第三章
「あれ 由季ちゃん 偶然だな。」
と言いながら楡井さんが入って来た。
「楡井さん お一人ですか?」
由季が聞いた。
「後からバスケ部の連中が来るよ。きょうの試合で勝ったから皆んなでお祝いさ。」
(バスケ部!もしかして真臣も‥)
単純なあたしは今までの憂鬱な考えも消えて嬉しくなった。きょうはとてもhappy な日だわ。
まもなくドヤドヤとバスケ部の人達が入って来た。
「おーい ここだ。」
楡井さんが呼んだ。
何と隣の席に皆んな座り出した。
わぁーどうしよう‥嬉しいような恥ずかしいような不思議な気持ちだわ。隣りに真臣君が座ったらどうしよう。
あたしは恐々とバスケ部の人達を見回した。
アレッ!真臣君がいない!どうしたんだろう。
あたしがそう思っていると楡井さんが聞いた。
「真臣は?」
「ああ 真臣なら女生徒に呼び止められてたよ。後から来るって言ってた。あいつモテるからなぁ。」
(やっぱりモテるんだ…)
そう思うと 今までの嬉しさが何処へやら‥何となく落ち込んでしまった。
ちょっと遅れて四、五人が入って来た。
「後は 真臣だけか‥先に始めようぜ。」
楡井さんがそう言った時、バスケ部の誰かが言った。
「博 隣りの女の子達 うちの生徒だろう。それにお前の後輩もいるらしいから、一緒に入ってもらおうぜ。なんといっても男だけじゃつまらないだろう?」
賛成の声が続いた。あたし達 四人は顔を見合わせた。
「連中が ああ言っているんだが いいかい?」
楡井さんが聞いた。
由季がどうする?というようにあたし達を見た。皆んな頷いた。
「いいですよ。あたし達で良ければ‥」
由季が答えた。
ヤッターというように拍手がわいた。
由季の隣りに自然に楡井さんが座り、バスケ部の人達と 何人かの友人を紹介してくれた。そして由季を紹介し 由季があたし達を紹介してくれた。あたし達はペコッと頭を下げた。
「早坂さんって バレー部だろ。たまに体育館で一緒になるよな。そういえばこの前の試合でスパイクをバシバシ決めてたよな。凄かったぞ‥」
なんて声が聞こえて眞弓はニッコリ笑って
「ありがとうございます。」
って答えていた。
眞弓って結構 目立つ人なのよね。スポーツ万能って感じかな‥
「南田さんは美術部だったよね。確か去年 賞 取ったでしょう。」
またひとりの人が言った。
「はい。高校美術展で、優秀賞をいただきました。」
礼菜が言った。
そういえばその後 美術室に少し飾られていたのよね。〈春〉っていう題の絵だったと思ったわ。その絵を見ているとお花畑の中にいる様な感じがしたっけ‥淡い色の花‥遠くに霞がかかっている山‥その中を飛び回っているたくさんの蝶‥とても幻想的な絵だったのを覚えている。
そんな事を思いながらも あたしはチラチラと入り口を覗っていた。真臣君の姿を求めて…
「織川さん‥この間の文芸部の文芸誌に詩が載っていたね。とっても綺麗な詩だったね。」
「ありがとうございます。」
由季が言った。
そう綺麗な調べを持った詩だった。あんな綺麗な言葉 どうやって考えだすんだろうって思っていたら
「東条さん。この間の演劇部の定期公演 良かったよ。俺 感激しちゃった。」
「そうそう 俺も見た。あの公演 出ていたよね。」
突然言われ あたしはびっくりした。それでも
「はい。出ていました。見てくださったのですか‥ありがとうございます。これからも 頑張りますのでまた見にきて下さい。」
としっかり答えていた。でも以外だったあたしを知っているなんて…そして結構 いろんな人が公演を見にきてくれているんだな なんて思ったりした。
そのうちあたし達四人を囲むようにバスケ部の人達が座り出した。
最初に冴草君があたしの隣りに座って色々話しかけ出した。それを見て誰かが
「冴草 東条さんとどういう関係だ。冴草の想い人だったりして…」
なんてからかいだした。あたしが慌てて
