眠れることへの安堵感の対価は、ある種の恐怖で
記憶が確かなら、一週間ほどはその流れで過ごしていたと思う。とにかく半強制的にでも寝て回復しなければ、倒れかねない状態だったようだから。
最初は薬が効いていたはず。そこそこの時間まで眠れていたと思う。
が、一週間を過ぎたほどで、変化が出てくる。
意外と早い段階で目が覚めてしまう。
徐々に、初日ほどの時間の睡眠を得られなくなっていく。睡眠の質も悪くなった。
それでもまるっきり眠れないよりはいいのだろうと、そのまま薬を使って次の通院日を迎えた。
ちなみに治療開始直後の通院の間隔は、およそ二週間。
初日よりは睡眠時間が短いにしても、その後の経過を報告。その後、そのまま継続か否かの話になった時に告げられたのは、投薬量を増やすこと。
入眠の方には問題がなさそうなのに、眠っても長く眠れない。それでは仮眠と大差なく、投薬をしている意味がなくなっていると言われた。
話し合いの結果、倍量の薬を処方してもらい、体調に問題があるかないかの報告をまたすることに。
……と、ここで問題が生じてくる。
眠れるようになりはしたものの、薬が体に残っているのか、何とも言えない重さとダルさが体にあるようになった。
日常の家事をやっていても、買い出しに出かけていても、体がどんどんダルくなってツラくなる。
ボーッとしたりもしていたよう。
これはマズいんじゃないかと様子見をしつつ、自己判断で薬を飲んだり飲まなかったりで調整。
そうして次回の通院時に、自己判断はよくないと自覚しつつ正直に報告。
すると、まったく別の薬を処方されることになった。
レンドルミンは変更なし。変わったのは、サイレースからベンザリンという薬へ。
前回、薬を増量することになったキッカケは、いわゆる中途覚醒というものがあったから。
寝ても起きてしまう。それはよくない。
中途覚醒向きといわれているものだからと、その薬を出してもらい使ってみることにした。
薬が効いたのか、今度は眠れるようになった。
ところが、通院をして二か月も経っていないのに、薬が飲めなくなった。
原因は薬で眠る時の感覚が怖くなったことと、先に書いたように家族の用事や都合を先に聞いたりをしておいたはずが、そのツケというか尻拭いみたいなものが多発したのもあった。
睡眠障害の治療に入る前の生活といえば、過保護なまでに家族の翌日の準備の確認に付き添ったり、家族それぞれがその時々で抱えていることに向き合っていた。
話を聞いてと言われた時にはそちらを優先し、それまで同様に全員に時間を割いて一緒に悩んだりした。
特に子どもたちは年齢的に難しい時期でもあり、悩みがあってもなかなか口にはしてくれず。
無駄に強めの正義感と責任感が、もしもの事態を許さない。
自分の体調のせいで気づきませんでしたとは言いたくなく、話を聞いてほしそうであれば、そのチャンスを逃すことは許せなかった。
逃せば、いつまでも飲みこむか不要な遠慮をされて、悩みが悪化した頃に本人が体調を崩す形で悩みを知ることになったり。
それは自分の中では許せない、過去の失態の一つ。
二女が中学時代に抱えていたことを、高校入学後に聞かされてからそう思うようになった。
打ち明けられた内容が、思いのほか重たいものだったから尚更。どうしてその時に気づけなかったんだろう。苦しんでいた時に、声を掛けられなかったんだろう。今更なのに、何度も脳裏に浮かぶ後悔だ。
といっても、自分だけが親じゃない。旦那という、父親も存在するわけで。
存在はすれども旦那がその手の話を子どもから聞くことは難しい。その理由が、話を聞きだすための会話が何故か不思議なことに、途中から旦那本人の話になってしまう。
結果的に相談しようと側が、誰の話をしていたのか困惑するわけだ。
子どもの話が聞けない性分の彼は、子どもたちの悩みをどうこうする以前の問題児だった。
混乱だけを招いて、悩みが増えかねなくなることも少なくなかった。それと、ガッカリもさせてきた。
話を聞いてくれると思ってたのに、と。
そういうことが続くと、母親たるあたしが聞く以外の選択肢がない。
もちろん、その話を自分だからと打ち明けてくれること自体が嬉しかったので、その状況そのものは悪くない。
その気持ちに応えたいと思えたからこそ、自分の睡眠時間を割いてでも話を聞期待と思ってもいたから。
けれど、それよりももっと大きな問題として割合を占めていたのが、その……子どもたちの悩みを聞けない大人。
旦那という、あたし以外で唯一の大人である彼がやらかすことだ。
なんて長ったらしい文章なんだろう。どう表現すればいいか、ものすごく悩んで書けたのがこれってどうなんだ。
睡眠がまともに取れなくなった一番の原因は、旦那=彼の存在。
いろんな意味で悩みの種となって、何度となく足を引っ張られた。
最初のクリニックと、その次のクリニック。その二か所では、眠れない原因に向き合うことはせず。とにかくまずは睡眠をとりましょうという方針だったから、尚更かもしれない。
最終的に原因がハッキリしたのは、最後のクリニックに通うようになってから。
旦那の何がどう問題で、睡眠を削られるような生活になっているのか。
体の方がその事実に先に気づいたけれど、心の方で自覚が出来ていなかったんだと今は理解る。