第六話 『青春のカレーライス』
土曜日の夜が再び訪れ、「ふるさと亭」はいつものようにディストピア世界へと姿を現した。おじさんは淡々と厨房で準備を整え、客が来るのを待っていた。
やがて、店の扉が開き、一人の若い男性が勢いよく飛び込んできた。彼の名はユウマ。政府の厳しい規制下で感情表現が制限される中、若者らしい情熱を押し殺し、淡々と日々を過ごしていた。
「ここに昔の料理があるって聞いたけど、本当?」
ユウマの目は期待と不安で揺れていた。おじさんは優しく頷いた。
「もちろんさ。何を食べたいんだい?」
ユウマは少し躊躇しながらも、思い切って言った。
「カレーライスを食べてみたいんだ。昔の小説で見て、どうしても食べてみたくなった」
おじさんは笑顔で頷くと、すぐに野菜を切り始め、カレーの準備に取りかかった。厨房から漂うスパイスの香りが店内を満たすと、ユウマの心はさらに高鳴った。
カレーライス。その言葉には、若者らしいエネルギーや情熱が込められていた。ユウマは幼い頃、隠れて読んだ小説に登場したこの料理が、ずっと心に引っかかっていたのだ。
「はい、どうぞ」
差し出された皿には、鮮やかなカレーと真っ白なライスが美しく盛られていた。ユウマは緊張した面持ちでスプーンを持ち、一口食べた瞬間、スパイスの香りと甘み、そして辛さが一体となって舌を刺激した。
「すごい……こんな味があるんだ!」
ユウマは感動のあまり目を輝かせ、何度もスプーンを口に運ぶ。心の中で抑えていた感情や情熱が爆発的に溢れ出してきた。
「これが青春ってやつなのかな……。なんだか胸が熱くなってきたよ」
彼の瞳にはかすかな涙が浮かび、溢れ出した感情を抑えることができない。
おじさんは温かく見守りながら言った。
「その通りさ。料理には人生の一瞬を切り取って、心に焼きつける力があるんだ。君が感じているその熱さを忘れないでくれ」
ユウマは大きく頷きながら、笑顔で皿を空にした。
「絶対に忘れないよ。また絶対に来るから!」
彼は力強く言い残し、店を後にした。
おじさんはその後ろ姿を静かに見送り、穏やかな微笑みを浮かべる。こうしてまた一人、「ふるさと亭」は未来の人々に新しい希望と情熱を届けることができたのだった。