「中学の同級生なんです。三年間同じクラスだったんで 仲 良かったんです。ただ それだけの関係です。そんなとんでもない事は言わないで下さい。冴草君のファンの子達に殺気をもって睨まれてしまいます。そうなったら困りますから…」
と否定した。
そこで笑いが起こり 皆んな注文した物を片手に持ちながら、あたし達を囲むように座りだしたのだ。
楡井さんは最初のまま由季の隣りを確保していた。
そうやって二人が並んでいるのを見て、とってもお似合いのカップルだなって思った。そこへ
「悪い 悪い 遅くなって…」
って言いながら真臣君の到着
ワァー真臣君だ。嬉しいー心の中で叫んでいた。
「やっと来たな‥先に始めてるぞ‥」
楡井さんが言った。
真臣君はあたし達の方を見ながら
「これは どういう事かな‥俺のいない間に女の子を誘うなんて ずるいぞ」
って言っていた。
楡井さんがあたし達を真臣君に紹介しだした。たった一回で顔と名前を一致させていた。楡井さんがあたしを紹介しようとした時
「彼女は知っている。アレッ優香 俺以外の男の隣りはダメだって言ったよな」
そう言いながらあたしと冴草君の間に割って入った。
「えっ!」
あたしは 隣りの真臣君を見る。頭の中は真っ白だった。
「真臣 どういう事だよ。」
「もしかして…」
「ああ もうずっと前から…なあ ユウカ」
真臣君がわざとからかってるのが分かる。
「もう 杉城さん。からかわないで下さい。皆さん冗談ですよ冗談…信じないで下さい。」
「信じるか 信じないか それは皆んなの判断に委ねるって事でよろしく!」
そう言って笑った。皆んなの笑い声も一緒になる。
そして試合の話しになる。やはり一番の話題は真臣君のロングシュートだった。
あの時の彼の姿は忘れないだろうとあたしは思う。隣りの真臣君は時々あたしに呼びかけ皆んなとの会話にあたしを入れ楽しく過ごさせてくれた。真臣君を見ると大体 視線を合わせてくれる。なんか恥ずかしいけど嬉しかった。いつも片側に真臣君の暖かさを感じている。何かホッとした時間を過ごした。
皆んなと別れて帰る時、方向的に真臣君と一緒だった。同じ方向の人達も何人かいたけど途中で別れ最終的に真臣君と二人になった。あたしは何を話していいのか分からずに黙っていた。やっと思いついたのが
「杉城さんてモテますね。きょうの試合の時の応援の凄さには驚きました。」
(何 言ってんのあたしは…気を悪くしたらどうするの‥)
そう思いながら言葉になったのはそれだった。
真臣君は笑いながら
「でも ユウカも応援してくれたんだろう‥ユウカの声 聞こえたぞ。」
どうしようなんて思いながら咄嗟に答えた。
「あのっあたし もともと声が大きいんです。それに演劇もやっていますから、そのせいかもしれませんね。」
「演劇といえば この間の公演 見に行ったのに気づかなかっただろう‥」
(えっ 真臣君 来ていたの)
あたしは驚いた。
「はい 知りませんでした。わざわざ見に来て下さったのに‥どうもすみません。」
「謝らなくても大丈夫だよ。それより その話し方 何とかならないか。冴草や同級生と話している時は全然違うよな。」
「えっ それは‥やはりその‥杉城さんは先輩ですから」
「じゃ こうしよう。二人で話している時や親しい友人と一緒の時はその話し方をやめて、自然に話す事‥それでどうだい」
「はい」
あたしは嬉しくなって、微笑みながら返事をした。
「ところで きょうの試合 どうだった?」
「杉城さん凄く素敵だった!特に最後のロングシュート‥あたし 背中がゾクッとしました。友達なんか鳥肌がたったなんて言ってましたよ。」
「そうか‥だから言ったろ 期待してていいって‥」
「はい だからあたし たっぷり期待しちゃってました。」
真臣君はニコッと笑うと昔からの仕草で、あたしの頭を軽くポンポンと叩いた。何か子供扱いしてるなって気がしたけど、それがとても心地良かった。




