしに問いかけたのが分かった。
「その時まだ あたしが好きな人を忘れられないでいたら‥」
「それはそれで仕方ないと思う‥」
「分かったわ。それでいいのなら‥」
あたしは白河君と会う事で、少しでも真臣君の事を忘れていられる時間ができるならと思ってOKした。
「サンキュー 嬉しいよ‥それで早速なんだけど、今の俺を知って貰う為にも今度の休み 会わないか?」
「いいわよ‥」
十時に駅で待ち合わせの約束をして別れた。
家に帰って部屋でふと思い出した。
(誰かを好きだったという想い出に変わるのか、変化があり動いていくのか分からない)
白河君の言葉が蘇る。あたしの場合は想い出に変わる方なんだろうな…あたしがいくら真臣君を好きでも‥彼女のいる真臣君にあたしの想いは届かない‥それは分かっていても真臣君への想いは今はまだ変わらない。それでいいんだ‥あたしはこの想いをいつか想い出に変わるまで持ち続けるんだ‥あたしは思った。
次の日 仲良しの三人に白河君に告白された事を言ったら‥
「白河君 やっと言ったんだぁ!」
三人が声を揃えて言うから
「知ってたのぉ?」
って聞いたら
「中学の時 皆んな知ってたよ‥何 ユウカ気づいてなかったの?」
礼菜が言った。
「うん…」
って答えたら
「うんってユウカ そういう事に関しては鈍感だよね‥あれだけ白河君と仲良く遊んだり話したりしてたら気づくよ。」
眞弓のズバッとした指摘…
「だって仲良く話すと言っても皆んなもそうしていたじゃない‥あたしは他の皆んなともそうだったし‥それにあの頃からあたし杉城さんの事好きだったんだもの‥仕方ないじゃない。」
「特別な感情を持つ相手として見てなかったって事ね。で 今回はどうするの‥?」
由季が言う。
「断るつもりだったケド‥」
あたしは白河君との会話をかい摘んで話した。そして最後に言った。
「杉城さんには彼女がいる‥でも杉城さんを想う事は自由だよって、この間 礼菜が言ってくれた。だから杉城さんを好きだという気持ちは大切にしたい‥それと同時に杉城さんの彼女への想いも、彼女の杉城さんへの想いも大切にしたいと思うの。」
「それって 杉城さんの事 諦めるって事?」
眞弓が聞いた。
「無理に諦める訳じゃないわ‥いつか あたしのこの気持ちが想い出に変わる日を待つ事にしたの。」
あたしは答えた。
「それで 白河君とは‥?」
礼菜が聞いた。
「白河君が友達として始めようって‥自分と会っている時間があたしにとって、好きな人を忘れていられる時間になればいいと思っているって‥そして三月になったら改めて考えてくれればいいって‥その時まだあたしが他の人を好きでもそれはそれで仕方ないって…そう言ってくれたから友達として始める事にしたの。」
「そこまで言われたら断れないよね。」
眞弓が呟くように言った。
「白河君 中々やるわねっ‥」
由季の声に礼菜も頷いた。
「とっても暖かい言葉だった‥でも白河君は‥辛かったと思うわ。」
あたしは 白河君にそこまで言わせてしまった事に心が痛んだ。
その場の空気が少し張り詰めた。
「やっと分かるようになったのね。白河君の気持ちが‥それもあたし達の指導のよさのおかげよネ。」
由季がその空気を和ませるようにすこし戯けて言った。
「そうよ‥ユウカを指導するのは大変だったんだから‥」
眞弓が由季に合わせるように言う。
「本当‥でもあたし達が優秀だから良かったのよ。」
礼菜も言う。
「はぁい。ありがとうございまぁす‥これからも その ご指導を下さいな。」
あたしは戯けて言う。
「ええ安心して まっかせなさい!」
その眞弓の言葉に皆んなして笑った。




