第四話 『思い出の焼き魚』
再び週末が訪れ、「ふるさと亭」は未来世界にタイムスリップした。おじさんはいつものように、慣れた手つきで料理の準備を進めていた。
夜の静寂を破って、店の扉がゆっくりと開かれ、一人の中年男性が入ってきた。彼の名前はカズヒロ。かつては漁師として海と共に生きてきたが、環境破壊により漁業が禁止され、今では合成食品工場で働いていた。
「こんばんは……ここで昔の魚料理が食べられると聞いたんだが、本当か?」
カズヒロの声には、かすかな期待と同時に疑念も混じっている。おじさんは柔らかな笑みを浮かべて頷いた。
「焼き魚なんてどうだい?新鮮な鯖が入ってるよ」
「鯖か……いいな。それを頼むよ」
おじさんは鯖に軽く塩を振り、丁寧に網の上で焼き始める。香ばしい匂いが店内を包み、カズヒロは遠い日の記憶に心を馳せた。
漁師だった頃の朝、仲間と一緒に獲ったばかりの魚を浜辺で焼き、その味を楽しんだ。あの頃は厳しい生活だったが、仲間との絆や海への敬意が確かに存在していた。
「はい、お待たせ」
皿の上に乗った焼き魚は、皮がパリッと焼け、湯気と共に香りが立ち上っている。カズヒロは一口食べると、その旨味と脂の乗り具合に感動した。
「この味だ……! まさにこれが、俺たちが愛した海の味だ」
思わず涙がこぼれる。合成食品工場での味気ない日々が一瞬で遠のき、忘れていた漁師時代の喜びと誇りが胸に蘇った。
「海を守り、命を頂くことの大切さを、もう一度思い出したよ。この気持ちを失いたくない」
「いいことだ。自然の恵みに感謝して食べる、それが料理の本質だからな」
おじさんの言葉に、カズヒロは深く頷いた。
「ありがとう。また来るよ」
そう言ってカズヒロは立ち上がり、穏やかな笑顔を浮かべて店を出た。
彼を見送りながら、おじさんは小さくため息をつき、再び厨房に立つ。こうしてまた一つ、料理が人々の心を繋ぐ架け橋になったことに喜びを感じつつ、次の客を待つのだった。